第150話 凄い機能があるなら、早く見せてくれないか

「甘く見るなよ、おれたちの技術の結晶を!」


 武装工房車は敵の攻撃を無傷で耐えきった。今度はこちらの番だ。


「ショウ、反撃する?」


「ああ、ノエル。せっかくだ。仮説を試そう!」


「オッケーイ」


 操縦席の傍らにある、魔力を増幅する魔導器の前でノエルが構える。


 わずかな集中ののち、ノエルが魔法を発動させた。


 増幅された魔法は、武装工房車の大砲から発射され、敵の装甲車へ直撃する。


 直後、装甲車の中で、金属が弾ける音がした。


「なんだ!? なんの音だ、どうした!?」


「こ、壊れ! 機構が壊れてしまったんです!? なんで!? もう動けません!」


「大砲はどうだ!? もう一発叩き込め!」


「ダメです! そちらの機構も動きません!」


「なんだと!?」


 兵士たちは慌てふためき、わめき合っている。


 その様子をおれたちは武装工房車の中から眺める。


「おー! 上手くいったみたい!」


「やったね。やっぱり思ったとおりだったんだ」


 おれたちは魔王軍が使う装甲車も、モリアス鋼を使っていると考えていた。となれば弱点は、こちらのモリアス車と同じだろう、と。


 モリアス車は、搭載した魔力石から魔力を受けて駆動する。不必要なときには魔力の供給をカットする機構や、流れる魔力量を調節して走行速度を変える機構がある。


 だが、外部から強力な魔力を与えると、それらの機構を無視してモリアス鋼に直接作用してしまう。本来動いてはいけないときにモリアス鋼が縮む。想定以上に。すると駆動部品はその負荷に耐えきれず壊れてしまうのだ。


 ノエルの放った魔法は、強力な魔力を供給するだけのもの。これで壊れたということは、おれたちの仮説は正しかったというわけだ。


 やがて装甲車を諦めたのか、中から数名の兵士が降りてくる。


「く、くそ! こうなったら全員で取り付け! やつらの車を奪ってしまえ!」


「来るぞ、ショウ。出るか?」


「しょうがない。蹴散らしちゃおう」


 おれとアリシアは頷き合い、素早く武具を身につける。


「ソフィア、おれたちが出たら後退するんだ。万が一乗り込まれたら面倒だからね」


「はい。ノエルさんがいてくれるので、大丈夫だとは思いますが」


「念のためだよ。よろしく」


 言って、おれとアリシアは武装工房車から飛び降りる。武装工房車は、指示通り後進していく。


 兵士たちがおれたちを取り囲む。


「降りてきたか、バカめ! 俺たちに、たったふたりで敵うと思うのか!?」


「いや、君たち全部で六人しかいないじゃないか。大した数じゃない」


「なんだと!?」


 いきりたつ兵士に、アリシアも肩をすくめて苦笑する。


「メイクリエの騎士や、スートリアの勇者の強さを知らないのか」


「まあおれは勇者だし、その中でも弱いほうだったけど」


「知らんのはお前たちのほうだ! 俺たちの鎧は魔王様謹製だぞ、どれほどの力があるか知るまい!」


 言っている間に、おれとアリシアはそれぞれ手近にいた兵士の顔面を殴り、失神させてしまっていた。残りはもう四人。


「え、なにか凄い機能があるなら、早く見せてくれないか」


 おれは興味が勝り、攻撃の手を緩める。一方、アリシアは構わず、さらにふたりを殴り倒していた。


「こ、この! 舐めるな!」


 隊長と思わしきその兵士は、一瞬の間のあと、目にも止まらぬ速度でおれに突進してきた。回避しきれず、おれは隊長に捕まってしまう。


 その勢いはどんどん加速していく。やがて勢いの角度が上方へ変わり、急激に上昇していく。


「空を飛んでる!? 凄いな! 君の鎧の機能かい!?」


「そうだ! 叩き落してやる! 惨めに潰れて死ねぇ!」


「そうはいかない。落ちるなら一緒に来てもらう!」


 おれは逆に、左手で相手の腕をしっかり捕まえる。そして右手の槍を手の中で反転。石突を隊長の鎧に押し当てる。


 すると推力が失われ、上昇は緩やかになり、すぐ落下し始める。


「うああ!? なにをしたなにをしたなにをした!?」


 混乱し、空中で暴れる隊長。おれはその動きを押さえ、石突を当て続ける。


 実を言えば、敵の鎧に特殊な能力が備わっていることは事前に情報を得ていた。おそらく射出成形インジェクションで量産された魔力回路だ。装着者自身の魔力で作動するタイプだろう。


 だから、おれたちは対抗手段を武器に仕込んでおいた。武装工房車での移動中に。


 それが、おれの槍の石突に刻まれた魔力回路だ。魔力石は付いていないし、たとえ付いていても単体ではなんの効果も発揮しない。


 だが、石突を他の魔力回路に接触させることで、強引にこちらの回路に繋げることができる。その効果は、魔力の遮断。


 つまり、触れている魔力回路の効果を無効化してしまえるのだ。


 地上が近づいてくる。おれは石突を、相手の鎧から離す。


 魔力回路が復活し、推力が戻る。


「直った!?」


 隊長は姿勢を整え、推力を上方へ向け、落下速度を減速させる。


 地上ギリギリで上昇に転じるが、その瞬間、おれは隊長の顔面をぶっ叩いた。


 隊長が失神したことで魔力供給が途絶え、鎧の推力は再び失われる。隊長は大の字で地面に放り出された。おれはその近くに着地する。


 見れば、アリシアは残りの兵士もすでに殴り倒していた。他の兵士は鎧の魔力回路を作動させる暇もなかったのだろう。


「ショウ、無事だったか」


「まあね。冒険者時代に大型の鳥の魔物と何度も戦った経験が活きたよ」


「兵士は大したことなかったが、装備はさすが魔王といったところだったな」


「はい。さっそく検分しましょう」


「って、ソフィア? いつの間に?」


 武装装甲車で後方へ下がったはずのソフィアが、なぜかもうすでにいて、隊長の鎧を剥がし始めている。


「おふたりが勝つのはわかっていましたら。さあ、お楽しみの時間ですよ?」


 おれは思わず笑ってしまう。


「そうだね。魔王の技術、見せてもらっちゃおう」





------------------------------------------------------------------------------------------------





読んでいただいてありがとうございます!

お楽しみいただけているようでしたら、

表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )の

左上青色の★をクリックして、評価していただけたら幸いです!

作品フォローもいただけたらさらに嬉しいです!


応援いただけるほど、執筆を頑張れそうです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る