第11話 チーム名は

攻撃が二枚なので盾役をしようと重装備で

構えたのだが、上から横から俺を追い越して

速攻仕留めてしまう脳筋二人。

ただ棒立ちしているだけの俺

馬鹿らしくなったので

最近は専ら魔法職の後衛だ。


「へっへーん。また頂きっー」


素早さはアルコと同等なのだが

戦いの流れの読み、立ち位置や動きなど

長年培われた戦闘経験がミカリンにはあった。


アルコは良いトコロを

常に持っていかれてしまう。


「お見事です」


悔しがる様子もなく普通に賞賛しているアルコ。


「アモン置いてけぼりで

僕ばっかり強くなっちゃうなー」


ルンルン気分で踊るミカリン。

俺は愛想笑いで答えた。


ゴメン

ミカリン

それ不可能なんだわ


経験値の入り方にムラがあるようなので

放置出来る相手だった場合

二人に任せて、俺はステータス画面を

開きっぱなしで観察した。


ミカリンの攻撃が成功する度に

俺とミカリンに均等に経験値が入った。


アルコの場合はアルコのみに入った。

俺の場合も同様だった。


アルコが

トドメの一撃の時は値は4分割され

決めた者に2

残りの二人には1づつだった。


これがミカリンが最後の一撃だった場合

ミカリンが1

アルコが1

俺が2になるのだ。


そして俺だった場合

俺が2.5

アルコ1

ミカリン0.5


おかしい

色々考えたが恐らくこれは呪いが原因だ。


ミカリンに入るべき経験値が

無条件で半分俺に譲渡されるのだ。


俺は何もしなくても

ミカリンと同等にレベルアップしてしまう。

そして自分で行った行為は自分にだけだ。

そしてその差は永遠に埋まらないのだ。


どんなに頑張っても俺を追い越せない仕組みなのだ。

・・・・

黙っていよう

申し訳なさ過ぎて言えない。

知ってしまいやる気無くされても困るし


今現在のレベルだが

俺10

ミカリン9

アルコ11


俺はメイジのスキルが開放され攻撃魔法を使える様になった。

ただ属性が土だったせいで使える魔法は三っつ

土の壁を出現させる「ソイルウォール」

石の棘を地面から生やす「スパイク」

地面に限るが任意の場所に落とし穴を発生させる「デスラーホール」


まず土壁だが

これが頼りない

なんせ土だ

ただの土だ

俺のパンチでも壊れる。

吹き矢ぐらいしか防げないかも


で次がスパイクなんだが

突っ込んで来る相手には

タイミングが難しい

速すぎれば相手は軽くジャンプで飛び越えて来る。

遅すぎれば言うまでもない

気づかないで迫って来る。

ドンピシャでも致命傷には至らない。

動きは封じられるので

アルコとミカリンが居ればイイが

俺一人だった場合、他に攻撃手段が必要だ。


で、待ちの相手には発動前に光るせいで

足元の異常に気付かれ

大体、回避されてしまう。


最後のデスラーホールは

呪文がちょっと長いので

動き回る相手に決める自信が無い。

出現時間も5秒

それを過ぎると引っ込んだ地面が

自動で隆起して戻ってしまう。


トラップとしても使えない。

ただ沈下と隆起は瞬時に行われるので

この勢いを利用して

大勢でジャンプ出来る。


これが結構高く飛ぶので

落とし穴のダメージよりも

ジャンプしてからの落下の

ダメージの方がでかいかもしれない。


ミカリンやアルコなど体術に優れた者には

なんの脅威にもならないどころか

遊びに使われてしまう悲しい攻撃呪文だ。


三つとも呪文レベルが1なので

上がれば強力に変化するかも知れないが

期待薄だ。


そして三つとも

飛行する相手には何の効果も無い。


土系の悲しい弱点だ。

と、言っているソバから飛行系のモンスターが現れた。

大型の蜂、キラービーだ。


「ミカリン」


俺はそう言って愛用の杖「癇錫」をミカリンに投げて渡す。



癇錫かんしゃく

キャスタリアが湖の底から拾って来た材木で

なぜだかやたら魔力の伝導率の高い

材木があったので、切り出して作り

川で拾ったクリスタルを先端に仕込んだ。

最も簡単な杖だ。


「丁度良い。試してみろ」


杖を受け取ったミカリンは了承の合図に

一回だけ頷き、納刀すると

杖を構えると呪文に入った。


ミカリンも魔法が開放されていた。

彼女の属性は火だ。

最も簡単な呪文のファイアボールだが

これが今の所、うちの一番強力な遠距離攻撃だ。


「ファイアー」


ミカリンがそう叫ぶと杖の先端から火の玉が

勢い良く飛び出していく

が、軌道がすでにズレている。

これは外れるだろ


「いけね」


そう言うとミカリンは杖を動かす。

その動きに連動して火の玉は

軌道修正しキラービーに命中した。


そんな事出来るの


「よっしゃー」


ガッツポーズのミカリン

一撃で倒した。

うん、間違いなく俺が一番弱い。


そんなこんなで過ごしていると

だんだんこの辺りの魔物が余裕になり

レベルも20で上がりにくくなってきた。

怖くて試していないが

蘇生の呪文も習得出来ている。


頃合いかな。


丁度マイザーが来ていたたので明日旅立つ旨を伝えた。

大分、改装が進んでかなり快適になってきた

丸太小屋は魔法の鍵を掛けて置くが

壊して押し入る気になれば簡単に入れる。

まぁ気休めだな。


翌日、ベアーマンパトロールの一団に

見送られながら俺達は旅だった。


丸太小屋付近も巡回してくれると言ってくれた。

これは有難い。


まず最初の目的地は新エルフの里だ。

途中で前回作った丸太小屋を見つけた。

プリプラと会った場所か


苔が年数を感じさせるが

中は荒れて無かった。

組み上げられた丸太の太さに

改めて前回の俺の怪力ぶりに驚く

こんなものをいとも簡単に組み上げたのだ。


見覚えの無い備品が置き去りに

なっていることから察するに

旅人や冒険者の休憩に使われていたようだ。

丁度良いので休憩する事にした。


茶で喉を潤しながら二人を見る。

元気そうだ。

俺が一番体力無いかも知れない。


そうだアルコには念のために言って置くか。


「アルコや」


「はいマスター」


名を付けた後からはマスター呼びが定着したアルコ。


「これは逃避じゃない。旅立ちだ」


「・・・。」


気にし過ぎたか

まぁ言い出したんだ最後まで言って置くか


「部族のしがらみから逃げる旅では無く

自分で自分の居場所を作る。また

その力を身に着ける戦いの旅だ」


恥ずかしくなってきたのでもういいか

そう思った時

アルコは見る見る涙ぐんでいた。

やはり後ろめたいものを感じていたか

それは勘違いだぞ。


「・・・はい」


「俺を守れよ・・・後、可能な限り

ミカリンも守ってやってくれ」


「はい!」


茶をすすりながらミカリンが言った。


「二人とも僕が守るよ」


そう言った後、不満気な表情に

替わり俺に詰め寄ってきた。


「てかさぁアルコには優しくない」


「必要な時に必要なモノを提供しているだけだ」


俺はアッサリと言った。


実は問題はミカリンの方が大きい。


普段、道を歩いている時足元の蟻など気にしない。

蟻が見えても一匹一匹を見わけようなどとも思わない

蟻の集団がいるな。

そんな程度だ。

移動の際、踏み殺しているなどとは

考えないし、そんな事を一々気にしていたら

どこにも歩いていけない。


しかし今、ミカリンはその蟻になった。


元々蟻だった俺だから虐殺に怒りを覚えたが

ミカリンにしてみれば人など

人で言う蟻のような物なのだ。

なんの罪悪感も生じない


更に言えば、あの行為自体が

神の命令で自分の意志では無い。


俺の元の世界でいた国は昔、核爆弾を落とされたが

爆弾を落としたパイロットを責める人はいない

むしろ同情していた。

憎むべきは、その事態を招いた人

落とすと命令した人々であろう。


ミカリンは今脆弱な人間の肉体で

これからの旅で人と接する事になる。

その中で罪の意識が芽生えやしないだろうか


俺は恐怖していた。

フォローしきれる自信が無い。


初志貫徹。

迷った時ほどこれが必要だ。

最初の理想を忘れてはならない。


理想ばかり謳い

現実問題を見ようとしない経営者を良く見かける。

遠くの目的地を目指すが目の前の石に

つまずいて倒れるわけにはいかない。

方向を変えるべきなのに

山を指さしあっちだと吠える。

転ぶっての


逆に目の前の石ばかりみて

目指す先など考えない雇われも多い

確かに現実問題を処理しなければ

ならないが、それに忙殺され

どこに向かっているのか気にしない

忙殺されていれば毎月、決まった給料が

出ると信じている。

その先は崖でもだ。


現実に対処しながら理想を追うのだ。


俺はヴィータに言った。

四大天使は手痛い敗北で天界に帰ってもらうと

敗北は味わってもらったので

後は天界に帰ってもらわねばならん

壊して返却では無い

戻った天界で「人まじ半端ないって」と

吹聴させるのだ。


壊れないように気を使わないとな。


「僕には優しさは必要無いってコト」


ミカリンの文句で我に返る。

一瞬でこれだけ考えたのか


「今はな。必要な時には優しくするよ」


それで救えればいいがな・・・。


「そそそれなら、まぁ」


真っ赤になって慌てるミカリン。

なんか今度はアルコが羨ましそうに見ている。


「はい、ここでチーム名を決めます」


俺は雰囲気を変えるべく突然そう切り出した。


「「チーム名?」」


「そう。この三人のな」


突然変異のベアーマン

人間状態の天使と悪魔

みんな半端者だ。


三人の半端者。


「ということで名づけますチーム名は【三半機関】です」


不評だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る