第六章 冒険祭
①
今、王都ペラルゴンは賑わっている。その理由は、今年もあの時期に近づいてきたからだ。あの、とんでもない祭りを控えているからだ。
「やっぱり、この時期は王都全体が賑わってますよね」
冒険者クラン『ウーラオリオ』の財政管理会計部は今日もいつも通り、平常運転である。そんな中、俺の後輩でもあるスバルが窓の外から聞こえる、騒ぎ声を聞いて言う。
「もう、そんな時期なんだな」
「今年はまた一段と凄そうですよね」
「ああ」
今年は去年の比ではないほどの、騒ぎになる事は間違いないだろう。
「そうですね、今年の『冒険祭』は凄い事になるでしょう」
マルガスさんの言葉通り、今年の冒険祭は凄い事になる。冒険祭は、一年に一度行われるギルドが主催で行うものだ。その内容は、参加する冒険者にギルドからダンジョンで採る事が出来る素材を指定され持って帰ってくるというものだ。
その内容は、全員同じで、早く帰って来た冒険者には、報酬金とギルドから、ギルドが保有している魔道具を一つ進呈される。その額は毎年大きく、魔道具も希少な物が進呈されるので、この冒険祭に参加する冒険者は多い。
そして、なぜ王都が騒がしくなるのかと言うと、
「私も楽しみですもん! なんてったってダンジョンの様子が中継されるわけですからね!」
そう、冒険祭の様子は、遠見の魔法が付与された魔道具によって、王都中央広場に設置されたその映像を受け取る魔道具が空中にその映像を映し出す。
普段、冒険者や一部の者しか見る事が出来ないダンジョンの様子が見れるだけでなく、冒険者の戦う姿も見れるとあって、毎年この時期は王都に人が集まって来るのだ。当然、それに合わせて様々な出店も出て、王都はお祭り騒ぎになるわけだ。
「確かに、あの魔道具は国が保有していて、滅多な事じゃお目に掛かれないし。何だかんだで、ダンジョン内って未知の世界を唯一見れる機会だしな」
「去年の一位争いは凄かったですよね! 惜しくも、アストレイアさん達は二位でしたけど…」
そう、去年の冒険祭は、我がクランのエースでもあるA級冒険者のアストレイアも参加していたのだが、結果惜しくも二位だった。
「今年もあいつは出るのかね?」
「もちろんですよ!」
「いや、なんで、お前がそんな自身満々に断言するんだよ」
「この前、ここに来た時に訊いてみたら、参加するって言ってました!」
「へぇー」
そうか、今年もあいつは参加か。だとすると、この騒ぎの半分以上はあいつかもな。今や、この国でアストレイアの事を知らない奴はいないだろう。そんな、あいつが今年も参加するんだ、騒ぎにならない方がおかしいか。
「今年こそは、アストレイアさんのパーティ『コメット』が、一位を獲りますよ!」
「そうだな。実際あのパーティはヒドラの討伐以降も、難易度の高い依頼をこなしたり、深層のダンジョン探索も頻繁に行って、実力も飛躍的に伸びているから、可能性は大いにあるな」
「ですよね!」
「でも、当然前回一位の冒険者パーティだって参加するだろうし、マーペルクラルのアレスも出るって話だろ。今年は、また一段と競合が凄いことになるな」
「で、でも、アストレイアさん達は負けませんよ!」
「ええ、負けませんよ」
「おわっ!」
いきなり、聞こえてきた声の主は、いつの間にか部屋に入ってきていた。
「お前、何時からそこに?」
俺は、部屋の入口に居る、アストレイアに訊く。
「今ですね。ノックはしましたが、気が付いたのはマルガスさんだけでしたね」
俺とスバルはマルガスさんの方を見ると、マルガスさんは首を縦に振る。なんだかんだで、こうしてアストレイア会うのは久しぶりだ。あの日に、気まずい感じで別れてからちゃんと話をしていなかったからな。
「そ、それで、今日は?」
「いつものをお願いしにきました」
そう言って、紙を受付のテーブルの上に置く。
「は、はい! すぐに計算しますね!」
スバルがその紙を持つと、すぐさま自分の机で計算できるんを叩き始める。うーん、どうしたもんかな。変わらぬ態度で接しようとはするけど、やっぱり気にしてしまう。いくらなんでも、ちょっと突き放し過ぎたかなとも思うしな。俺が頭を悩ませていると、
「バアル」
アストレイアの方から声を掛けてくる。
「お、おう」
なんでか、俺の方がどもってしまうしまう。
「私は、今回の冒険祭で一位を獲ります」
「お、おう」
「なので、覚悟をしていてください」
「お、おう?」
えっ、何を覚悟するの、俺? アストレイアはそう言うと、俺に真剣な眼差しを向けてくる。
「お待たせしました……どうかしましたか?」
計算を終えたスバルが、俺とアストレイアの微妙な雰囲気を感じ取ってか、訊いてくる。いや、俺も詳しく訊きたいんだけど。
「いえ、なんでもありませんよ」
「そ、そうですか」
アストレイアに微笑みかけられ、一瞬にして虜になるスバル。アストレイアに対して、日に日に信仰心が上限突破していないか、こいつ。
「今年の冒険祭も応戦しています!」
「ありがとうございます。ライバルは多いですが、必ず一位を獲るつもりでいますので」
「アストレイアさんなら間違いないです!」
アストレイアは、また俺を見る。だから、なんなんだよ!
「それでは、私はこれで」
アストレイアは一礼すると、部屋を出て行く。結局、あの意味深な言葉と視線の正体を何も話す事なく、あいつは去って行った。
「マルガスさん、どういう事なんだと思います?」
俺は、上司でもあるマルガスさんに訊いてみる。
「うーん、私にもよく判りませんが、とりあえずアストレイアさんはとてもやる気になっているという事は判りました」
「ですよね」
やる気になっているのは、判るが、なんで俺が覚悟しなくてはいけないんだ? 結局、答えは出ないまま、モヤモヤだけを残して、俺は仕事へと戻る事にした。
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