第111話 番外編⑯ 償う者の戦い

 戦争が始まってから、バーンのいる診療所へ運び込まれる人間の数は、軽く見積もっても十倍に膨れ上がっていた。


 人手だけは【クラフト】で補うことができたが、資材も予算も足りない。満足な義肢を与えてやることなんて不可能だった。


 足を失った者には、棒切れに毛が生えた程度の義足を。腕を失った者には、棒切れの先にフックを取り付けた物を。


 そんな粗末な物を用意するのさえ困難を極める状況だった。


 その上、聖女からの支援が途切れてしまっている。


 外交へ行くと言っていたが、その先でなにかあったに違いない。


 目の前で剣を抜いた男の存在も、バーンにそう確信させる一因となっていた。


「やめろ! なんでここを目の敵にする!?」


 男は歯を食いしばって答えない。


 代わりに、その背後から僧侶が声を上げる。


「決まってる! 人々は祈りによってのみ救われるべきなのに、ここでは人の手で! 人造の手足などで! 救おうなどとしている! 神への冒涜に他ならない!」


「てめえ、あのときの僧侶か! ふざけんなよ! てめえらで始めた戦争で傷ついた連中ばかりなんだぞ! 神様がどうとか言う以前の話だろうが!」


「貴様も神を軽視するか! やはりここは異端者の巣のようだ! やってしまえ!」


 掛け声を受けて、剣の男がバーンに迫る。


 速い!


 バーンは咄嗟に剣で受けるが、その一瞬で、技も力も相手のほうが遥かに上だと悟る。


 二撃目を受け、バーンの剣は切断された。技量もさることながら、なんという切れ味か。


 咄嗟に身を引き、折れた刀身に柄を近づけ【クラフト】を発動させる。剣が繋がる。応急処置だが、やらないよりはマシだ。


先天的超常技能プリビアス・スキルか。ならば――!」


 男は警戒して距離を取る。そして片手をこちらに向けた。


 それが相手の先天的超常技能プリビアス・スキルだと気づいたときにはもう遅い。


 バーンはみずからの影に絡みつかれ、身動きが取れなくなる。


 おそらく影を自在に操る【シャドウ】という技能スキルだ。聞いたことはあったが、技能スキル持ちとの戦闘など初めてだ。対処法など思いつかない。


 男は剣を構え、トドメを刺すべくじりじりと近づいてくる。


「だめ! やめてーー!」


 バーンの前に走り出ようとして、転んでしまったのはレジーナだった。


 おぼつかない様子で立ち上がり、両手を広げてバーンを守ろうとする。


「どけ、レジーナ! 危ない、離れてろ!」


「どかない! バーンはわたしが守るもん!」


「俺は平気だ! だから下がってろ! お前がこれ以上傷ついたら俺は……!」


 迫りつつあった男は、うつむき、剣を下ろした。


「……お前は、なぜここでこうしているんだ?」


「あぁ?」


「答えろ。なんで、そこまでして抗うんだ。神罰を恐れないのか」


「へっ、罰ならもう受けたんだぜ……。神様ってのは意地悪だよなぁ、罪人は俺なのに、罰を他の人間に負わせやがった……」


 バーンの目がレジーナの右足――義足に向く。男は、それで察したようだった。


「そしたらよ、聖女様にここに連れてこられた。ここには、俺なら救えるって人がいた……。ここで償えってことなんだろうよ」


「……そうか。お前も、導かれたということか……」


 男は剣を鞘に納める。【シャドウ】も解除して、バーンを自由にする。


「おい! なにをしてる! 教皇のご意思に逆らうのか! お――ぐっ!?」


 男は無言で僧侶の顔面を掴んだ。口が塞がれ、僧侶は喋れなくなる。


「私が従うのは、神のご意思だ」


 言った瞬間、男は腕を振り抜き、僧侶の頭を床に叩きつけた。僧侶は気絶して動かなくなる。


「……あんた、なにやってんだ?」


「迷いが晴れた……。聖女様は、教皇の下にいるべきではない……!」


 男はバーンの前にひざまずき、謝罪の意を示す。


「私の名はリック。聖女様を囚えてしまった張本人です」


「聖女様を囚えただと!?」


「教皇の命で、メイクリエからの特使とともに、大神殿にお連れしました。今頃は軟禁されていることでしょう」


「なんでそんなことするんだ。聖女様はこの国の象徴だろう?」


「民の意志を統一するためです。この国を維持するために必要だからと……。ですが、教皇の考えは間違っている! 神の救いを得るには、祈りだけでは足りないのだ。その先が必要なのだ!」


「……宗教的なことはわからねえけどよぉ。なあリックさん、あんた、聖女様がどこにいるかわかるんだな?」


「ええ、もちろんです」


「なら案内してくれ。この国のこともよくわからねえけど、少なくともこの診療所にゃ、聖女様が必要だ。自由にしてやろうぜ」





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