第103話 離れていても信じ合えるって

「ええぇ、海水淡水化装置って、あなたたちが作ったの!?」


 スートリア神聖国へ向かう船の上で、ラウラはびっくりして声を上げた。


「そうそう。アタシが困ってたら、ショウとソフィアが手伝ってくれてねー」


「あの頃はまだボロミアくんも悪いやつで、妨害とかされてちょっと大変だったよね」


 当時を思い出しながら、おれはノエルと笑い合う。


「いや、こんな凄い発明をそんな気楽に話されても……。【クラフト】も失くしてたのに、よく作れたわね」


「理論自体はノエルがもう作ってあったしね。それに、おれの考えを形にしてくれる人がいたからさ」


「それがシオンの奥さんの、ソフィアさんね? どういう人なの?」


「それはもう可愛くて綺麗でさ。一見すると表情に乏しくて冷静クールな印象なんだけど、実は結構お茶目で冗談が好きで、よく『なんちゃって』なんて言って楽しませてくれるんだ。それに腕のいい職人で、なにより情熱的なんだ。物作りに挑戦する姿勢とか、真剣に製作に向かい合うときの姿が美しいとか」


 ソフィアのことを話しているうちに、なんだか自然と笑顔になってしまう。


「すっごい惚気けるじゃない」


「惚気けてるかな? 紹介してるだけなんだけど……」


「あなたがべた惚れしてるっていうのは、顔でわかったわ。あれ、でもそれだと……」


 ラウラは遠慮がちに、ノエルになにか耳打ちした。


 ノエルは、あっけらかんと笑い飛ばす。


「大丈夫。失恋なんてしてないわ。そりゃ一回は振られちゃったけど、アタシもショウの婚約者だし」


「は?」


「ちなみにアリシアとも婚約済み」


「え? なに? 不倫宣言? べた惚れしてる奥さんがいるのに? なに考えてんの?」


 ラウラの視線が物凄く冷たく鋭くなる。


「いや、メイクリエ王国の貴族は、一夫多妻が義務なんだ。だから、その、見ず知らずの人より……おれを好いてくれていて、おれも……そういう気持ちになれる人と……ね?」


「ふーん」


「いやもうその目やめてよ。おれも悩んだけど、ソフィアが一番望んだことなんだ」


「まあ本人たちが納得してるならいいけど。天然人たらしらしい結果ではあるわね」


「天然人たらしっておれのこと?」


 ノエルはクスクスと笑う。


「言えてるー♪ でもでも、そう言うラウラはどうなのさー? エルウッドとはどうなのさー?」


「ええー、ここであたしに振ってくるの?」


 そこにひょっこりと、アリシアが顔を出す。


「私も気になるので、一緒に聞かせてもらっていいだろうか?」


「ちょっと待って、アリシア。口調、口調」


 ノエルが指摘すると、アリシアは「あっ」と口元に手をやる。


 スートリア神聖国への潜入に当たって、あまりに貴族というか騎士らしすぎるアリシアの口調は目立つ。普通の女の子らしく喋ってもらおうと決めたのだった。


「えぇと、じゃあ改めて……。わ、私も気になるから、恋バナ、一緒に聞かせて欲しいな」


「うん、そうそう♪ なんかアリシア可愛い~♪」


「べつに聞いてもいいけど、恋バナかなぁ? 期待するような話にならないと思うわよー」


 賑やかになっていく女の子たちから離れて、おれは船首のほうへ行く。


 ソフィアがいるであろう土地は遠く、まだ見えてこない。


「……ずいぶん元気が出てきたな」


 声をかけてきたのはエルウッドだ。


「ちょっと前までは心配で余裕がない感じだったのに、今は笑う余裕があるみたいだ」


「船に乗ってる以上、焦っても仕方ないし……それに、やることを決めてみると落ち着くっていうか……きっとソフィアも、なにか考えて行動するだろうし……だとすればきっと道は重なるからさ。心配なんていらないって思えてきたんだ」


「ノエルとアリシアも、それは同じなんだろうな」


「たぶんね」


「離れていても信じ合えるってのは、いいもんだな。思えば『フライヤーズ』には、そこまでの絆はなかった……」


「今は違うさ。君やラウラとも、そういう仲間になれると思ってる」


 互いに微笑み合う。心地のいい友情の沈黙があった。


 やがてエルウッドはべつの話題を切り出す。


「……ところで、シオンって呼んでていいのか?」


「ん? ああ、別名を名乗ってたのは、おれが生きてるってジェイクに知られたら、また襲われるかもしれなかったからなんだけど――」


 今となっては、その別名のショウのほうが、おれの本名だと思えているが。


「――あの頃ならまだしも、今の彼はろくな装備もないらしいからね。襲われても大した脅威じゃないし、そもそも彼がスートリアへ行くとは思えない。犯罪者が逃げ込むならもっといい国があるしね。だから、シオンと呼んでくれていいよ」


 むしろ今回は、ショウと呼ばれるのを避けたほうがいいくらいだ。


「わかった。しかし【クラフト】は惜しかったな。あんなやつに奪われて」


「実はそうでもないかな。そりゃあ無くしたときはショックだったけど、あれは何でも作れはするけど、一度に大量には作れない。今やってることや、したいことには、大して役に立たないんだ」


「そうか。お前が気にしてないなら、それでいいんだ」


 もっとも……【クラフト】で物を壊す方法に気づかれてしまったら危険ではあるが……。


 船上の日々は、ゆっくりと過ぎていく。


 やがて目的地が見えてきて、おれは旗を掲げるよう指示を出す。


 おれが持っていた勇者の紋章を描いた旗だ。


『フライヤーズ』加入以前の記憶とともに、おれたちはスートリア神聖国へ上陸する。





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