第25話 英雄の凱旋

エルフ里長は人型の寿命を迎えると樹木化が訪れる。

それは巨大な樹木に成長し

その実が次世代のエルフ達そのものになる

彼らは動き話す木の実なのだ。


歴代の長は規則正しく碁の目のように並び

その重ね合わせた枝の上に床を作り、

空中に広場を設けそこで暮らしていた。


一人一人に精霊が付きエルフを全力サポートしている。

死後は魂を長の樹木まで運ぶのだ。

本人が強く希望していれば生前の記憶や人格を

ある程度残して新生する。

生まれ変わりが出来るのだ。


この大陸のアチコチに集落はあるが交流は無い。

基本的に里以外の樹木には宿れないので

里から離れて旅する事はしないのだ。


この集落は前回の降臨の際風の大天使ラハの

ついで攻撃で長の樹木を全て失うという

致命的ダメージを負った。

長の樹木無しでは

もう新たなエルフは産まれないし

生き残ったエルフの魂も帰る場所が無いのだ。

辛うじて生を拾ったエルフも絶望だ。

今滅ぶか

やがて滅ぶか

その違いだった。


そんな中

エルフでプレイしていた大学時代の同級生が

樹木化を果たし辛うじて絶滅を免れる事が出来たのだ。


こうして新エルフの里が誕生した。


彼らは俺を救世主とし最終決戦を終えて

俺が帰って来るのを

英雄の凱旋をずっと待っていたと言うのだ。

それは随分と長い事


「待たせたな」


大歓声の中俺達は神輿みたいなのに乗せられ

里へと招き入れられた。

そのまま宴会だそうだ。

有難い今日は料理しなくて済む

ラッキーだ御馳走に・・・・

こいつらのタンパク源って


「プラプリちょっとだけ二人で話せないか」


大きな木造の建物。

どことなく神社を思い出す作りだ。

その中央の大広間が会場になるようで

今急ピッチで準備が進められていた。

俺達はその奥の小部屋で待機するという事で

プラプリ里長が直々に案内してくれたのだ。

準備の指示に戻ろうとした

プラプリを俺は呼び止めた。


「うん、じゃあこっちへ」


なんか背中にミカリンとアルコの何らかの

意思が篭った視線を感じるが前回に絡む事なので

遠慮してもらおう。

俺は直ぐ戻ると言ってプラプリと別室に来た。

部屋に入って腰掛けるなり俺は唐突言った。


「虫は食えんぞ」


ちょっとだけビックリした顔に

なったプラプリはすぐに笑顔になった。

なんでも以前とは違い

数が急激に減ってしまった事で他種族との

関わり無しでは自衛もままならず

否応にも交流が生まれ礼儀・文化など

理解が進んでいるとの事。


「お客さんには出さないよ。

以前はゴメンね。言ってくれれば良かったのに」


そうは言うが

言えないよ。

厨房ですんごい量の料理を

準備しているのを見ているのだ

自分達、数名だけ特別料理を出せとは悪くて言えなかった。


そういえば今回の里は

木の上のエルフの里形式では無く

通常の人里と酷似していた。

まぁ柱となる長樹木が

複数無いとあの作りは再現不可能だ。

雇い入れた職人の技術などからも

普通の建物になるのは仕方が無い。


丁度、お茶が運ばれてきたので

座って話をする事にした。


「それにしても良く俺がアモンだと分かったな」


「丁度、警備していたのが数少ない生き残り組みでね」


「いや、外見がほら」


この通りチンチクリンだが

なんとエルフは外見でだけで判断していないらしい。

じゃどこで判断しているんだ。

追及したが返答は理解を超えた。

ただ

年齢の差異は人ほど

常識のフィルターが掛からないのは分かった。

この人がこの年齢のハズは無い

別人に違いない。

こういうフィルターだ。


前世の人格・記憶を引き継ぐ

生まれ変わりが珍しく無いエルフならではの感覚だ。


「後でタムラにも会ってやってくれよ」


そうか

助けた中に居なかった。

無事に転生出来たのか。

そうか

思わず涙が溢れそうになる。

これだから受肉は不便だ。


「あ・・ああ、そうさせてもらうよ」


気付かれない様にしたつもりだがバレバレだろうな

プラプリは気を使ってツッコミを入れては来なかった。


「そういえば。人増えたなエルフ以外も居た様にみえたけど」


14年の間に順次、転生で補充されてはいくのだが

如何せん赤ちゃんなので立て直し初期の人手不足は

深刻だったそうだ。


閉鎖的だった部族だがそんなことを言っている

場合では無く人族やベアーマンなど

頼れるつては全て頼ったそうだ。

そんな中で抜群の交渉力を発揮した

プラプリは自然な流れで里長になった。


「ガラじゃないんだけどね、そうも言ってられなくて」


「いや、堂に入ったモンだ最初、分からなかったぞ」


イケメン男子っぽくなってるしな。

そんな中で村に常駐・移住してくれる

他人種もガンガン受け入れていった。


大人のエルフは生き残り組だけで

生まれ変わり1期組は

丁度、俺と同じチンチクリンだ。


「そうだ。カルエルは・・・。」


俺のセリフにプラプリの顔に苦悶の色が浮かぶ。

覚悟はとうに出来ているのだろう

直ぐに説明をしてくれた。


「それなんだけど・・・すまない」


立ち上げ初期の頃バングが現れた事が有り

カルエルは里を守る事と引き換えに散ったそうだ。


「謝ってもどうにもならない事は重々承知している。本当に」


「ああ、大丈夫。あいつ天使だから死なないから気に病まないで」


謝罪に下げた顔をハッと上げるプラプリ。

今度はそっちが泣きそうだな。


「え、本当」


「先に教えて置くべきだったゴメン」


俺は天使のカラクリを説明した。


「で、あいつは上位天使だから一度戻るとそうそう来れないだ。」


「そう・・・なんだ。ハハ良かった」


十年以上も良心の呵責に苦しませていたのかと思うと

自分の不手際を呪いたくなる。


「謝るのは俺の方だった。スマン」


「体を張って里を守ってくれた恩に

なんの変わりも無いよ。感謝はそのままさ」


俺を責める事もせず微笑んでいる。

イケメンは絵になるなぁ。

となると

もう一人、木になってしまった小梅が

気になる。


下らな過ぎる

普通に聞こう。


俺はプリプラの現状について聞いて見た。

プラプリは行ってみるのが一番だと言い、

ついて来るように俺を促す。

俺は里長の後をついて建物の外に出た。


大き目の石が幾重にも積まれ

壁となり木を二重に囲んでいた。

この石もカルエルが運んだそうだ。


壁の外から火矢は届かない恰好だ。


唯一の長樹木だ。

警備はいくら厳重でも足りないくらいだろう。

この里一番の聖域なのだ。


警備の者達は、一様にプラプリを見ると

礼をして道を開ける。

ノンストップで最終防壁の内側木の元まで辿り着いたって


でけぇえ


確かに14年経ってるから木も成長はするだろうけど

それにしてもでけぇ


階段替わりの蔦が螺旋状に絡みついた前回の

里の入り口の樹木と同じくらいでかくなっていた。


俺はプラプリの方に振り返った。

プラプリはどうぞとジェスチャーで促す。

会話は接触しないと行えないのだ

あまりの厳重警備に気軽に触れるのは躊躇われたのだ。


「女は変わるっていうけどお前変わり過ぎだぞ・・・。」


そう言いながら樹木に手を当て会話を試みた。


「・・・・。」


居ない。

一発でそう感じた。

返事が無いのではない居ないのが分かった。

前回行った交信方法は体で覚えている。

方法というより一方的に小梅の方から語りかけて来た。

あの時は本当に怖かった。

オカルトはちょっと苦手なのだ。


「えっと・・・。」


俺は手を当てたままプラプリの方を見た。


「出来る者がいるとすればアモンだけ

だったんだけど、やはりダメか。」


話せない事は分かっていたようだ。

プラプリは教えてくれた。

樹木化とは文字通り精神も樹木になっていくそうだ。

なりたてほやほやの時は誰でも会話が可能だったが

月日が経つにつれ

それは途切れ途切れになり

遂には感じられなくなった。


縁の深い者は長目らしい。


カルエルだけは最後まで、かろうじて意志の

疎通が可能だったが

それもやがて出来なくなった。

それでもカルエルは

毎日、樹木に手を当て

その日の報告を欠かさなかったそうだ。


しかし、バングが現れ

それ以降、語り掛ける事をする者は居なくなった。


寂しく笑いながら樹木に語り掛ける

カルエルの幻が見えた気がした。


俺はダメなのを承知で

樹木にこれまでの報告をした。


「なわけで、今回の目的はハーレム作りだ。

バングは、そうだな・・・ついでに滅ぼしとくわ」


プラプリに礼を言い

宴会の予定されている建物に戻ろうとすると

壁の所でアルコとミカリンが

心配そうにこっちを見ていた。


「待ってろって言ったのに」


本当は聞かずに流したいが聞かずには我慢出来ない。

そんな躊躇いたっぷりでミカリンが聞いて来た。


「お友達は・・・?」


「遅すぎた。二人共もう居ないや」


俺の言葉に瞳を涙でフルフルさせるミカリン。

なんでお前が泣くんだ。

俺だろ。


「だ・・・大丈夫?」


あーまた顔に出てるのかな。

アルコはアルコで話したいが上手く言葉に出来ずに

気持ちだけがオーバーブースト状態だ。

こいつも泣きそうになってる。

だから俺だろ。


「ああ、大丈夫だ。」


「本当?大丈夫、おっぱい揉む?」


はい

いや


「・・・揉む程無いだろ」


「バカー」


アルコが名乗り出る。


「私のは揉めると思います」


確かに成熟ボディだ。

しかし、なんか

こう言っちゃあ失礼千万なんだが

アルコの硬そうなんだよね。


「倫理的に出来ない」


もっともな理由を言った。

10歳だもんな。

すかさずミカリンが食いついて来た。


「僕には倫理適用されないの?」


「奴隷の時点で倫理もクソもないだろうが」


「あ、そうだね」


そのやり取りを聞いてそれまで微笑ましく

見ていたプラプリが血相を変えて参戦してきた。


「奴隷?!駄目だよアモンなんでそんな事するの」


「いや、俺がしたかったワケじゃなくてな」


「理解出来ないよ。勝手に奴隷が出来たっていうのかい」


こういう事にはうるさそうな善人だ。

俺は説明をした。


「呪いを返したらこうなったんだ」


ミカリンも補足してくれた


「そう、僕がアモンを奴隷にしようとして返り討ちされたんだ」


「ねー」


「ねー」


呆気に取られているプラプリ

彼の中の奴隷のイメージが

今、音を立てて崩壊しているのだろう。


「それなんですが・・・・私は奴隷にしてもらえないでしょうか」


何か悔しそうに言うアルコ

んー面倒くさい事になってきたぞ。


賑やかなな雑談を邪魔する様に鐘の音とラッパが鳴り響いた。

音の不快感からして緊急事態が予想された。


俺は咄嗟にプラプリを見た。

その顔には里長の威厳が溢れるのと戦慄が同居していた。

やはり緊急事態のようだ。

ただ脳内アラームは鳴っていない。


「里長ーーー!」


俺達の方に大人のエルフがすごいスピードでやって来る。

大人という事は生き残り組で精鋭の戦士だ。

精霊から風のサポートを受けて走るその姿は

歩幅と移動距離が一致せずに異様に速い。

違和感がスゴイ。


「何事だ?!」


凛々しい声で言うプラプリ。


「敵襲です!」


伝令はもう俺達の所まで辿り着いた。


「相手は分かるか」


「はい。あの黒いやつです」


ミカリン、レベル上げようか。


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