第64話 レベルアップ

「うーん……アキラさん、ちょっといいですか?」


 花子は難しそうなグラフや数字が並ぶPC画面をアキラに見せる。当然、アキラには理解できないものだった。


「こ、これは……? 」


「人気のダンジョン配信者を詳しく分析してみたんです。

 やっぱり人気上位の配信者たちはレベル50以上のダンジョン配信をしている配信者ばかりなんですよねぇ……」


「なるほど……これはそういうグラフなのね……」

 花子さんは良いプロデューサーだな……そう思ったアキラだった。


「私たちも今やそこそこの人気チャンネルです。でもレベル10、20のダンジョン配信では登録者はこれ以上は増えないかもしれませんね……」


『アキラちゃんねる』は今や中堅ダンジョン配信チャンネルになった。

 その辺のダンジョン配信好きなら知っているチャンネルの1つだ。しかし、やはりトップ配信者の人気、知名度、収入を比べると微々たるものだ。

 それに『アキラちゃんねる』は花子のルックスがあってこの人気だ。

 アキラはもし自分一人でやっていたら、と思うとゾッとした。


「……も、もっと配信を増やそうか?」


「うーん……もちろん、それも大切なんですけど……

 私達、今よりレベルアップした方がいいのかなと思ってます」

 真剣な表情で言う花子。


「たしかに……」


「私、正直ダンジョン配信なんて毎日しっかり配信して、そこそこ面白いトークをしてれば、そのうち人気配信者になれるんじゃないかと思ってたんですけど……あまかったですね。やっぱり視聴者が求めているのは高レベルダンジョンでの死闘です」


「高レベルダンジョンか……たしかに俺もそういう配信が好きだな。可愛い子のやってるダンジョン配信もついつい見ちゃうけどね」


「……とにかく! アキラさん! ここらで私達レベル上げをしませんか?」


「というと……強いレアアイテムを手に入れたり、強化石を集めたり……?」


「そうです! 髭モジャ店長が言ってたじゃないですか! 何度もダンジョンへ行って、自分自身でガチャを引くことで強くなるって!

 それが一番できるのは、ダンジョンがここにある私達なんじゃないでしょうか!?」

 花子は力強く、ダンジョンの入り口の引き出しを指さす。


「うん……! そうだね。配信者としてもだけど……最近は冒険者として強くなりたいと思っていたんだ!」


「……私もです!」


 すっかりダンジョンの魅力に取りつかれた2人はダンジョンへ行く回数を増やした。

 配信をしていない時でさえも、暇さえあればダンジョンへ向かい、ダンジョンガチャを回し続けた。


「あの……アキラさん? 思ったんですけど……」


「ん? どうしたの?」

 いつものようにボスを倒し、ダンジョンガチャを回そうとするアキラに声をかける花子。


「ダンジョンガチャって、ボスを倒した人しか回せないじゃないですか?」


「うん……そうだけど?」

 ボスを倒すと現れるダンジョンガチャ、異世界の不思議な機械のようでボスにとどめを刺した者のみ回せる仕組みになっている。


「……私達、2人一緒に同じダンジョンに行くの効率悪くないですか……?」

 花子がそう切り出す。


「た、たしかに……!」


「前は弱かったから2人一緒じゃないと危険でしたけど、今の私達なら1人でもレベル10くらいなら楽勝ですよね?」


「そうだね……でも大丈夫?」

 電気銃と装備品のおかげでスピード、防御力はアップしているとはいえ運動音痴の花子を心配するアキラ。


「うーん……まあちょっと心配ですけど……コレもありますし!」

 花子は『脱出の羽』を手に取る。


「危なくなったらとりあえず1回は脱出できますしね」


「そっか……そうだよね。俺用にも1つ用意しておこうかな。

 レベルアップのために、一度バラバラでやってみようか?」


「はい! あ、もちろん配信する時は『アキラちゃんねる』で一緒にやりますからね! 『花子ちゃんねる』は作りませんのでご安心を!」

 花子は親指を立てる。


 こうして、アキラと花子はレベルアップのための冒険では1人で行くことにした。

 全ては強くなり、高レベルダンジョンで配信をするために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る