⑬
あの後、何度か同じ条件で戦闘を繰り返し行って、交代はさせられなかったので、ナベリウスから見て問題は無かったみたいだ。頑張ったぞ、俺。
あまり間を開ける事なく、戦闘をしていたので、パールも疲労から床に倒れてしまったので、休憩となっている。
「やはり、何事も始めたばかりというのは面白いものだな」
「パールの事か?」
水筒に口を付けながら、彼に言葉を返す。その言葉に、ナベリウスは首を縦に振
る。
「人の成長していく姿を見ていくのは、やはり面白い」
ドワーフはエルフほどではないが、長命種だ。きっと、色々な人達と出逢ってきたからこその、言葉だ。
「そうだな、その気持ち判るよ」
俺もスサノやクシナダが強くなっている姿を見ている時に、自分の事のように嬉しい。
しかし、その言葉を聞いて、ナベリウスは突然大きな声で笑い出した。その笑い声の大きさに横になっていたパールが何事かと上体を起こしてしまうほどに。
「ど、どうした?」
「い、いや、まさか、バアルの口からそんな言葉が出るとは、な。出逢った時は、素人丸出しの粋がっていた小僧がな」
「うぐ」
それを言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。まだ、俺達がアークになる前の話は、正直忘れたい。
「俺だってもういい大人なんだから、そのくらい思うっての」
自分でも判りやすく不貞腐れたような声を出しながら、精一杯の反論をする。
「そうだな。それだけの経験をオレ達がしたんだ」
ナベリウスは笑うのを止めると、どこか遠い、そうそれこそ、もう永遠に届かないような、寂しそうな、でも悲しんではいない。そんな表情をしていた。
「バアル」
「ああ」
「冒険者には」
「戻らない。それは、ナベリウスもアスタロトだって同じ、だろ」
「……そうだな」
「アークは終わったんだ」
その言葉はきっと自分に対して言った言葉でもあった。
「あ、あの何かありましたかー」
疲れから回復していないパールが大きな声で呼び掛けてくる。その返答に、俺とナベリウスの二人は揃って、なんでもないと手を振ると、パールは少し戸惑いながらも、また横になる。
そう、もう一つの時代は終わって、新しい時代が始まっているんだ。だから、あの
時代に置いてきたものの清算は俺達がしないといけない。
「で、だ」
そんな雰囲気をかき消すかのように、ナベリウスがちらりとこちらを見る。その視線だけで何を言いたいのか、判った。
「あれ、だな」
俺もちらりとナベリウスを見る。そして、俺達はさりげなく訓練場の入口を見る。すると、そこには、隠れてこちらの様子を伺っている人物が見えた。いや、もうちょっと気配とか隠せよ。
「あいつは、あれでバレてないつもりなのか?」
「少なくとも、パールは気が付いていないから、成功はしているんじゃないか」
なんでコソコソとしているのか。まあ理由なんて判り切っている事ではある。
そう、入口でこちらの様子を伺っている金髪のあいつは、ウーラオリオギリュシア支部に所属している冒険者で、パールとパーティを組んでいるシバだ。
「まだ、喧嘩中なのか?」
未だにこちらが向こうに気が付いているとは思っていないシバを後目に、ナベリウスが訊いてくる。俺は、無言で首を縦に振る。
「パーティ内の喧嘩なんぞ、よくある事だが……こればかりは部外者が出しゃばってもいい結果に結びつかん場合が多いからな」
「それは………そうだな」
目線を逸らしてしまう。やっばい、今回の二人の喧嘩は少なからず俺が関わっている。なんとかしようにも、シバはあんな風にコソコソとはしているが、パールと仲直りしようという姿勢を見せてくれているが、パールの方が未だにシバとは仲直りをするつもりがない。
パールとしては強くなった自分を見せて、シバに認めて貰いたい。その為に、俺に特訓を申し出た。シバは別に、パールを認めていないわけではないのだが、そこは男の子特有のアレが出てしまい、上手く言葉に出来ずにいる。
一度、なんとか場を設けとはしているのだが……俺自身が色々とやらなければいけない事もあり、機会に恵まれずにいたけど、もしかしたら、これはある意味でチャンスなのでは?
そんな俺達の様子に何かあると察したのか、パールが入口を見てしまう。
「あっ!」
しまった! まだ、考えが纏まっていないのに! なんで、気が付いちゃうんだ………俺やナベリウス、そして、シバがあんな見え見えの隠れ方をしていれば、バレるのは当たり前だった。
俺とナベリウスがあちゃーという、表情をしている中、シバはパールの声にびっくりして、どうするべきかと辺りをとりあえずキョロキョロし始める。なんだろう、本当に申し訳ないけど、面白い。
このまま見ていても、良いのだが、いや、良くはないか。
「シバ、とりあえず中に入って来なさい!」
俺が大声で声を掛けると、一瞬あいつは躊躇ったが、訓練場に入って来る。
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