第124話 武者小路さん

 その頃、アキラと花子はダンジョン省を訪れていた。


 虎石に、昨日のゴブリン討伐とうばつの説明だ。

 とは言っても、まどかが一撃で倒したため、特に話すこともなかった。


「ご苦労だった。とにかく、一般人や君たちが無事でよかった。

 しかしゴブリンか……以前はスライムが多かったが、確実に少しずつモンスターは強力になっているな……」


「そうですね。スライムなら子供でも倒せますけど……ゴブリンは凶暴ですからね。

 それもあんな街中に……」


「あの……ゴブリンはどこから現れたんでしょうか?

 昨日、ゴブリンが現れた近くにダンジョンはありませんよね?」

 花子が尋ねる。


「そうなんだよ。人間界に現れるモンスターがどこから発生しているのか、まだ分かっていないんだ……

 そもそも、モンスターは異世界でしか生存できない。

 人間界にいる事自体おかしいんだが……

 近くにダンジョンがあれば、そこから逃げ出してきたのかと考えられるが、そういうわけではないようだ」

 頭を抱える虎石。


「……となると、異世界から、突然ワープでもしてくると言うことでしょうか?」

 アキラは錬成師の老婆の言っていた『トンネル』という話を虎石にする。



「ああ、金剛寺から聞いたよ。武者小路むしゃのこうじさんに錬成お願いしてるんだって?」

「む、武者小路むしゃのこうじ!? あのお婆さんですか?」

 人のこと言えないが、苗字だな……。九アキラは思った。


「そう、あの婆さんだ。私たちの師匠みたいな人だよ。

 最近はモンスター災害のことも相談して、アドバイスをもらってるんだ。

 あの人の予知はよく当たるからね。本当に『トンネル』からモンスターがワープしてきているのかもしれないな……」


「……どうすればモンスターの出現を食い止めることができるんですか?」


「……それは誰にも分からない。

 ダンジョンができて、かれこれ30年が経つ。

 なぜできたかのかも、分かっていないままだ。

 そのダンジョンが、人間に危害を及ぼすんだったら……私はダンジョンそのものを壊すしかないと思っている……!」

 虎石は真剣な眼差しで言う。


「ダ、ダンジョンを壊す!?」


「ああ、どうすれば壊せるのか? それはまだ分からない。

 しかし、最高難易度レベル100のダンジョンに、何か秘密があるのではないかと私たちは考えている」


「レベル100……ですか」


「……まだ詳しい事は言えないが、レベル100のダンジョンの入り口も、目星がつき始めてるんだ。

 その時が来たら、君たち政府公認冒険者にも協力してもらうつもりだ。

 君たちは今まで通り冒険をして、さらなるパワーアップに努めてくれ!」


 ◇


 虎石への報告が終わった帰り道。


「あの……アキラさんの部屋のダンジョンの事や、ガチャをパスしてレアアイテムを引きやすくする裏技……

 そろそろ虎石さんたちに伝えたほうがいいんじゃないでしょうか……?」

 花子は思い詰めたようにアキラに言う。


「うん……俺もそう思ってたところなんだよ。

 モンスター災害なんて聞くと、今までみたいに俺たちだけ強くなれば、トップ配信者に近づける! なんて吞気なことを言ってられないよね……」


 もうダンジョン配信を楽しむだけの時は、終わりが近づいてきていると感じる2人だった。


『ピピピピッ!』

 その時、アキラのスマートフォンが鳴る。


「……ん? 凛??」

 電話は妹の凛からだった。


『もしもし!? お兄ちゃん? 昨日のゴブリンのニュース見た!? あの女の子って……お兄ちゃんの部下の円山まるやまさんだよね!?』


「あー……うん。そうかも……」

 キレの悪い返事をするアキラ。


『もー! なんで円山さんが『まどかチャンネル』だって教えてくれなかったのよっ!』


 やれやれ……忙しい時に面倒な電話がかかってきたなぁ。

 お兄ちゃんはそう思った。





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