第90話 虎石ジュンジ

 ホールは中も立派な作りだった。

 集められた冒険者は100名近くいるようだ。


「あッ! アキラさん! 見てください。あの人有名な冒険者ですよ! あっ、あの人も最近人気の配信者です! エーッ! あの人までいる! サイン貰えないかしら……?」

 ダンジョンオタクの花子は周りをキョロキョロし、大騒ぎしている。


「……花子さん、意外とミーハーなんだね……」

「花子姉さん……恥ずかしいので、少し静かにしてください……」


 しばらくすると、黒いスーツを着た男たちが現れた。


「お? あの人たちが運営の人かな?」

「そうみたいですね。なんか……前に髭モジャ店長のお店で見たような人たちに似た雰囲気ですね」


 1人のスーツを着た男が話し出す。

 50歳前後の焼けた肌で高い身長、屈強な体、間違いなく一般人ではないだろう。

「ん? あの人……どこかで見たことあるような……?」

 花子がつぶやく。


「皆さん。お集まりいただきありがとうございます。

 冒険者研修の責任者を務めます、虎石ジュンジです」


「と、虎石ジュンジ!?」

 驚く花子。会場がザワつく。


「花子さん、虎石って……確か……」

「はい。虎石さんは世界で初めてレベル50のダンジョンをクリアしたパーティーの隊長だった人です!

 もう現役を引退してますが、虎石さんの戦いっぷりは今でも多くのファンがいます!」

 目を輝かせるダンジョンオタクの花子であった。


「……解説ありがとう。なるほど、元トップ冒険者が今日の研修を仕切ってるんだね」


 虎石は話を続ける。

「みんなに集まってもらったのは他でもない、既に噂が流れていて聞いたことある者も多いかもしれないが、この度『ダンジョン省』と言う新しい政府の組織ができた。

 私はそこの責任者をやっている」


「おー、噂のダンジョン省ってのは本当だったんだね」


 虎石の話はこうだった。

 ダンジョンができて30年、今までは趣味やアクティビティーの1つとして楽しまれてきたダンジョン。

 近年の盛り上がり、注目度の高さから、レベルの高い冒険者の管理や教育をし、『政府公認冒険者』という制度を設けるために作られた組織と言うことだ。


 しかし、今まで自由に冒険してきた冒険者たち、政府に管理などされたくない者もいた。


「おいおいオッサン! 俺たちは冒険者だぜ? お前らなんかに管理されてたまるか!」

 全身刺青だらけの冒険者は虎石に暴言を吐く。


「くっ! あいつ、虎石さんになんてことッ! 許せません」

「……は、花子さん、落ち着いて!」


「ははは、もちろんそれは分かっているよ」

 暴言も笑い流す虎石。


「知っている者もいるかもしれないが、俺も元々冒険者だ。冒険者っていうのは自由を求めるもんだ。それくらい俺にだって分かるさ。

『政府公認冒険者』は強制じゃない。今まで通りフリーで活動してもらっても構わない。

 とりあえず今日の研修を受けて決めてくれればいい」


「……そういうことか。俺たちはどうしようね?」

「うーん、まあ虎石さんの言うように、今日の研修が終わってから考えてみましょう?」


「それに……『政府公認冒険者』になれるのはこの中でも数名だろう……」

 虎石はそう続けた。


「え……?」


 不穏な雰囲気が流れる中、冒険者研修は始まった。

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