第101話 わたしが愛している方ですから

 ソフィアは、サフラン王女と聖女セシリーとともに船室に監禁されていた。


 唯一の扉には鍵をかけられ、外には常にふたりの見張り。そもそも部屋を脱したところで、海の上では逃げ場はない。


 ソフィアは早々に、脱出は諦めた。


 部屋自体は賓客のために用意されたものらしく、居心地は良い。


 今はふかふかのソファに身を預けながら、状況を整理している。


「申し訳ありません。まさかこのようなことになるなんて……」


「気にしないでください。聖女様のせいではありません」


 ソフィアたちは護衛団とともに港町へ入り、そこで停泊中の船に乗る予定だった。しかしその船が見当たらず、代わりの船を手配することになった。


 代わりの船はすぐ見つかったのだが、その船には船員に紛れて教皇派の勇者たちが乗り込んでおり、出港してまもなくして護衛団は制圧されてしまった。


 そうしてソフィアたちは監禁された。同行していた枢機卿は別室だろう。


 おそらく護衛団の中に間者がいたのだ。乗る予定だった船は、さすがに聖女を乗せずに帰ったりはしないだろうから、べつの港町に停泊するよう偽の命令でも出されたのだろう。


「教皇派の方々は、なぜ聖女様まで監禁なさっているのでしょうか?」


「聖女様が象徴として人を惹きつけるからだと思いますわ。手元にさえ置いておけば、本当なら反対されるような行いであっても支持を得られるのです。聖女様のご意志に関わらずに」


 サフラン王女の答えに、ソフィアは納得する。


「この場合は戦争ですね」


「はい。おそらく、聖女様のお名前で勝手な大義名分が公示されてしまいますわ」


「奪う以外の道も、あったというのに……」


 聖女セシリーは先ほどから俯いたままだ。


 慰めたいが、なにも見えていない今ではかける言葉もない。


 ソフィアは現状把握を続ける。


「わたしとサフラン様は、人質ということになるのでしょうね」


「はい。メイクリエが協力しないことは、聖女様がご来訪される時点で予測されていたのでしょう。そこで聖女様ともども要人を捕え、身の安全と引き換えに要求を呑ませようとしているのだと思います」


「セレスタン王は、それでも拒否するでしょうね」


 サフラン王女は、落ち着いた様子で頷く。


「はい。返還交渉はするでしょうが、あくまで協力はしないでしょう」


「かといって、救出部隊を送るというような、あからさまな武力行使もしないのでしょうね」


 うんうん、と頷きながら、ソフィアは情報を飲み込んでいく。


 メイクリエ王国は動けない。


 でもきっと、愛するショウは動くだろう。


 行方不明の報に取り乱し、動けない王国に憤り、でもノエルやアリシアになだめられて、きっと冷静さを取り戻す。


 冷静になったショウなら、なにか手段を見つけるに違いない。


「……ふふっ」


「ソフィア姉様?」


「すみません。ショウさんがどう動くのか、なんとなくわかってしまって、嬉しくなってしまいました」


 こんな時だというのに、顔がにやけてしまう。


「姉様は、ショウ様がなにをすると思いますの?」


「はい。当初の予定通り、スートリアに物作りをしに行くと思います」


 聖女は驚いて顔を上げた。


「まさか」


「戦争の原因がスートリアの貧困にあるなら、その原因を解決すれば止められるはずです。そしたらわたしたちを人質にする理由もないので帰してくれるでしょう」


「理屈ではそうかもしれませんが、一度始まった戦争が、それだけで止められるとは思えません……」


「ですが、少なくともきっかけにはなります」


「教皇派は、私たちの考える産業による発展を否定する方々です。失った手足を補う義肢さえ否定するのです。私が教皇派に囚われてしまった今、物作りはただ難しいだけでなく、大きな危険が伴う行為です」


「そんなこと、わたしのショウさんには関係ありません。ショウさんは、必ず来ます」


「どうして、そこまで確信できるのですか」


「わたしが愛している方ですから」


 ショウを想うと勇気が湧いてくる。ソフィアはその気持ちのまま、サフラン王女と聖女セシリーに宣言する。


「そういうわけですので、わたしはこれから、間接的にショウさんたちのお手伝いをしようと思います。おふたりのお力も、お借りしたく思います」


「なにをするおつもりなのですか?」


「聖女様の影響力をお借りして、教皇派の方々に物作りを受け入れてもらえるよう、内側からアピールしましょう」


「彼らの考えは、スートリア教の教義に基づくものです。変えられるものでしょうか」


「聖女様のお言葉と、納得できる解釈があれば良いと思います。なので……」


 ソフィアが目を向けると、サフラン王女は目を輝かせる。


「それならわたくしにお任せください。教義の解釈なら得意ですわ」


「聖女様も、それでよろしいでしょうか?」


「……はい。このままなにもしないよりは、あなたの愛する方に望みを託したく思います」


 聖女は自信なさげだが、頷いてくれる。


「理想は脱出してショウさんたちに合流することですが……それは機会を見ておいおい考えましょう。さしあたっては……」


 ソフィアは船室の扉のほうを見やる。


「この船の中に、味方を作りましょう」


 ソフィアはさっそく行動を開始した。





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