第144話 20年前の話 2

 ナオコを異世界に閉じ込め、エネルギーを利用し、ダンジョンの崩壊を防ぐ。

 それが異世界の神の狙いだ。


 神の使いである黒い影に、そんな話をされたナオコは当然、従うわけはない。

 彼女は強力な冒険者、黒い影と戦うことも考えた。

 しかし、黒い影は言った。


 もしナオコが断れば、ダンジョン崩壊を防ぐために人間のエネルギーを求め、トンネルを使い人間界と異世界を繋ぐ、と。

 しかし、それはダンジョンのバランスを崩すため、最終手段だ。


 ナオコは自分が異世界であるこのレベル100のダンジョンに留まり人間界を守るか、モンスターに人間界を滅ぼされるかの選択を迫られた。


 理不尽な申し出だが、ナオコは異世界に留まるしかなかった。

 ナオコは最後に一度だけ人間界に戻りたいと言った。

 黒い影はナオコがそのまま逃げ出す心配はしていなかった。

 ナオコが逃げれば、人間界が滅ぶからだ。ナオコが1番恐れているのはそれだと異世界の神は分かっていた。


 ◇


「う、嘘だろ……? ナオコにそんなことが……」

 怒りで震える金剛寺。


「異世界の神……? クソ、ふざけるなっ!」

 机を叩く虎石。


「ああ……そしてナオコは最後にこちらに戻ってきた時に、この話をアタシだけにしたんじゃ。

 そして、この事は絶対秘密にしてほしいと」


「な、なんでだよ……! ナオコのバカ野郎!

 俺たちにも話してくれれば……」

 悔しそうな金剛寺。


「この話を金剛寺たちが知ったら何が何でも止めただろう?

 そうすればモンスターがトンネルを通じ人間界にやって来てしまう……

 ナオコが異世界に囚われていると知ってもお前たちなら、なんとしてもレベル100の扉を探し出し、助けに行くだろうと。

 だからナオコは自分が行方不明と言うことにしたんじゃ。この世界と……お前たちを守るためにな……

 あの頃のお前たちではレベル100のダンジョンなんて行った日には瞬殺じゃ」


「……うぅ、バカ野郎……」

 泣き崩れる金剛寺。


「ナオコは特に金剛寺には言わないでくれと念を押されてな……婚約者だったお前にはな……」


「え!? ナオコさんは店長の……婚約者!?」

 衝撃の事実を知ったアキラたち。

 金剛寺が昔話を語りたがらなかったのはこのせいなのだろう、と思ったアキラ。


 20年越しに婚約者の悲しい秘密を聞いた金剛寺は憔悴した様子だ。


「金剛寺……黙っていてすまなかった」


「うぅ……遅ェんだよ……もっと早く知っていたらっ! 今更、そんなこと知ったって……」


「金剛寺! いつまで泣いてるんじゃ!」

 老婆が金剛寺を怒鳴りつける。


「なぜ、今はアタシがこの話をしてるか分かるかい?」


「うるせェババア……な、なんでだよ……?」


「やっと……やっと、ナオコを……孫を助け出す準備ができたからじゃよ!」

 老婆はニヤリと笑う。


 言葉を失う金剛寺。

「……ナ、ナオコは生きてる……?」






★★★★★★★★★

お読みいただきありがとうございます。

フォロー、評価★★★、コメントを頂けますと大変励みになります。

よろければお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る