第1話 丘の上の飛空技師
ここはどこか別の世界“ミスレイス”──。
大小様々な大陸が点在し、そこには文化形式の異なる多くの種族が生息していた。ある
そして様々な種族たちは大陸の中で生息域を広げ、土地を分け、やがて国を築くまでに至り、文明は進化の一途を辿った。
弓と棍棒で狩りをしていた
その後も文明は発展していき、そして
ここは “ドーヴァ” ──
そして物語はこの国の首都、様々な種族を受け入れ手を取り合う平和の都市〝王都ハイラーゼ〟に続く道の上から始まる。
「うーーーむ…、去年にまして木々が生き生きとしておるのォ。このまま大漁豊作の年で終われば良いものじゃがなぁ…」
「ご心配には及びませんよ国王陛下。ここ数十年間、我らがドーヴァでは不漁凶作の兆しすらありませんから」
王都へと伸びる道を進む5人の人影、ドーヴァの兵士たちと現国王である。5人は王都とは反対側へと進み、歩きながら咲き乱れる木々や花々を観賞していた。
「それにしてもですが…わざわざ国王陛下自らが出向く必要はおありなんですか? 城に呼び出すか…我々に伝言を遣わすなどでも宜しかったのでは…」
「いやいやそうもいかんのだよ。これから会いに行くのはワシの知人でな、要件を伝えに行くついでに様子も見ておきたいのだよ」
「はぁ…、そこまでおっしゃるなら…これ以上は何も言いませんが…」
それから5人は道なりを歩き続け、途中の分かれ道を右に進み丘に出た。眺めのいいその場所からは、王都も小さく見える。
そこから更に少し進んだ先に、目的地と思しきものが見えてきた。大きな樹の下に建っている一軒家と、その横に停められている小型の
レンガ造りの家は所々に苔が生えており、外観から古臭さが漂っていた。
「国王陛下…本当に…ここで合っているのですか…? お言葉ですが…
「言うなジョンよ…、外観はどうあっても家は家じゃ…豪華か貧相かは関係ないわい…。さあ…ゆこうぞ…」
5人は玄関の方へと向かい、国王陛下はドアノッカーを3回叩いた。叩くとその衝撃でドアの上のから埃がパラパラと落ちたが、国王は見て見ぬふりを通した。
それを見た兵士たちは皆…不安に駆られて冷や汗を流す…。
「ん…っ? おーい “アクアス” ー! 誰か来たみたいだぞー!」
「申し訳ありません、今
「えぇー…仕方ないなぁ…」
家の中から微かに聞こえてくるのは2人の話し声。やがて足音がドアに向かって近付き、ゆっくりとドアが開いた──。
中から姿を見せたのは
大きなあくびを挟んでようやくしっかり目を見開いたその女性は、国王と目が合った瞬間にガチッと体が硬直し…しばし呆然として立ち尽くしていた。
そして────
「ふん…っ!!」
「ハァ…ッ!! フフフッ…締め出そうたってそうはいかんぞカカよ…! 国王自らの足でここまで来たんじゃからなァ…、絶っ対に話を聞いてもらうからのォ…!!」
女性は思いっ切りドアを閉めようとし、国王はすんでのところで手を伸ばしてそれを阻止した。後ろの兵士もざわついている。
「お話するのは構いませんが…! アポとってからじゃないと困りますよ “ラドロフ国王陛下” …! 国王とて平民の自由を侵してはダメでしょう…!」
「今更何を言うか…ワシとお主の仲じゃろう…! いいから一旦中に入れんか…! これ一般の民が見たら反逆じゃと思われるぞ…?! 分かったら中に入れんか…!」
「いーやーだー!!」
その後も平民と国王の醜い争いは続き、それを見守る兵士は冷や汗をかきながら止めるべきかで迷っていた。
傍から見たら子供のケンカ──兵士は恐れていた…国王の威厳が失われるのを…。民に見られることで死刑の可能性が出てしまうことを…。
「カカ様…? お客様の応対に何をそんなに手こずって…──って国王陛下…っ?! ちょっ…ちょっと何をしているのですかカカ様…!? その方は国王様なのですよ…!? なに締め出そうとしているのですか…!?」
半開きのドアの奥から姿を見せたのは、
「うるさいぞアクアス…! これはお前の為でもあるんだ…! この
「おいお主今オジぃと言うたな…!? ワシは国王なるぞ…!?」
メイドの登場でより混沌を極める場──兵士は混乱していた…どうこの場を収拾すればいいのかを…。混乱しすぎて銃を構える兵士も出てきた。
「く…申し訳ありません…、せい…っ!」
「うごァ…?!」
それはメイドの物凄い強烈な当て身で終結した。うなじに浴びせられた手刀によって崩れ落ちる主人と、えぐい音に若干引き気味のラドロフ…。
目の前で殺人を目撃してしまったのではと焦る兵士たち…、彼等は最悪の場面に出くわしてしまったのだと今猛烈に後悔している…。
「お手数をおかけしました国王陛下…! どうぞお入りください…! 今お茶とお茶菓子をご用意致しますので…!」
「う…うむ…、では失礼するぞい…。なんかすまんのカカよ…」
ラドロフと兵士たちは、床に倒れる主人に小さく頭を下げて中へと進んだ…。玄関に残されたのはメイドと、虫のようにぴくぴくしている情けない主人。
「アクアス…君の当て身の技術は認めているけど…、それやるならせめて気を絶ってくれないかな…? 意識残ってるのが一番辛いの…」
「気絶させては国王陛下と対談できないでしょう。お茶とお茶菓子を用意致しますので、カカ様は先に国王陛下とお話しになってください」
「うぐぅ…、分かったよ…」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「それで…? こんな何もない丘までわざわざご足労頂いた理由はなんです…? 手紙でも出してくれれば…アクアスを遣わせましたよ…?」
「そうじゃろうと思っとったよ…。手紙出そうが兵を遣わせようが…、お主は適当な理由をつけて姿を見せんとな…」
図星を突かれてか、主人はそっぽを向いてお茶を啜った。後ろの方ではメイドも呆れた様に額に手を当てて、小さく首を振っていた。
それを見兼ねた兵士の1人が、ラドロフの耳に言葉を掛ける。
「国王陛下…この方々とはどういう関係なのですか…? 我々もそろそろ説明を頂かないと…不安で仕方がありません…」
「おお、そうじゃったな。カカにアクアス君、彼等に説明してもよいかな?」
「いいですよ、でないと兵士の方々がストレスで倒れかねないので」
主人の許可を得たラドロフは、後ろに佇む4人の兵士に説明を始めた。
「ワシの目の前に座っている宍色髪のこの者は “Ka
≪
飛空艇の操縦・整備を行う職業── “
「そしてそのカカに仕えとるそこのメイドさんが “
≪メイド≫
主人を支える女性の使用人── “執事” と同格で、 “
「悪かったな…だらしなくて…」
「でもまあ事実ですけどね…?」
“──ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギ
「そこはメイドとして否定しろやアクアスゥ…!」
リギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
「自覚がおありでしたら直したら如何ですかカカ様…!」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ…──”
メイドのアクアスの発言を機に、手を取っ組み合っていがみ合う2人。これには流石のラドロフも冷や汗を隠せない…。
ここへ国王が来た理由を聞かぬままいがみ合い続ける飛空技師とメイド…。彼女達はまだ知らない──自分達が駆り出されることになる…遠い地の悲劇を…。
──第1話 丘の上の飛空技師〈終〉
おまけ
Ka
Lud
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