第117話 ドライブ

「ああ、トンネルじゃ。異世界とこの世界を繋ぐ、な。

 今は弱いモンスターしか現れてないようじゃが……

 それはトンネルが出来たばかりで、まだ細くて小さいから弱小モンスターしかこの世界に辿り着かないんじゃないかのぅ?」


「そ、そんなことが……?」


 老婆の話はこうだった。

 異世界と人間界を繋ぐトンネル。トンネルと言っても物理的なモノではなく、ワープホールのような認識のようだ。

 モンスターは異世界からそのワープホールを通り、この世界に現れるようになったのではないかという事だ。


「アタシがそう思ってるだけじゃがな。先の短い老人の独り言じゃ」

「も、もしトンネルが広がってきたら……もっと強いモンスターが人間界に来るかも知れないってことですか? いったい何の目的で!?」

 青ざめるアキラ。


「目的は分からんよ……まあアタシの仮説が正しかったらじゃがな。

 だが、そのためにお前たち政府公認冒険者がおるんじゃろ?」

 老婆はアキラたちを指差す。


「うっ……そうです……」

「ホッホッホ、その時はアタシのことも守っとくれよ?

 さあ、アタシはもう帰るよ。とっとと錬成をしないとイカンからのぅ」


 老婆は強化石の山を見てから、アキラをチラッと見る。

「おい! 老人にこんなアイテムと石の山を持って帰れと言うのか!? お前らも手伝え!」

「は、はいぃっ!」


 ◇


 アイテムと大量の強化石を、乗ってきたアキラの車に積む。

「ふぅ、じゃあ俺はお婆さんを家まで送るよ」

「はい、よろしくお願いしますね」


「……いや、嬢ちゃん2人もついてきてくれんかのぅ?」

 老婆が花子とまとかを呼ぶ。


「え? 構いませんけど……」

「このアキラという男からスケベなオーラを感じておってなぁ。女子1人じゃ怖いんじゃよ!」

 バカなことを言い出す100歳近い老婆だった。


「じょ、女子!? 何言ってるんですか……

 ああ、まったく! もういい、花子さんとまどかちゃんも来い!」

「は、はい……」

 仕方なく付き合う花子とまどか。


「おお、ドライブか? 楽しそうじゃねェか! 俺も行こうかな!」

 車に乗り込もうとする髭モジャ店長。


「金剛寺! アンタはちゃんと店番してろ! ほら、アキラ! はよ車を出せ!」

 老婆は店長に怒鳴り出す。


「は、はい! それじゃ店長、お婆さん送ったらすぐ戻ってきますね」

「くっ、いいなぁ、お前ら……ドライブなんて羨ましいぜ!」

 悔しそうな顔で車を見送る店長。


 アキラ、花子、まどかに錬成師の老婆のドライブが始まった。

 とは言っても、家を聞くと老婆の住まいはここから5分ほどの所のようだ。


「お婆さん! 店長も連れてきてあげればよかったじゃないですか。あのお店、お客さんなんて滅多にきませんから店番なんていらなかったのに」

「ホッホッホ、なぁに金剛寺がおったら、お前らが言いづらい事があるような気がしてのぅ!」

 そう言い、ニヤッと笑う老婆。


「……え?」

 嫌な汗をかくアキラ。花子とまどかも黙り込む。


「ホッホッホ、老人はなんでもお見通しじゃよ!」




★★★★★★★★★

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