不愉快な類いの話365
日谷津鶴
コンゴウインコ
そのインコをペットショップで初めて見たのは私が小学1年生の頃だった。動物園に居るような大きな赤色の鸚鵡の羽は美しい。
値段を見るとなんと百万円だった。中学生になってもインコはそこに居た。半額になった50万円でも十分高い。
「イラッシャイマセーイラッシャイマセー」
覚えた言葉を壊れたスピーカーのように繰り返す。
鸚鵡は長寿らしく私が高校生になっても大学生になっても売れ残っていた。
羽はだんだんボサついて色褪せていく。小さな文鳥の雛が売れていく中で鸚鵡は一羽取り残されていた。
私が会社をクビになった帰りにペットショップの前を通ると閉店、とあった。
ああ、近くにホームセンターもできたし潰れたんだ、と余計に悲しくなった。
どこかから「イラッシャイマセーイラッシャイマセー」とあの声が聞こえる。
ガラスのドアに手を掛けると鍵は掛かっていなかった。
薄暗い店内に並んだ空のケージに月明かりが落ちる。
犬猫のショーウインドーも魚の水槽も空で堆く積まれたペットフードもウサギの糞も何もかもが消えていた。
鸚鵡の柵があった店の角に恐る恐る足を向ける。
「イラッシャイマセー、イラッシャイマセー」
そこに鸚鵡は居た。床に散らばる赤い羽。
「イラッシャイマセー、イラッシャイマセーペットショップららぱるーとへヨウコソ、ヨウコソ」
子供の頃は高く感じた柵を乗り越えて羽根の抜け落ちた鸚鵡を抱える。百万円がこんなにも軽いことを初めて知った。
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