第6話 そりゃ前とは違うわな

「取り合えず風呂から上がるので

家の中で待っていて欲しかったが

うーん・・・人数が多すぎだな」


俺がそう言うとベアーマンは代表者と

2名程が残り他はパトロールへと戻って行った。


体を拭いて服を着ている最中

ミカリンは小さい声で聞いて来た。


「知り合いなの?」


「個別は知らんが、部族としてな

前回、エルフ族との交渉の架け橋をだな」


「栄光の高橋か」


架け橋な


着替え終わり丸太小屋に戻るが

ベアーマンの姿は無い

表から声がした。

うっかりだ

彼等の体躯では丸太小屋は小さすぎて入れない。


適当に飲み物と食い物を見繕って庭に出ると

3人は適当な大きさの岩に腰掛けて待っていた。


すげぇな

その辺の岩なんだろうがアレを運べる腕力って

今の俺には1mmも動かせないだろう


話を聞いて見ると

事の始まりは

ラハの行ったエルフの里襲撃からだった。


あの後、エルフの生き残りは別の場所へ移動したが

大幅に戦力を失い、里は事実上壊滅で

ナワバリを維持できない状態だった。


これを知ったベアーマンの部族は意見が分かれた。

縄張りを奪う好機と見る者と

エルフの替わりに縄張りを防衛する者だ。


後者の「森の妖精の怒りに触れるぞ」と言う

意見が採用され

前者は岩山の本来の里に残り

後者が森に出てきてエルフの森を守っているそうだ。

今日の様に不定期で森の様子を

パトロールしているとの事だ。

縄張りを守る報酬は森の採取で頂いているそうだ。


偉いな。

あの交渉の時もそんな提案もしたのだが、

あの時はエルフ側に十分な戦力があったから

不可侵になったんだっけ

まぁ

その時の交渉の下地が今回に生きている様なので

あの時の努力も無駄じゃ無かったって事だ。


「プラプリのやつは元気にしてるのか?」


俺はエルフの生き残りで懇意にしていた

人物について聞いた。

ベアーマンのリーダーは

驚いた表情

多分、そう言う表情だと思う

今一彼等の表情は良く分からない。

に、なって答えた。


「里長ともお知り合いなのですね」


里長

ラハの襲撃で生き残れなかった。

プラプリが引き継いだのか

まぁ適任だよな

つか他に居ないか


「そうか里長になったのか」


新エルフの里にも行きたいな

プリプラはどんな状態になっているやら

カルエルはまだ居るのかな。


「・・・ご存じなかったという事は

古いお知り合いですか

それにしてはお若いようだが・・・」


ベアーマンリーダーが混乱している。


ここで嫌な予感がした。

彼等の装備

ベアーマンの装備はもっと下等だった。

しかし、今彼等が身に着けている装備は

人間のと差の無いレベルにまで加工がされていた。

紐を結んで固定では無く

三本の爪でも脱着が出来る様に

加工化された留め金などで連結されているのだ。


体格の差から言って人間用のは流用出来ない。

奪った装備では無く、最初からベアーマン成人用サイズで

作られているのだ。

それを作れる職人と設備を用意しなければ出来ない事だ。


短期間ではあり得ない事だ。


死に戻りの際の今まで感じた事の無い感覚

単純な転移では無かった事は間違い無い。

そして今の肉体年齢。


俺は確認をしてみる事にした。


「なぁリーダー」


「はい」


「あの歌はいつ覚えたんだ」


俺がそう聞くとベアーマンリーダーは喜びの表情・・・

だよな

を、浮かべ答えた。


「よくぞ、聞いてくださいました。

私は何と直に森の妖精様から

伝授された数少ない者の一人です」


こんな奴居なかったぞ。

大人は族長に任せて俺が直接教えたのは

殆どが子供相手だったはずだ。


横から他のベアーマンが口を出してきた。


「うらやましいです。私は

その頃産まれていませんでしたので」


・・・・。


一通り話をしてベアーマン達はパトロールに戻って行った。

笑顔で手を振り見送りながら俺は横で手を

ブンブン振っているミカリンに聞いた。


「お前知ってたか?」


「何を?」


「時間跳躍」


ベアーマン達からの聞き込みで今いるこの世界は

恐らく最終決戦の日から10数年が経過しているのだ。


思えばキャスタリアが盾を拾って来た時に

気が付けたハズだ。

あれだけ苔むしていたのだ。

何年か経っているのだ。


「ううん、僕だって初めてなんだから」


思えばミカリンは天界から出張してきて

暴れただけで、現地人に知り合いなど

殆ど居ないであろう。

時間の経過は気にする様な事では無いのかも知れない。


だが俺は違う

色々すったもんだして

知り合いなども結構居るのだ。


「何か問題?」


俺の質問の意図をミカリンなりに

考えたのかミカリンは俺に

そう聞いて来た。


「うーん、いや先に知っていたかっただけだ」


思えば今の俺は、こんなチンチクリンだ。

13将・序列1位の魔神でも

女神の懐刀でも

G級を倒す程の実力冒険者でも無い


中身の人格がそうだと言っても

今の俺には証明する手段も無い

仮に証明出来たとしても

この最底辺のチンチクリンの実力しか

今の俺には無いのだ。

何の役にも立たない

つか

もう役は無いだろ。

降臨は終了したのだ。


むしろ今回の目的

ハーレム作りに、かつての現地人どもが

協力してくれるとも思えないし

・・・・

頼んでもスゲェがっかりさせるだけだ。


旧交を温めるのは太郎と小梅だけでイイな。


生まれ変わった子供ゼータ・アモンとして

新規開拓だ。

どうせLV1だしな。


「ミカリン。明日からはLV上げをするぞ」


「LV上げ・・・・って何?」


起きてから説明すると言い、その日は就寝した。


そして翌朝。

超ガッカリする事態になった。


「痛ーい。また皮膚がめくれたー」


「見してみろ」


俺は何度目かの回復呪文をミカリンに掛けてやる。


四大天使で専用武器が剣

LV1で人間状態だとしても

剣のスキルは保有しているハズだ。

ミカリンは最強の剣士になれるハズ。


現にこの俺もLV1の力の範囲内で

再現可能な魔王流剣術は再現出来たのだ。


木を削り出し、重心なども細かく調整し

互いの得意な得物のレプリカ練習用の木刀を作った。

名前も掘った。


俺のは感謝祭のレプリカ「祈年祭(きねんさい)」

ミカリンのはレイバーンのレプリカ「Repliburn(レプリバーン)」だ。


「痛いよー」


「泣くな。呪文が効いてもう治まっただろ」


で、この有様だ。

打ち合う以前の問題が発生してしまった。

ミカリンの剣術には足捌きが無かったのだ。


思えば地上の移動でもこいつは浮遊して移動していた。

剣術も360度方向からの飛行を前提にした技ばかりで

二足歩行の移動自体ロクにしたことが無いのだった。


稽古以前の問題だ。

ミカリンは何もない所でも転ぶ

いたよね、こんな女子


「おい奴隷」


「はい主様」


「リスタートから今までで」


「はい」


「お前、何か役に立ったか」


俺が服を縫い、木を伐り出し、家や家具を作り、

採取して、メシ作って、風呂も準備して

何もかもやった。


それはミカリンもやったが

あくまで手伝いの範囲だ。

天使のミカリンは上記の経験が

一切無いのでやり方を知らないのだ。

んで

つい最近までは

何か新しいもの食っちゃあゲーゲーブリブリ

しょちゅう熱出して寝込んでいた。


俺は上記をすんごい早口で言って最後に言った。


「これじゃ、どっちが奴隷だか分かんないだろ」


期待していた戦力でも、この有様だ。

流石の俺も我慢の限界だぞ

この役立たず


ふと見ると

ミカリンは正座で震えていた。

・・・・また泣かしてしまった。

俺は慌ててなだめ

これからがんばろうと励まし

昼飯はミカリンのお気に入りの果実を

採って来てやると言い。

ようやく機嫌を取り戻す事に成功する。

ふーよかったよかった

さて果実を採りにいくか。

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