『カトリと霧の国の遺産』 東曜太郎
『カトリと霧の国の遺産』 東曜太郎
一九世紀後半のスコットランド・エディンバラ。街に蔓延った眠り病事件をカトリと親友のリズとともに解決してから半年が経った。カトリは博物館で働き出したが、仕事になかなか慣れることが出来ないでいる。
ある日、博物館にはジョージ・バージェスという古物収集家からの大量の寄贈物があった。生前のバージェスが決して人には見せなかったというコレクションの整理をするカトリが、それが「ネブラ」という国にまつわるものだと知る。しかし、博物館の誰もがそんな国のことを知らないという。
果たしてこの寄贈物は歴史的な新発見につながるものなのか、それともただの偽物なのか? 明らかにならないままバージェスの寄贈物の特別展が開催される。そしてそれを訪れた人々が行方不明になってゆく事件がおきる──。
『カトリと眠れる石の街』の続編。前巻と同じく、エディンバラを舞台に巻き起こる怪事件の謎を解くカトリとリズの冒険が語られる。
少女達の冒険物語のように始まって、コズミックホラーな物語に展開する前巻と同じく、今回も怪奇な事件に巻き込まれるカトリ。それも、世捨て人同然だった老人が生み出した架空の世界に囚われてしまうという内容で、前巻より幻想小説的な風合いが強い。
ネタバレになってしまうけど、孤独な老人が作り出した緻密な幻想世界の住人になってしまうあたりが私のツボをかなりグリグリついてきた。ヘンリー・ダーガーだとか、孤独な人間が自分だけの強固な世界を作り上げていたっていう、こういうのが好きなんである。
ありもしない架空の国ネブラに囚われてしまったカトリが、幻想の外にいるリズとともに知恵を出し合って脱出をはかるという冒険も含めて楽しく読んだ。でも前巻と比べるとこちらは活劇的な場面がやや少ないのが不満だったというような感想をtwitterで見かけたりして、愕然とした。石の街も面白かったけど、こっちも全然劣ってないではないか。孤独な爺さんが生み出した、学術的に全く価値のない架空の街に囚われるんだぞ。最高じゃないか。もうそのシチュエーション思いついただけで勝ちだよ。
そんなこんなで私としては大好きなカトリシリーズ第二巻であった。
ところでこの感想文を書いている二〇二五年七月現在、カトリシリーズ三作目でエディンバラ編完結編となる『カトリと夜の底の主』読了済みだったりする。本作までは下町育ちのカトリと気の強いお嬢様のリズによる健全な少女バディという趣だったのに、三巻目では急に非恋愛系の百合の度合いが高まっていて大変驚かされたのだった。まさかあんなことになるとは──。この巻では全く予想していなかった。
ライトノベルや児童文学の現在に云々する人が多い割に、実際に読んでいる人はあまり多くない気がするカクヨム界隈。最近の児童文学ってどんなのがあるのか気になった人は是非カトリシリーズを手に取ってもらいたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます