第27話 コタツ型討伐

ミカリンのフィアボールの直径は

デスラーホールの坑道内径とほぼ同じだった。

全てはオレンジ色になり

炎で蓋をされた様な錯覚を覚える

魔法の炎は対象物以外に効果を

発揮しないと頭で理解していても

恐怖を感じそうになるが、それよりも速く一瞬で飛び去る。


飛び去りながらバングを貫通破壊した。

ファイアボールが開けた穴からは

まだ明るい夕方の空が見えた。


「ナイスだ」


俺がそう言った瞬間、デスラーホールの

効果が切れ地面は元の姿に一瞬で戻る。

もの凄い勢いで俺達は空へ放り出される。


恐らく俺達はバングの体内を通過した

最初の人類になった。


バングを通過しきるその最後に

アルコは盾をバングに突き立て

両足はミカリンと俺達を引っ掛けた。

アルコの下半身は弧を描き

4人ともバングとエルフの待機軍勢の

間に放り出される格好になる。


抜群の運動神経を誇りデスラホールで遊び馴れた

アルコとミカリンは空中で綺麗に回転し着地した。


俺は特別な事情でプルから手を

離せなかったので、プルの落下耐性に

今度は助けられる恰好で軟着陸出来た。


「足だ!」


「マナだよ。ギャラは言えないよ!」


俺はミカリンに指示を出した。

次のボディプレスを出来ない様にしてしまうのだ。

俺の指示無しでも同様の事をする気だったのだろう

ミカリンは脚にファイアボールを打ち込む。


ファイアボールは左前足付け根に着弾すると、

その部分だけでは消費しきれず斜め上方向に胴体をも貫通した。

千切れた前足は即時煙化を起こした。


「うわー効くね炎」


ミカリンは楽しそうにそう言うと

もう一発を右前足に打ち込む


「プル、黒い部分ならどこでもいい攻撃魔法を!」


「は・・・はい」


流石にもう不自然だ。

名残惜しさ万感だが俺は手を離してプルに

そう指示を出したがプルは目を回している様だ。

フラフラしながらも呪文の詠唱に入った。


長い


途中で不審がったアルコが

何かあったのかと振り返って確認する程だ。

うーん

俺やミカリンが速いだけだぞ

圧縮言語を用いない場合は、こんなモンだろう。

知らんけど


その間に残った後ろ足だけで無理やり前進を

試みようとバングは雑巾がけでもするかのような

姿勢を取るが左後足はミカリンに

右後足は俺がスパイクで粉砕した。


「行きます!ウィンドエッヂ」


プルがカッコよくそう叫ぶ。

おお

やっぱり風系の攻撃魔法なのか

俺はワクワクして注目した。

俺もミカリンも風系は使えないのだ。


派手なアクションのプルの指先から

緑色の半月状の淡い光が飛び立っていく。


弱そうだ。


届け


届け


もうちょっとだガンバレ


仮面の脇に命中すると

プスっと刺さり見えなくなった。

煙化が確認出来たが煙はすぐ治まった。


うん、俺の仮説を裏付ける現象だ。

弱いからと言って無効にはならない

弱いなりにダメージはキッチリ入るのだ。

弱い?


俺はハッとしてプルを見る。

何か顔真っ赤にして泣きそうな感じだ。

逆効果かも知れないが

俺はすかさずフォローを入れた。


「ナイスだ。プル」


いかん震えのピッチが上昇している。

そっとしておくべきだったか・・・

俺は後方に控えているエルフ軍に振り返り高らかに叫ぶ。


「効果有り!風の魔法が効くぞー!!」


「「おぉ」」


どよめくエルフ軍。

風の魔法ならばエルフならば習得出来る。

バングに大して有効な手段を持ち得る里になれる。

その望みが現実的になったのだ。


俺はプルに振り返ってみた。

これでどうだ。

なんかしゃがんでしまっていた。

うーん、もう知らんわ。


「アルコ!仮面に攻撃」


色々試さないといけない

忙しいのだ。

フォローは後にしよう。


「ツァアア」


左腕で盾を構え突進し右腕を振りかぶるアルコ。

バングは今、丁度殴りやすい位置に仮面部分が来ている。

耳障りな衝突音が響く。

咄嗟に自分の爪の状態を確認するアルコ。

仮面に傷は入った様だが

それよりも爪の方がダメージを負ってしまったのか


「爪無事か?!」


「はい、ちょっと痺れただけです」


右手を裏返したりして

注意深く確認してアルコは返事をした。


「ミカリン。仮面を狙って」


「OK」


ファイアボールは勢い良く襲い掛かるが

仮面に弾かれ、あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。

ふーむ・・・。


「アモン。足直り始めてない?!」


ミカリンに言われて

俺は注意を仮面から破壊した四肢に向ける。


確かに足が生えようとしていた。


ただ再生というよりは

残った部分で作り直している様だ。

周囲から胴体だった部分が足に

流れているようだ。

いかんいかん

余裕ぶっこいてる場合じゃ無くなった。


「ミカリン。もう倒しちゃおう」


ミカリンは意外な返答をした。


「それがさ・・・後一発くらいしか」


声にいつもの元気が感じられない。

汗も凄いかいている。


俺は咄嗟にメニューを開く。

確かにミカリンのMPゲージは色付き部分が少ない。

火系は威力がある分

消耗が激しいのかもしれない。

土系なんかいくら使っても全然減らないぞ。


「変わろう!立ち上がる前に仕留めないと」


俺は杖を寄越す様に手を上げる

ミカリンは簡錫を投げて渡して来た。

効果を上げる為に暴走陣を敷き

発生場所は仮面左右と後方の三か所で

仮面をえぐり取る作戦だ。


移動しない状態ならば

これが速いだろう。


3本のスパイクは突き刺さり

煙を上げ続け、やがて雪崩のように

仮面分が本体から剥がれて地面に落ちた。

本体だった部分は一斉に煙化を始める。


仮面の裏にこびりついて残った黒い部分からも

煙化は治まっていない。

風の魔法との効果の違いが気になった。


「トドメの一発を頼む」


俺はそう言ってミカリンに杖を投げて渡した。


「弱めでもイケるかなぁ」


珍しく弱気だ。

残った部分は少ない。


「最弱でも大丈夫だろう。多分」


ミカリンのファイアーボールが

仮面に残っていた部分を全て消し去った。


「うわっいつもより豪華な音が」


ミカリンが驚いている。

どれどれ

おおレベル30到達だ。

ハンプティタイプより経験値が美味しい奴だったんだな。

天使化は・・・ここで試さない方がいいな。


ちなみに俺は33、アルコは28になっていた。

打撃が効きにくい相手が続いてしまったせいで

アルコが少し遅れてしまったな。

バングでなけれな次はアルコを優先させよう。


・・・


エルフの里まで帰還する馬車。

その車内で俺と同席した3人は馬車が動きだすと

一斉に話しかけて来た。


「だから弱いと言ったじゃないですか」

「貢献出来ず申し訳ございません」

「魔法は変な疲れ方するから、もうやだよ」


あああ

うるせえ女共だな。


戦いの分析をしたかったが仕方が無い

考察は後にして、各自のフォローを優先するか。


今すべき事と

後でも問題ない事

これを自分の好みや自分の損得だけで選択を誤ると

必ず破滅が訪れるのだ。


まずはプルからか


「バングに対して風の魔法が有効かどうか

それを知りたかったんだ。

今の人員でそれが可能なのはプル君だけだ。

低い攻撃力なのを承知で最前戦に立たせるのは

心苦しかったが、他に頼れる者が居なかったんだ。

怖かったと思う。許して欲しい

でもお陰で貴重なデーターが入手できた。

プルの功績だ。ありがとう礼を言わせてくれ」


おっと

笑顔を忘れた。

が、プルの反応を見る限り


「あっその・・いえ私そんな」


真っ赤になって手をブンブン振っている。

これは洗濯肢がベリーグッドだったんじゃないか

もしかして笑顔いらないのかミカリンにも

真顔で「気持ち悪い」と言われたしな

気持ち悪いですよ。

キモいじゃなくて気持ち悪いですよ。


えーと次はアルコか


「馴れない盾役なんで正直不安だったが

想像以上にイイ出来だった。

良くやってくれた。

相手にダメージを与える事が最優先の

攻撃役とは色々と勝手が違うというのに

どこで覚えたんだ。ビックリだぞ。

お陰で安全に魔法に集中する事が出来た。

ありがとう。爪は大丈夫か

回復しようか」


また笑顔を忘れた

いいのか


「・・・・。」


何か言ったようだが

声が小さくて聞き取れない

満足そうに照れている様子から

これもベリーグッド選択できたようだな。


ふーっ

フォローは大変だが

とても大事だ。


自分の仕事を正しく見てくれる。


こういう人が居るか居ないかで

その人の仕事に向かう姿勢は大きく変わるのだ。


なんだ

ミカリンが尻尾を振ってこっちを見ている気がする。

仕方が無いので

ムツゴロウ先生を見習って

よーしよーしと

大袈裟に可愛がってやった。

決してセリフを考えるのが

面倒くさかったワケでは無い。


しかし、予想外にミカリンは嬉しそうだ。

もしかしてこれもベリーグッドな選択だったのか。


その後は

直ぐに三人とも寝てしまった。

馴れない相手に馴れない戦闘は

俺の想像以上に負荷があったようだ。

緊張感からの解放と程よい揺れが眠気を助長した。

馬車も行きとは違い

ゆっくりと走行してくれている。

気を使ってくれている様だ。


疲れたし

俺も寝るか

いや

これは絶好の

パイタッチのチャンスじゃないか

ふと見ればプルは寝息を立てる程熟睡している。

先程の感触が右手に蘇る。

たわわな実りがおいでと誘っている。


あの感動をもう一度・・・


宝具にNPがスゴイ勢いでチャージされていくのが分かる。

上限突破で着込んでいくタイプもいるが

俺は脱いでいくタイプだ。

「一刀にて証を示す」

ふっ所詮

俺にはコレしかないんだ!!


嫌な予感がしたので

ふと隣を見ると

慌てて薄目を閉じるミカリンが嘘寝息を立て始めた。

ストップだ。せんどうさんの目はまだ生きてる

止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ

強靭な精神力で伸ばしかけた手を

自分の膝に当て「あーかいい」とか

白々しく独り言を言いながら掻いた。

ちぃ

ヴィータの再来か

天由来はその辺に鋭いのか

単純に俺の邪気が駄々洩れなのか

うん

多分どっちもだ。


くそドコもみたいに止めちゃえよ

どっちーもなんて

なんかチャージしたせいで眠気も吹っ飛んじまった。

ヒマだ。

何かやる事ないか

って

さっきで何か言ってなかったっけ俺。

・・・・。

戦いの分析だ。


俺は順を追って思い出す。

まず頻度だ。

これがおかしい。

これまで会った人の話からするに

マイザーもプラプリも一度だ。

クロードなんて会えてじゃないんじゃないか。

この14年でそんなモンだ。

俺達はこの短期間で二度もだ。

そして明らかに目的が違う別種だ。

目的があればだが・・・。


単純に頻度が上がっただけかもしれないが

それはそれで原因が知りたい。

問題になるのは原因が俺あるいはミカリンに

関係する場合だ。

アルコは俺らに合流するまでは

遭遇した事が無いのだ。


すんごい毛の逆立ち方だったな。

タンポポの綿毛みたいだった。

逸れた戻せ。


ただ跳躍していたため

この世界に存在していなかった時間

最終決戦から湖全裸リスタートまでだ。

この間にも現れていたので単なる偶然か

俺らには関係の無い増加理由の可能性の

方が確立は高そうだ。


魔法。

ストレガが頑張ってくれたのだろうか

この14年で認識は変わった。

オカルトから実在になったが

まだまだ認知は薄い。

これは使い手の少なさに起因しているのだろう。


学校。

この出身者でもない限り、という発言があった事から、

ベレンの学園で学ぶ事が出来るが。

輩出した魔法使いの数はバルバリスに対して

圧倒的少数なのだろう、お目にかかった事が

無い者がまだまだ大多数だ。

使い手が各所にいるならバングの弱点が

魔法だとすぐに気が付きそうなモノだ。


・・・前回、ストレガを魔法使いに

させて置いて本当に良かった。

そうでなければ絶望的状況になっていた。


ドワーフ戦士がどの程度の実力かは

知らないがベアーマンであのザマだ。

鈴や亜鉛ぐらい抉り取るアルコの爪で

ひっかき傷程度だ。

鉄製の武器が貴重なこの世界で物理だけで

バングと戦うのは大損害を覚悟しなければ

ならなくなるだろう


教会には秘術の使い手がいるが物の数に数えられない。

数が違い過ぎる、バルバリスもドルワルドと

同じ運命だったであろう


今現在、ネルドが対バングの最前線だという

そこに卒業した魔法使いを集中させているのであろうか

で、あればバングを食い止めていられるのも納得だ。


まぁこの辺は判断は早い

その学園とやらに入ってから

得る情報でおいおい分かるであろう。


車外から歓声が聞こえて来る。

着いたようだ。

外はすっかり夜になっていた。


俺は横のミカリンに

肩タックルを軽くかます


「ぶあ」


薄目は起きていたのではなく

寝てても目、開いちゃうタイプだったのか

ミカリンは本当に寝ていたようだ。


「着いたぞ起きろ」


「はう」


俺は正面のプルを起こそうと腰を少し上げ

肩を揺するため手を伸ばそうとした

その時

馬車は停車して

俺は

その反動で

また

やってしまった。

あの感動がもう一度。

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