第98話 有言実行

 会場に残った30人の実力者たち。

 どの冒険者も雰囲気がある。この会場にもうザコはいないようだ。


 番号が呼ばれ、2人の冒険者がダンジョンへと足を進める。

 その背中は、さっきよりも重苦しい雰囲気だ。


「いつも使ってる武器……ですもんね。みんな防御力アップのアイテムを装備しているとはいえ、怖いですね……」

 花子は不安そうな表情だ。


 スクリーンにはダンジョン内の闘技場での戦いが映し出される。

 闘技場の周りには、先ほどのように回復魔法使いの姿が。

 そして、今回は運営のスタッフたちがいつでも止められるよう、スタンバイしている。

 どのスタッフも凄腕の冒険者なのだろう。


「それでは、始めてくれ」

 虎石が戦闘開始の合図を出す。


 今までの戦いとは違い、桁違いの緊張感。

 2人とも剣使いのようで、剣を構え、向かい合い睨み合っている。


「……すごい緊張感だ」


 緊張に耐えられなくなったのか、1人の剣士が動く。

 素早く相手に駆け寄り剣を振り下ろす。

『キンッ!』


 しかし、簡単には決まらない。

 当たり所が悪ければ、命に関わるケガをしかねない実戦だ。


「うおおお!」

 もう片方の剣士が反撃する。

 素早く振り回した剣が相手の腕を刺す。


「ぐわぁぁぁ!」

 刺された冒険者は、剣を落とし倒れ込む。


「そこまでだ!ッ」

 すぐに回復魔法使いが駆け寄り、ケガの治療をする。

 防御力アップアイテムのおかげもあり、傷は浅くすぐに治癒したようだ。


 ◇


「うう……」

 倒れ込む冒険者を見て、気分の悪そうなまどか。


「まどかちゃん……大丈夫?」

 心配そうにまどかの肩に手を置く花子。


「だ、大丈夫です……」

 とは言え、高校生のまどかにはショッキングな映像だったようだ。


「それでは、次の対戦を始める」

 次に呼ばれた番号はまどかだった。


「ま、まどかちゃん……」

「大丈夫です、花子姉さん。見ててください。私も相手も傷つけずに帰ってきますわ」

 そう言って、まどかは闘技場へ向かった。


「まどかちゃんの言ってた『私も相手も』って?」


 ◇


 まどかの戦いが始まった。

 対戦相手の男は弓使いのようで、大きな弓を持っていた。


「弓使いか……あんまり見ないタイプの冒険者だね。まどかちゃん、大丈夫かな?」

 心配そうにスクリーンを眺めるアキラたち。


 弓使いは試合が始まるとすぐにまどかから距離を取る。

 弓矢は接近戦は苦手だ。いかに離れた安全圏から矢を放てるかが勝負のポイントだ。

 男は素早く矢を装填し、まどかに向けて放つ。


『ピュンピュンッ!』

 まどかを目がけ、高速で飛んでくる矢。胸にでも刺さったら、致命傷になりかねない攻撃だ。


 しかし、まどかの目にはしっかりと矢が見えていた。

 自分の体に近づく矢を剣で叩き落とす。


「くっ……俺の矢が見えてるのかッ!?」

 男はさらに装填速度を上げるが、まどかは矢を斬りながら弓使いに走り寄る。


「ま、まどかちゃん! それは無防備すぎるぞッ!!」

 アキラはたまらず、スクリーンに向け大声を上げる。


「くっくっく……勝負を焦ったか! まだ子供だな!」

 自分に向かい、一直線に走ってくるまどか。

 弓使いからすれば格好の的だ。


『ピュンピュンッ』

 連続で放たれる矢の1本がまどかの体に突き刺さる。


「あぁ……」

 青ざめるアキラと花子。最悪の事態を想像した2人……


 しかし、矢の刺さったまどかの体は煙のように消え去った。

「な、なにぃ!?!?」

 信じられないものを見た弓使いは気が動転する。


 その時、弓使いは自分の首に冷たいモノが当たる感触に気づいた。


「ぁ……」

 声にならない声を上げる男。首に触れているのは、まどかの剣だ。

 まどかは分身に矢を受けさせ、その隙に相手の背後に回り込んだのだ。


「降参ですわね?」


「……はい」

 こうして、まどかの対戦は終わった。


 まどかは『私も相手も傷つけない』という言葉を有言実行した。




★★★★★★★★★

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