第8話 見えたら死ぬ星

夕方になる前にベアーマンリーダーは帰って行った。

帰る前に相談を受けた。


「人里を目指すならば共に連れて行って欲しい者がいる」


だ、そうだ。

今度、連れて来ると言っていたがベアーマンの

体格では人里の建物じゃ無理があるし

いくら寛容なベレンでも流石に

入れてくれない様な気がする。

つか

辿り着く前に冒険者に狩られそうだ。


「まぁ、会ってみてからな」


俺は取り合えずそう言っておいた。

会わずに断るのも差別っぽくてやだ

ただ

戦力的には欲しい所だ。

MAX固定レベルの前回ならベアーマン程度は

雑魚だったが今の俺達にはそのベアーマン一体に

全滅させられるだろう。


風呂に入り

夕飯を終えると

石を削って作った皿に注いだ油の灯り

これが消えるまでまったりタイムだ。


「どう思う?」


ベアーマンの貢ぎ物を二人で分けた。

自分の分の手入れをしながらミカリンは聞いて来た。

こいつ生活の事は一切出来ないが

戦闘に関係した事はなんでも出来る。


「バングの事か」


「うん、僕はそんなの知らないよ」


何千年生きてるのか知らないが

天使長も知らないモンスター。


俺はログイン前に見た

メールに添付されていた資料を思い出す。


絵的に一番近いのは死霊(レイス)・幽霊(ゴースト)だが

いずれも非実体で真っ昼間の屋外には出現しない設定だ。

霊象(ファントム)だった場合はどんな実体になるか不確定だ。

霊が引き起こす現象、それこそデカイのでは幽霊船などもそうだ。


なのでバングの外見を有する事も有り得るが、

数がおかしい量産されているのは変だ。


「俺も思い当たらんな」


「どうする?」


目がキラキラしてやがる

この戦闘狂め


「別にどうもせん。ハーレム作りの

邪魔になるなら排除するだけだ」


あからさまにガッカリするミカリン。


「あそ」


「つかベアーマンの話から想像するに今の俺達じゃ勝てないぞ」


ベアーマンパトロール、1組5名

これが2組で当たりバング3匹を倒すものの

ベアーマン6名が重症だったそうだ。


「すぐ強くなる・・・よね」


そうだと信じたい。

最終決戦、ベレンの大空で展開された空中戦

思い出して心が躍る。

あれは俺と、こいつならではの戦いだった。

音速での加減速

互いに動きを読み合いながら撃ち合い交差する光線。

丘を爆破し、がけを崩し

川を蒸発させ、大地を捲りあげて

笑っちゃうぐらい必死に戦った。

誰も間に入れない。

誰も俺達を止められない。

あの時、世界は二人のおもちゃだった。


あの時は敵同士だが今は違う。

・・・強さも違うが


「さあな」


そこで油が切れた。

夜はそのまま就寝した。


ミカリンの歯ぎしりはスゴイ


翌朝になるとミカリンは訓練をしたがったが

食材その他が不足しているので俺は採取に出かけた。


「あの果実もお願いねー」


掃除ぐらいしろってんだ。

俺のそんな思いと裏腹にミカリンは新装備を装着していた。

動きに支障が無いか止め具、ベルトなどの調整も

必要だろう、テストする気満々だ。


かく言う俺も

新装備に調整用の工具まで持っている。

これを着て長距離移動をするのだ

新しい靴と同じで付けた瞬間には

分からない不具合もあるハズなのだ。

体も慣らしていかないとならない。


戻ったのは昼過ぎになった。

途中でやはり装備の調整が必要になったせいだ。

丸太小屋の見える位置まで来ると

ベアーマンリーダーが庭に居るのが見えた。


昨日の今日だぞ。

もう連れて来たのか

いや

一人・・・か

柵を超えて見えているのは

ベアーマンリーダーだけだった。


「おぉお帰りなさいませ」


俺に気が付いたベアーマンリーダーが挨拶をしてきた。

簡単な門を開け俺は庭に入る。


「いらっしゃい。一人か」


ミカリンも庭のベンチで座っていた。

何故だか不機嫌そうな表情になっている。


「いえいえ。昨日に相談した、こいつが

同行をお願いしたい者です・・・・おい挨拶を」


ベアーマンリーダーが立ち上がり

そう言うと

ベアーマンリーダーの陰に隠れる様にもう一人いた。

その人物がリーダーの陰から

恥ずかしそうに出て来た。

獣っ娘のコスプレをした美女だ。


「採用」


ベアーマンリーダーの横に立っていたので

近くに行くまで分からなかったが

デカい

180近くあるんじゃないの


見上げる感じになってしまった。

ビキニの位置に同族の毛皮を身に着けている。

足もブーツ状に同じだった。

後は人の肌が露出している。


おい同族の毛皮使うのか・・・


セクシーなハズなのだが

そう感じないのは肉付きのせいだろうか

水泳選手並みにいい筋肉だ。

なんか二丁拳銃で遺跡を駆け巡りそうだ。


顔は体に反して幼さを感じる。

表情は暗い印象を受けた。

自信なさ気だ。


「腕前の確認はよろしいのか」


ベアーマンリーダーは俺の即答に

コケそうになりながら言ってきた。


「リーダーからの寸評は?」


試す前にそう聞いた。


「恥ずかしながら、パトロールに同行出来る

レベルでは無い、見ての通り体格的に重さも

力も無い、押し付ける様な形にはしたくない

遠慮なく言ってほしい」


自身の評価を改めてリーダーから

聞かされ俯いてしまった獣っ娘。

しまった

すかさずフォローを入れる俺。


「そりゃベアーマンの体格で言えばだな

俺達が行くのは人の里だし

建物も道具も当たり前ながら人サイズだ。

むしろベアーマンの同行が出来ない

彼女なら合格だよ」


後頭部を掻きながらベアーマンリーダーは

更に申し訳なさそうに言ってきた。


「ふむ、サイズは良いかもだが

器量は見ての通り・・・良いとは言えない」


俺は瞬間湯沸かし器になった。


「はぁ?ドコに目ぇつけてんだ

すっげぇ美人じゃないか」


まぁ種族が違うのだから美的感覚も異なるか

ベアーマンの常識ではブスになるのか

俺は付け加えた。


「人族の美的感覚では美人になる顔だ」


「そうなのか?それはもっと早く知りたかったな」


ベアーマンリーダーは驚いていた。

獣っ娘は俯いたままだったが頬が紅潮している。

いたたまれなさ、から恥ずかしさに変わったようだ。


「で、彼女の名前は」


なんと

名前は無いそうだ。


彼女だけでなくベアーマン一族に

固有名詞を持つ者は皆無だった。

ちなみにリーダーは「若頭」と呼ばれ

彼女は「若頭の妹」と呼ばれていた。


そう言われてみれば

前回に会ったベアーマン達の中に

名前で呼ばれている者は居なかったなぁ


「じゃあリーダーは若頭の妹の兄なんだな」


「若頭で良いでしょう。なんで一回

壁打ちして跳ね返す必要があるのですか」


タダクニネタが通じるハズも無いか


「じゃ腕前の確認を・・・ミカリン」


「はいよー」


俺が下らないギャグを言っている間に

ミカリンは準備を済ませていた。


「よ・・よろしくお願いします」


声は体格のせいもあって若干低音だが

大人の女性って感じが良い


「ん?装備は」


そのまま構えた彼女を見てミカリンが疑問を口にした。


「あーベアーマンは基本、爪での格闘がメインだ」


俺はそう言ってやった。


「お詳しいですね」


若頭がそう言ってきた。

森の妖精から聞いていると答えて置いた。


「OK-じゃあいっくよー」


剣だけは稽古用のレプリバーンに替え後は新装備だ。


鋭い前進から跳躍。

早速、練習中の疑似三次元剣術で牙向くミカリン。


「「ほぉ」」


若頭はミカリンに

俺は両方に感心して声が出た。


彼女の体術はどちらかと言うとチャッキー寄りだ。

体の軸を変幻自在に移動させ

あらゆる方向から蹴りや突きを繰り出して来る。


ミカリンも凄い

相手の掃う動作に盾を合わせ

自身の回転する動力に逆利用して

次手に繋げている。


「OKOK、十分でしょ」


互いに白熱し始めた、ケガする前に中止だ。

どっちが強いかじゃない

同行出来る実力を有しているかどうかだ。

もう十分、検証出来たと言える。

俺は拍手をして稽古を止めた。


二人はぐったりと荒い呼吸をしながら礼をした。


若頭は地面に仰向けに寝そべり

両手を頭上に投げ出す恰好になった。

ベアーマン流の最敬礼だ。


「未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します。」


その習慣は直して無いのね。


彼女も兄に習い

同じ格好になって言った。


「よよよろしくお願いいたします。」


エロい

やめて


「こちらこそよろしく、えーと

んー名前が無いと不便だな」


俺はメニューからパーティーを見る。

若頭の妹があった。


 種族:獣人

 状態:普通

クラス:ファイター

ジョブ:グラップラー


うぉLVは10じゃないか。

ふむふむ

名前はミカリンと同じで空欄点滅だ。

これは俺が付けられるな


「付けてもイイ?」


念のため称号をゴットファーザーにしておく

ふと、見ると

ベアーマン兄妹は怪訝な表情で見つめ合っている。

なんだ


「ゼータは名付が出来るよ。僕も貰った」


兄妹の不安を察したミカリンが気を利かせて解説した。


「ゼータ様そそそれならば、私より

兄に付けては頂けませんでしょうか」


「何を言う、お前がゼータ様に仕えるのであろうが」


美しい兄妹愛だな。


「なんなら二人とも付けようか」


若頭もパーティーに入れる必要がある。

俺は一時的で良いから

俺の指揮下に入る様に説明する。

具体的には何もしなくて良い

それを受け入れる了承をするだけだ。


「・・・どうですか」


入った

4人目に若頭が入った。

うお

LV40かよ

・・・・・

前回の俺とミカリンは

一体いくつだったんだろう


俺は指でOKサインで伝える。

さて何て付けるか


「希望はあるか?」


首を横に振るベアーマン兄妹

全くイメージ出来ないそうだ。


勝手に名乗る者がいないのも

そもそもイメージ出来ない事に

起因しているのかも知れない。


「うーん熊だろ・・・プー」


「アモンいけない!そこだけは洒落にならないよ」


相変わらずツッコミが速いなミカリンは

確かにDの一族に睨まれるのはマズい

輝きが眩しければ眩しい程

発生する影は濃くなっていくのだ。


「じゃあ・・・素敵よお客さん」


「いくつだよKつばめなんて

もう誰も知らないよ。大体セリフで

名前じゃ無いじゃん」


黄金期のチャンピオンを知っているのか。

さて

そろそろ真面目に考えるか。


俺は兄に「マイザー」

妹に「アルコ」

と、命名した。


由来は大熊座の尻尾の部分

いわゆる北斗七星の連星からだ。


あの伝説の格闘マンガで

見えたら死ぬ星がアルコに当たる。


実際は見えなくなると

死期が近い(老眼)という伝承なのだが

あのマンガでは何故か逆の設定だ。


「はい終了と・・・・ん?」


なんか兄妹の顔が凛々しくなってる気がする。


「んーもう勝負にならないかな」


ミカリンが嘆いた。

そういえばミカリンはまだLV5だった

それがLV10のアルコと互角に打ち合った。

これは名付によるブーストだったのか

それが今、同じ条件になってしまい

本来のレベル差が浮き彫りになった。


どの位、上昇するのか

ステータス画面を・・・

あー名付前の数字を記憶してない。

見ても分からない。

次に機会があれば

名付前の数値をメモしてからにするか。

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