私はカサンドラ

「夫のせいなの、ぜんぶ。」


 幼馴染のA子は顔を机に伏せて泣く。人の少ない午後のファミレスで。


「裕太の発達障害は、夫の遺伝よ。あの無表情な顔、トンチンカンな答え。こっちが病気になったわ。カサンドラ症候群。ネットのチェックリストで全部当て嵌った。」


 A子は泣きじゃくる。彼女は数年前に結婚し

た。


「夫と居ると、イライラするの。私がつわりの時にフライドポテトを平気で食べるし、家事だって全然やってくれない。」


 ドリンクバー用のグラスならゆっくりと結露が伝い落ちてゆく。


「仕事ばっかりで一度パソコンを開くとそればっかり。「僕は言ってくれなきゃ分からないからして欲しいことがあったら言って欲しい。」だって。馬鹿みたい。察してくれないの。」


 彼女はバン、とテーブルを叩く。


「私はカサンドラ。カッサンドラなの…二人の化け物に挟まれて一生を棒に振るの…全部…あいつのせいだわ…」


 彼女はおおげさな、芝居掛かった口調でまた泣いた。その隣では息子の裕太君が紙ナプキンで黙々と鶴を折り続ける。


 彼女はネットのチェックリストをかざす。夫と息子の発達障害。彼女のカサンドラ。その根拠を示す都合のよいリスト。私が話を切り上げようとするとA子は泣く。


 哀れなカッサンドラ。増殖する鶴。堂々巡り。診断書のように翳されるリスト。ほんとうに、すべて彼女の夫のせいなのだろうか。考えているうちに日は暮れていった。




 

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