エピローグ

 マルヴィナは、本拠地であるローレシア大陸のグラネロ砦には帰らず、ゴンドワナ大陸の最大都市ゴンドから川を下ったさらに南にある大きな港町に滞在していた。


そこから、今度は南半球にある大陸、パンゲアへ渡るのだ。

思えば、ゴンドワナ大陸もあっという間にうまくいってしまった。この調子だと、次の大陸も、暗黒大陸と呼ばれ一見手ごわそうだが、すぐに何とかなりそうな気がしてくる。


だが、マルヴィナは心のどこかで、全てが都合よく行き過ぎている、という思いも芽生えていた。

特に、自分以外の人間たちも有能で優秀だと思うが、ゾンビの面々が傑出している。


ヨエルが覚醒したときに現れる剣士ディートヘルムは、長時間戦うのは苦手そうだが負ける相手がいないようにも見える。


グアン将軍は大きな体でひとりでも強そうだが、十万程度までの軍隊を率いて活躍することができる。だが、マルヴィナがそれ以上に凄いと思うのが、植物を早く育てる力。

彼の存在により食料の心配がほとんどなくなってしまったのだ。


マルーシャ女王は自分の考えがとても及ばないようなところで知恵を巡らし、国家レベルのことをいとも簡単に進めてしまう。軍隊すらいらないのではと思わせる。


ピエールの錬金術は国家レベルでお金の問題を解決できる。そしてそれだけでなく、彼はふつうに優秀で計算が早いので、お金で準備したものを計画的に各地に配備する才能がある。


さらにすごいのは、他の人間たちも含めて、それらの能力が非常に巧妙に組み合わさって機能しているところだ。だから、いきなりできた国がすぐに成長してすべてうまくいくのもなんとなく納得はできるのだが。


だが、かえってそれが不安を呼び起こさせる。国づくりとは、そういう風に都合よくいくものではなく、もっと泥臭い、土臭いものなのではないか。

もっと長期間の必死な努力が必要なのではないか、今の状況は、ある意味で砂上の楼閣のような、風が吹けば飛んで消えるようなものなのではないか。


国造りの経験はまったくないと言ってよいのでよくわからなかったが、自分の中にそういう風に問いかけてくる部分があることを、マルヴィナは否定できなかった。

強固な大地のごとく、せっかくここまで来たのなら、国を泥や土で固めていくことができないだろうか。


立場が皇帝とは言え、特に何の力もない自分がそんなことを無駄に考えても仕方がないのだろうか。窓の外、海から吹いてくる風が、徐々に強さを増してきていた。

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マルヴィナ戦記3 赤熱の大地と錬金術師 黒龍院如水 @Josui

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