飛空技師は駆り出される

似瀬

プロローグ

──場所はとある大陸に築かれた国。そこでは数百年も “争い” が起こらず、永く続いた平和は王族と民から危機感を奪っていた──。


それが未来永劫続く確証など…どこにも存在しないというのに──



空は悪天…どこまでも広がる分厚い雲が陽光を遮り、絶え間なく降り続く雨が平等に生物の視界を妨げる。


その日…王都は突如として崩壊した。民家は全て崩れ去り…城は見るも無残に半壊し…、行き場を失った住民達は揃って凄惨な光景を見つめるばかり…。


崩れた家を必死にかき分け何かを捜す者…、絶望し泣き崩れる者…──流れる血は悉く涙と変わり…雨に溶けていった…。


そんな悲しみに暮れる王都から離れた深い森の中を走る1人の女性と、鎧を身に纏う兵士がいた…。女性の頭からは触覚が2本生え、背には雨に濡れた蝶の様な羽がある。


彼女と兵士は跳ねた泥にすら全く気を向けず、手紙が入った瓶をいくつも抱え、息を切らしながらどこかへと走っていく…。


やがて森を抜けると、大荒れの海へと出た。3人は高波を恐れず浜へと近付き、抱えていた手紙入り瓶を全て海に流した。


みるみるうちに遠ざかっていく瓶を見届けると、女性はその場に膝をついて、容赦なく雨を落とす曇天に両手を合わせた。


「勇気ある者よ…災禍を恐れぬ強き者よ…──どうか…どうかこの地をお救いください…! “不浄なる魔の物” を──お祓いください…!」



どこへ辿り着くとも知らぬ一縷いちるの望みをのせた瓶は──大時化おおしけの海を流され悲劇の地を後にする。


これが原因となり、遠い地に住むとある飛空技師ひくうぎしが駆り出されることを…今はまだ誰も知らない────。



──プロローグ〈終〉

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