第157話 これはどういう技術だ!?

 魔王アルミエスは武装工房車に狙いを定める。


「『魔封の短剣マジックシール』はあの中か」


 その行く手を阻むように、アリシアとエルウッドが前に出る。


「ふたりともダメだ! 近づきすぎると【クラフト】にやられる!」


 おれの忠告に、ふたりはアルミエスとの距離を開けざるを得ない。


 代わりにノエルとラウラが魔法を使う。


 進もうとするアルミエスの足に、土が張り付いていく。


「ほう、なかなか。魔法も使い手が増えたか」


 余裕の笑みを浮かべるアルミエス。


「シオン! 俺の鎧を使え!」


 バーンが叫ぶ前に、おれは走り出していた。


 おれが武装工房車に乗り込むと、ソフィアもほぼ同時に乗り込んでいた。


「ショウさん、手伝います!」


「ありがとう、急ごう!」


 おれたちは整備途中の強化倍力鎧パワードアーマーを急いで組み立てる。幸い、時間がかかる部分はない。大急ぎでやれば、おれたちなら数十秒。


 ノエルたちの足止めの魔法はすぐに破られる。アルミエスが前進するのを、すぐべつの魔法で足止めをする。ノエルとラウラの魔法のレパートリーも大したものだが、それらを数秒で解除してしまうアルミエスの実力も底知れない。


 アルミエスが目前に迫ったとき、おれたちは強化倍力鎧パワードアーマーを起動。


 武装工房車を飛び出し、アルミエスの前に降り立つ。


 ソフィアはすぐ武装工房車を後進させてくれる。


 アルミエスは強化倍力鎧パワードアーマーをひと目見て、ふん、と鼻を鳴らした。


「今の動き、身体強化魔法か? 強化幅は大きいようだが、それで私に対抗できると思っているなら、お前もつまらないやつだな」


 おれは再び訴えかける。


「魔王アルミエス。おれたちは話がしたいだけなんだ」


「話す気はない。どうせ応じたとしても、話がこじれたら『魔封の短剣マジックシール』を使うつもりなのだろう。もう封印されるのはごめんだ」


「それは本当に最後の手段だ。おれたちは、あなたのような素晴らしい技術者を失いたくない」


「お前ごときに私のなにがわかる。結局お前も、理解できもしない物をただ崇めて、利用することしか考えていないのだろう」


「そんなことはない」


「口でならなんとでも言える」


「だったら腕で認めさせてやる。この鎧で!」


「もういい。黙れ。紛い物に用はない」


 アルミエスが手をかざす。【クラフト】の間合いだ。


 人間を材料に、死体を作る。回避不能の即死攻撃。


「おれは、誰かの紛い物じゃない」


「――!?」


 アルミエスは驚いて後方へ跳んだ。


「なぜ効かない?」


【クラフト】は確かに発動したが、おれは死体にはならない。なるわけがない。


「さて、なぜかな? あなたにも理解できないこともあるんだな」


「その鎧の効果か? いや、しかし、先天的超常技能プリビアス・スキルを妨げる手段など存在しないはずだ」


「ではおれに効かないのを、どう説明する?」


 動揺するアルミエスに急接近する。


「くぅ!?」


 アルミエスは再度【クラフト】を使うが、やはり効果はない。


 腰に装備した短剣を抜き、振りかぶる。


「『魔封の短剣マジックシール』!?」


 アルミエスは咄嗟に両手で魔力を放った。頭部に直撃し、ヘルムが吹き飛ばされる。下手したら、首ごと飛ばされていたかもしれない威力だ。


 だがおれは痛くも痒くもない。


「中身がない、だと!?」


 その驚愕の声のとおり。おれは強化倍力鎧パワードアーマーを、。ソフィアと共に武装工房車の中にいる。


 その場にいないおれを、【クラフト】で殺すことなどできない。


 強化倍力鎧パワードアーマーは使用者の魔力を受けて自在に動く。ならば魔力を届ける方法さえあれば、着ていなくても動かすことができる。


 通信魔導器を応用して作った魔導器で、おれの魔力を届けている。ついでに声も。


 そしてヘルムがなくても、問題なく動く。


 おれはそのまま強化倍力鎧パワードアーマーの遠隔操作で、アルミエスの腕に短剣を突き刺す。


「うあ――!? 違う?」


 短剣は魔王を封印しない。


 だがその代わり、短剣に力が流れ込んでくる。【クラフト】が宿る。


「これは『技盗みの短剣スキルドレイン』か!?」


 その通り。マルタの贈り物の中にあった物だ。


 短剣を抜くと、おれはバーンのほうへそれを放る。バーンは上手にキャッチする。


「なぜ……? 『魔封の短剣マジックシール』を使えば、私を封印できただろうに」


 おれは武装工房車から降りて、アルミエスに歩み寄っていく。


「さっきも言ったはずだ。おれたちは、あなたのような素晴らしい技術者を失いたくない。ただ、あの【クラフト】だけは、おれが親友に贈った大切なものだから返してもらった」


「…………」


 アルミエスは力が抜けたように、その場でただ強化倍力鎧パワードアーマーを見つめる。


「騙してしまったようで悪いが、これでおれたちを認めてくれただろうか?」


「そんなことより、これはなんだ!?」


 両手でおれの両肩を掴み、力いっぱいに揺さぶってくる。


「身体強化魔法ではなかったのか? どうやって動かしていた? 答えろ! これはどういう技術だ!?」


 どこかおれたちに似たその反応には、同類の匂いが感じられた。





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