第5話 上品、中品、下品……章のランク
「はぁ……はぁ……ま、まだ着かないんですか?」
「何ですか、もうへばっちゃったんですか? もうしっかりしてくださいよ~。
まだ32歳なんでしょ? 享年」
天空省の統括部長に会うために雪宮と京子は天空省の階段を上り続けていた。今はようやく20階の表示が見えた地点。地下からだと約30階も上ったことになる。
階高が15m程度もあるだけに1階あたりの段数は100段……それはここまで上って来る間の1階あたりの段数を京子が数えたため間違いなかった。
(はぁ、1階分を上がるのに100段。合計8100段……じ、地獄だ)
「ほらほら頑張ってくださいよ。こんな階段これから何度も利用するんですから」
「えっ?」
耳を疑った。こんな鬼畜のような……地獄のような所業がこれから毎日繰り返されるというのだろうか。
「な、何でこんな階段で行かなくちゃいけないんですかぁ。え、エレベーターとかないの!?」
「あ~~ありますよ」
足を止めた。すぐさま。そんな便利なものがあるならすぐにでも使いたかった。これほどエレベーターを切望したのは後にも先にもこれが最期だろう。もう死んでいるから先はないのだが。
「じゃ、じゃあ乗りましょう!! 今。すぐ。それなら70階まですぐに行けるじゃないですか!」
「だめですよ……日下さんは
「ちゅ、ちゅうぼん??」
また訳の分からない、聞き覚えのない言葉が聞こえた。雪宮は京子の背後に回り込んで後ろからぐいぐいと押して無理やり階段を上らせるように促していた。
「あれ…もしかして
「ぐっ、くううっ」
ぐいぐいと腰を押すのに加えて京子は心をぐいっと押されたような気がした。
「いいですか? 中品っていうのは生まれながらの品のことです。それぞれ3種類……
「あっ……た、確かに」
大学から東京へ上京してきていた京子は多少は東京の地名に詳しくなっていた。そして雪宮の言う九品という地名も知っていた。
「本来上品は元々善で下品は悪……。だから頑張っても意味ないよってことなんですけど、それじゃあみんなが頑張れないし良くないよねってことでここ
「ら、ランク??」
「そうです。六道……つまりは日下さんのいた場所ではそれぞれの役割や生き方をしてもらうんです。それで各道をたくさん回って色々経験して自分の生き方や考え方が固まってきたら今度は中品にランクアップします。ほらっ、足を進めてください!!」
「あっ、お、押さないでよ。エレベーターあるんでしょ!?」
「中品に上がった後は今度はここ
京子のエレベーター乗車の提案を無視するように雪宮は話をつづける。
「そうして徳を積んでいってさらにランクアップしていって最終的に上品上生になって両目が開眼した状態でさらに翡翠を手にすることで日章国へ行くことができると言われています。ちなみにエレベーターを使えるのは上品の位になったものだけ……なので日下さんやあたしは使えないです。あたしも中品上生なんで」
「そ、そんな!!」
京子の希望はあっさり打ち砕かれた。現在地が30階付近であるため、これで目的地である70階までの道のり約4000段の踏破が必須となったのだ。
「あっ、ちなみに現でよく使われてる
雪宮は豆知識を披露してくれているが京子の頭の中は残り4000段の踏破のことで頭がいっぱいだ。すでに足は動くことを拒否している。完全に脳からの指令は断絶されるほどに。
「本来は日下さんは課長になれる身分じゃないんですよ?
「そ、そんなのあたしに言われても知らないですって。ってか、どこの神社やお寺に8000段以上上る鬼畜階段が……あ、あるんですか」
雪宮の説明を聞いてとりあえずは京子は自らがランクの位置が分かった。上品、中品、下品とあってそれぞれに上生、中生、下生で3×3の9ランク。中品下生ということはつまり上から5番目。真ん中よりも下のランクである。
「まぁ、ここも色々と人材不足なんですよ。だから、少しでも人手が欲しいんですけど最近じゃ現の人間も信念? っていうのがないんですかね……何かぼけっと生きてるって言うかこうしてやろうっていう気持ちがないよなって言うのは皆言ってて」
ずいぶんな言われようだ。現世では、現では自分なりに一生懸命に生きていたつもりであった。それ以前に大抵の生き物は必死だ。大抵の動物は生きるために必死だし、人間だって大半の人間は自分が生きるだけで手一杯の時代。雪宮の話のようなランクがあって自分たちがそんなランクで振り分けられてるなんて普通は想像もしないだろう。
それに色々と一方的な説教をしているようだが、京子は気が付いていた。
「ねぇ……さっきから偉そうに説教してるところ悪いんだけど……ちょっと浮いてない?」
「ぎくう!!」
この女、目の前で歩いているように足を器用に動かしてはいるが……あきらかにちょっと浮いてた。京子の指摘はどうやら図星だったようだ。京子の指摘に雪宮の背中がびくっと上に飛び上がった。
「あっ、バレちゃいました?? これがあたしの能力……浮遊なんですよ」
「能力??」
「そうです。この左の眼の動力のおかげなんです」
そう言ってこちらを向いて微笑んでくる雪宮の指差しをして示す左眼を見ると右の眼と色が違っていた。その眼は黄色い瞳に中の瞳孔が細長い茶色というこれまた変わった眼であった。
「あたしも
そう言って雪宮は自慢げに京子に話し続けたが、すでに京子は考えることや聞くことをやめた。ただひたすらに無言。足を動かすことに全体力を集中させてただただ8100段の道のりを上り続けた。
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