『モノクロの街の夜明けに』 ルータ・セペティス
『モノクロの街の夜明けに』 ルータ・セペティス 著 野沢佳織 訳
チャウシェスク政権下のルーマニア、一七歳の高校生クリスティアンは秘密警察セクリターテに密告者になるよう命令される。密かにアメリカ大使の息子と繋がりを持っていたことを誰かに密告されたが故の命令だった。自由と民主化を求めるクリスティアンには耐え難いものであったが、人々を監視するセクリターテの存在は恐ろしく、誰が自分を密告したのか分からない環境で疲弊せずにはいられない。家族ですら信じられなくなる中、親友のルカ、ガールフレンドのリリアナ、そして民主化への達成を諦めない祖父を支えに暗い時代を生き抜く。
東欧諸国の民主化の波はルーマニアにもようやく訪れ、一九八九年に革命が起きる。街中が大混乱に陥る中、クリスティアンとルカ、リリアナは逮捕され離れ離れになり、拷問を受ける──。
緻密な取材を元にして二十世紀の歴史が題材の物語を書くYA作家の邦訳三冊目。これまでの題材も、リトアニア人のシベリア流刑やヴィルヘルム・グストロフ号の海難事故など、独裁や戦争で理不尽な事態に見舞われた人々の生き様を描いたものだったが、本作もとにかく苛烈で過酷である。秘密警察に監視された息づまる生活、貧しく余裕のない暮らし、人間としての尊厳も無いも同然の毎日。その中でも自由への希望を失わずに生きるのは並大抵のことではないだろう。
抑圧された日々も革命が来て終わりというわけではなく、暴力が蔓延り、警察に不当逮捕された市民たちは身内に知らされることなく劣悪な刑務所に連行される──といった惨たらしい展開が続く。
歴史の流れと同時にクリスティアンを密告したのかも明らかになるが、それもまた救いがない。
とにかく容赦がないので、読むには気力がいる一冊ではある。そんな中でも、命懸けで手に入れたアメリカ文化に魅入られたり、恋に浮かれたり友情を築いたりといったティーンエイジャーらしい青春模様が息抜きになったりするのかもだが……。実を言うと、「歴史的な事件や事象については硬派で読ませるのに、主人公となる少年少女の日常描写になると一気にベタになるというか、典型的なアメリカ産YAになるというか、とにかく異性愛ロマンス脳になっちゃうのだけはどうにかならんか?」という印象を抱いていたので、本作にもそのあたりが顕著だったのは如何ともし難いのだった。
ところで、チャウシェスク政権といえば、とにかく子供を増やすことだけを考えた結果、むやみやたらと妊娠を奨励したり中絶や避妊を禁止した結果、誰からも顧みられない無数の孤児を生まれさせたことなどで知られている。本作でも国民の生殖に口を出す国家の悍ましさがしっかり書かれている訳である。いや本当に、国が個人の生殖やら繁殖やらに口を出すのは全くよろしくないよ……。
これを書いている二〇二五年七月現在、個人の結婚や妊娠出産に口を出す気マンマンの政党の主張が日々繰り広げられているのだけど、本当にもう勘弁してほしいというしかない。そんなもん認めた末に待っているのは地獄だけである。
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