第73話 基本防御力試験を開始する!
ついにやってきた性能試験日。
おれたちは試験用のサンプル品を必要数納め、試験開始時間を待つばかりだった。
「よく逃げずに来たなぁ、ショウ。それにソフィア・シュフィール」
そこにケンドレッドがやってくる。顔に浮かべるのは不敵な笑みだ。
「こっちは最高の仕上がりだぜ。お前ぇらはどうだ?」
「こちらも最高の出来ですよ。負ける気がしない」
「へっ、そりゃあいい! それでこそ叩き潰し甲斐があるってもんだぜ!」
おれたちが挨拶を交わしていると、急に試験会場が騒がしくなった。
試験会場は、小さなコロシアムのような形になっている。中心の柱に盾を固定し、試験官が様々な攻撃を加えて、盾がどこまで耐えられるかを試験する。
安全のため試験官以外は、見学席のある上階から見下ろすことになる。おれたちのような工房関係者の他にも、噂を聞きつけてやってきた野次馬が数多くいる。
その見学席の一画には、自分たちの権力を誇示するかのように飾り付けた席を用意した者がいる。ヒルストンと職人ギルド長だ。
騒ぎは、その席の周辺で起きていた。ヒルストンたちが立ち上がり、ひざまずいて自分たちの席を譲ろうとしている。
「あれは、陛下!?」
アリシアが驚きの声を上げた。
上質ながら派手すぎない服装の、銀髪の初老の男性は遠慮なくヒルストンの席に座った。
その隣のギルド長の席には、きらびやかなドレスを身にまとい、桃色がかった金髪の可憐な少女が座る。
「第三王女のサフラン様もいらっしゃるのか」
アリシアはメイクリエ国王のもとへ足早に向かう。おれたちもケンドレッドも、彼女のあとに続く。
平伏して丁寧に挨拶すると、国王は威厳のある髭に覆われた口を、穏やかに開いた。
「久しいな。アリシア・ガルベージ。息災のようだな」
「はっ。まさか陛下がお出でになるとは思わなかったゆえ、歓待の準備もできておらず、申し訳ございません」
「よい、不要だ。それよりレンズの大量生産の噂を聞いたぞ。よもやその工房にお前がいるとは嬉しく思う。新技術の開発、大儀である」
「勿体ないお言葉です」
「そのお前たちと、名門ペトロア工房が性能試験で雌雄を決するそうではないか。これほど興味深いものはない。双方の技術の粋、しかと見せてもらおう」
「はい。最高の品をご覧に入れましょう」
「それはこちらのセリフだ。期待しててくんな、陛下」
軽口を叩くケンドレッドに王は小さく笑い、それからヒルストンに鋭い視線を向ける。
「して、リチャード・ヒルストン。アリシアたちの新技術について、なぜ余に報告しなかった?」
ヒルストンはひざまずき、深く頭を下げたまま答える。
「はっ。それは……報告するほどのものではなく……いや、陛下にご報告いたしますならば、やはり武具の領域で充分に見極めてからと考えまして……」
「そのための此度の性能試験か?」
「その通りでございます」
「リチャードよ。本質を見よ。よしんば武具に応用が利かずとも、あれほどの生産力だ。使い道はいくらでもあるとは思わぬか?」
「……仰る通りでございます」
「お前の強い希望で監査官に任命したのだ。目が節穴では困る。余の期待を、よもや裏切るまいな?」
「ははっ。励みまする!」
「まあよい。アリシア、ケンドレッド。今回それぞれが用意した盾に、どのような新技術が使われているか余に説明せよ」
「はっ。私たちの盾には、先に大量生産に成功したレンズと同様の技術が用いられております。寸分もたがわない同じ品物を、百個でも千個でも連続して作れる技術です。今回の盾は、ひとつにつき一分少々で生産しております」
まずアリシアが答えると、国王は満足げに頷く。
「うむ。ケンドレッド、ペトロア工房の新技術とは?」
「俺たちのは新技術というか、新工法だ。盾をひとつ作るまでの工程を、ほんの一動作レベルにまで細分化して、それを順番に大量の人間にやらせる。これまで熟練の職人がほんの数人で作ってた物を、大人数のど素人で作るってわけだ」
「ほう、それも面白い。人足はかかるが、職人を育てずとも高性能を維持し、大量生産が可能となるのだな」
「可能だが、どこまで細分化して、どんな順番で作らせるかを考えるのは結局、専門の職人だぜ。そいつの熟練度次第じゃ、クソになるのが欠点だ」
「しかし今回は最高の品を持ってきたのだろう。期待しておるぞ」
それから王は、周囲のみんなに号令をかける。
「みなの者、準備に戻るがいい。余は胸が躍っておる。新しき物を見るのが待ちきれぬのだ」
国王の前でひざまずいていた試験官たちも、一斉に動き出す。
そうして国王の眼下で、性能試験が開催される。
「基本防御力試験を開始する!」
試験官が宣言して、おれたちの盾が試験会場の中心にある柱に固定される。
打撃、斬撃、刺突といった物理的な攻撃を加えて、防御力を評価する試験だ。
手始めにとばかりに、試験官はメイスで軽く打撃を加えた。すると、おれたちの盾は、音もなくメイスを跳ね返す。
「なんだ、今の感触は? 柔らかいような、固いような……」
驚く試験官の様子に、国王がにやりと笑みを浮かべる。
「ほう、金属ではないな。これが新素材とやらか。面白い……!」
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