作家じゃあるまいし

 真っ白な紙。よく滑るゲルインキのボールペン。早く目覚めすぎた朝はいつもこうやって過ごす。


 机に向かい、書きはじめる。さあ、続きを書こうか。


 物心がついたころから、気が付けばいつも何かを書いていた。フレーズ、散文、文章。小説。物語。自分の中で形を成した短いストリーム。


 書かなきゃいけない。時間の経ちすぎたおまじないは、いつしか強迫観念に変わっていく。書けなきゃいけない。書けなきゃいけない。おかしい、作家でもないのに。


 自分を慰める、自分だけの物語が欲しかった。ただ、それだけだった。


 なのにどうしてこんなに胸が苦しいのだろう。どうしてやめられないのだろう。


「作家じゃあるまいし」


 言い聞かせるように声に出す。止め忘れた目覚ましアラームがけたたましく鳴りはじめた。「さあ、現実のはじまりですよ」と告げるように。


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