癒しの術を使うことのできる男が過酷な世界で女の子達に慕われていき、いつの間にかハーレムの規模が大きくなって気がついたら教団が結成されていたお話
@yukinokoori
異世界人
幼い頃から見えるべきでないものが見えていた。
どのようにしてこのような現象が起きるのかすらわからない。
自身が普通ではないことを理解できなかった。
未成熟な精神では独りで生きていく方法など知る由もなかった。
故に世間は自身を除外する。
この理は成熟した現在になってようやく理解できたことだった。
「ちょっと‥」
そこまで考えて青年‥神崎 優は声の発生源を鬱陶しげに見た。
そこには現代社会では考えられないような姿をした少女がいた。
その少女は西洋の出身であることを表す月のような金色の髪に宝石のように輝く碧眼。
均整のとれた端正な顔立ちは背筋を振るわせるほどに美しい。
しかし、異様なのはその風態である。
緻密な紋様が描かれた銀製の甲冑を身につけている。
現代社会においては仮装にしか見えない格好だ。
六畳一間という和室ではあまりに浮いた存在だった。
「ねえッ、聞いてるのッ」
苛立ちをを表情に浮かべて少女‥リーナは優に詰め寄った。
リーナは美声と言っても過言ではないにも関わらず、常に話すときの声量はまるで怒っているかのようだった。
そのせいで優はリーナの口数の多さに辟易としていた。
「‥どうした?」
億劫な気分を押し殺して答えた優にリーナは眦に涙を滲ませて怒鳴った。
「なによッ、アタシあんたに嫌われるようなことした!?」
いきなりの絶叫に優は呆気に取られたようにリーナを見た。
そんな優の表情を見てリーナは更に勢いよく捲し立てた。
「何でいっつもこんなに帰ってくるのが遅いのよ!前はもっと早く帰ってきてくれたのに!何で最近はこんなに遅いの!」
リーナの危機迫った様子に優は困惑した。
事前に帰宅する時刻は教えてある筈だ。
にも関わらずこの状況は不本意だった。
「だから‥仕事だよ‥仕事。行っておいただろ?それに飯は冷蔵庫にあるだろ」
優の反論に対してリーナはそれが事実であったために黙り込んだ。
しかしそれも一瞬のことで再び堰を切ったように話し出す。
「だって‥アタシずっと独りだし‥。寂しいのよ‥」
勝ち気を通り越して傲慢と言っても過言ではないリーナの性格にあるまじき弱々しい声音に優は困惑した。
確かにリーナという少女はこの六畳一間の空間から一歩も出ることのない生活を送っている。
それは現代社会においては引きこもりという人種に該当する。
しかし、リーナがそのような生活を強いられているのは仕方のないことだった。
リーナはこの国では自力で生活をすることもままならない存在だった。
「しょうがないだろ‥だってリーナは異世界人なんだから」
リーナという少女は優の家に突然現れた。
元の世界では何でも屋を営んでいた
危険な仕事を請け負い生活の糧を得ていたリーナは安易に高額な報酬を得ることができる難易度の高い依頼を受けた。
その洞窟は未探索の場所であったために報酬は高値であった。
しかし、一歩その洞窟に足を踏み入れると目の前に広がっていたのは卓袱台で夕食を食べている優の姿だった。
リーナは優に対して不思議と警戒心は抱かなかった。
それから元いた場所に帰ろうと試行錯誤したものの帰還することは叶わなかった。
優は目の目で起きた超常現象に取り乱すことはなかった。
このようなことは優の人生においては幾度もあったことである。
故に冷静に対応することができた。
優はできるだけ相手を刺激しないようにもてなした。
空腹を訴えていたので食事を与え、疲労が溜まっているように思えたので風呂を貸した。
リーナは落ち着いたようで脚を崩して座り込み、上機嫌に話してくれた。
話し合いで出た結論は帰ることができないという事実であった。
それからは仕方なしにリーナを住まわせて既に三年が経過していた。
気が遠くなるような時間この狭い空間に閉じ込められているリーナにとって接することができる人間は優だけだった。
故に優を求めるこの感情も致し方ないことだった。
「ええ‥そうね‥、優はアタシよりもお仕事が好きだもの‥。アタシなんかどうでもいいのよね」
責める姿勢から一転自虐を始めたリーナを見て優は焦燥を表情に浮かべた。
「いや‥そんなことないけどな‥」
優の自身を肯定する言葉にリーナは心が満たされるのを感じていた。
優の言葉は何故かリーナの心に強く訴えかけてくる力を持っていた。
元々他人と関わることを鬱陶しく思っていたリーナにとってそれは新鮮なものであると同時に切なさをもたらした。
「嘘‥だって‥最初の頃はアタシに夢中だったじゃない。なのに最近は全然家に居ないわ。‥もうアタシに飽きちゃったってこと?」
優としては近頃忙しい日々が続いていただけなのだが、リーナからすれば捨てられたような心境だった。
優はそんなリーナの様子に良心を刺激されてリーナに歩み寄り、抱きしめた。
優の身体の暖かさが伝わってリーナは喜悦を表情に浮かべた。
「ごめん‥そんなにリーナが思ってくれていたなんて‥」
リーナの孤独を訴る必死な表情はことの深刻さを現していた。
改めてリーナの危うさを理解した優は落ち着かせるためにやさしい声でリーナの耳元に囁いた。
リーナは身体を震わせて頬を紅潮させて優を蕩けた瞳で見つめている。
「‥いいわよ‥許してあげる‥。その代わり明日はずっと居て」
リーナは懇願する様に優の体を強く掻き抱いて甘い声で言った。
元々好きでしている仕事ではないため急なお願いに対して優は快く頷いた。
「わかった。明日は一緒にいよう」
その言葉にリーナは心の底から喜びの感情が溢れ出してくるのが感じ取れた。
今まで感じていた不安は一気に吹き飛んだ。
「やった!じゃあ明日は何しましょうか‥。そうだわ!この前優が言っていた映画というものを見たいわ」
目を輝かせて捲し立てるリーナに優は苦笑しつつ冷蔵庫から夕飯を取り出す。
冷めているが温めるのも面倒だった。
そのまま食べようよしたところリーナは優から皿を取り上げてレンジの中に入れた。
「それじゃ美味しくないわよ」
リーナの気遣いを感じ取れる行動に優は心が暖かくなるのを感じ取れた。
優はリーナの頭に自身の手を置いて無造作に撫でた。
リーナは唐突なその行動に目を白黒させながらも心地よさを感じていた。
「んッ‥もう‥いきなりなにすんのよ‥もしかして甘えてるの?」
リーナは輝く金髪を煌めかせ首を傾げた。
西洋の人形のような顔立ちは大変可愛らしいものであるため優としてもリーナのその仕草は意識せざるを得なかった。
「‥そんなわけないだろ」
若干間を置いての返答にリーナは合点がいったとばかりに笑みを作る。
口の端が吊り上がったあくどい笑みは優を揶揄うものだった。
「なーに?照れてるの?うふふ‥かわいいわね」
凄まじい羞恥心を感じた優は否定しようとするものも上手い返しが浮かばず沈黙した。
その様子を見てリーナは更に笑みを深めて優の耳元で言った。
「アタシ‥優のそういうところ‥好きよ」
甘く囁くようなその言葉に優は背筋に喜悦が走るのを感じた。
リーナのような美貌の少女にそのような言葉を受けることなど人生においてそうそうない機会だ。
少なくとも優は健全な男であるため悦びを感じるのは当然だった。
「あ、今嬉しかったんだ。ちょっと震えてたね」
より身体を密着させたリーナは優の背中の手を回しながら言う。
リーナの身体は成熟しており依然として成長期である豊かな胸部が優の胸板に押し潰されて形を変えた。
その柔らかさに優は自身の思考力が鈍るのを感じたため即座にリーナの肩を掴んで引き剥がす。
「もう‥まだ慣れないの?」
呆れたように碧眼の瞳を細めてリーナは優の胸板に手を置いてしなだれかかる。
リーナの異常な力の強さに肩に置いた両手は容易に外されて押し倒されてしまう。
馬乗りになったリーナの金色の髪が優の顔にかかった。
染色とは比べ物にならない純粋な輝きを放つそれはサラサラとしていて癖一つない。
「リーナ‥流石に俺も男だってことをそろそろ認識してくれ」
優の嘆きに対してリーナは艶然とした笑みを浮かべて応じた。
「そうね‥優は男でアタシは女ね。そしてこんな狭い場所で二人きり」
リーナの手が優の頬を撫でた。
その動きは何処か背徳的なものを感じる仕草。
もう片方の手も優の顔面に添えられる。
両手に顔を挟まれた優は動揺した面持ちでリーナを見ている。
リーナはクスクスと笑みをこぼして優の顔をジッと見つめている。
白くすべすべした指先が優の頬を頬を撫でる。
その度に優は自身の理性が崩れていくのを感じていた。
「優は最近元気ないね‥アタシも見てて辛いよ」
リーナは優の顔に自身の顔を近づけた。
リーナの長い睫毛が数えられるほどの近距離に優は心臓が高鳴るのを感じた。
「リーナ‥」
吸い込まれてしまいそうなほどに綺麗で大きな瞳が優の瞳を覗き込んでいる。
互いに見つめあって二人の吐く息が混ざりあっているのが優には感じられた。
リーナの吐くそれは甘さが感じられてそれが優自身を侵食して行くように思えた。
「優‥アタシたちもうこのままずっとこうしていようよ」
みずみずしい桃色の唇が迫る。
男の思考力を奪うほどの色香を放つリーナの表情に身を硬直させる優。
リーナの美しい顔を至近距離にまで近づけられて心臓の鼓動を高鳴らせる。
同様に口付けを交わすことの歓喜に身を震わせたリーナは優の首に両腕を回した。
互いの口から吐き出される熱い吐息を感じ取ることができるほどに接近する。
しかし二人の唇が重なることはなかった。
リーナと優の唇が触れる寸前でそれは起こった。
優とリーナの眼前で突風のような現象が突如吹き荒れた。
リーナは正面から凄まじい勢いの衝撃波に吹き飛ばされて壁に激突した。
しかし、リーナの身体はその程度で怪我をするほど柔ではなかった。
即座に起き上がり優を安否を確認する。
するとそこには純白の光輝く少女は悠然と佇んでいた。
「なにをしているのです?いくら未遂とはいえ優と口付けをしようなどと‥思い上がりも甚だしいのです」
初雪のような白髪にアメジストのような紫紺の瞳。
そして髪の色とは対照的な黒を基調としたワンピースを身につけた少女は優を守るように立ちはだかっていた。
「雪音‥」
リーナは雪音の存在を瞳に捉えて顔を顰めた。
この雪音という何を考えているのかわからない少女のことをリーナは苦手に思っていた。
しかしそれと同様に雪音も優に寄り付くリーナのことを嫌っていた。
「なんですかその目は‥私もあなたとは会いたくなかったのです。しかしあなたが優に無礼なことをするから出てこざるを得なくなったのです。今後このようなことがあった場合私はあなたのことを殺さなくてはなりません」
突然の殺害宣言にリーナの表情が引き攣った。
一見雪音の表情は何の感情も宿していないように見えるがそれは間違いであることをリーナは知っていた。
何故なら雪音の発する怒気がこの空間自体を震わせていたからだ。
「殺すって‥大げさね。たかがキスくらいで」
何気ないリーナの一言に雪音の無表情が一瞬揺らぐ。
リーナの浅慮な考えに雪音は不快感を感じた。
「これは私の意志だけではなく他の神の総でもあるのです。あなたも逆らえばどうなるかわかっているのではないですか」
他の神という単語にリーナは眉根を寄せた。
雪音以外の優に好意を寄せている者は多数いるが、恐らく人見知りな雪音と交流のある者はごく少数。
即ちそれは人ならざるもの同士という推測が立てられた。
神であるというには比喩ではなく事実として雪音は神の如き力を有していた。
雪音は他の人ならざるものとは普段は関わることはないが、優のこととなれば話は別だった。
「良いですか‥あなたの軽率な行いで迷惑を被るのは優なのですよ。それを理解しないでそばに居続けるなど愚かな極まるのです」
淡々と紡がれる言葉にリーナの心にも段々と反抗心が湧き上がる。
「どういう意味よ!男と女が一緒にいたらこうなるのが自然よ」
リーナの反論を無表情で聞き流して雪音は優に向き直った。
その表情はリーナに向けていたものとは打って変わって酷く気遣わしげないものに変化する。
「大丈夫ですか?優‥可哀想にあの猿に襲われたのですね。しかしこれからは安心してください。ずっと私がそばで見守るのです」
先程の衝撃で尻餅をついたままの優の膝の上に馬乗りになった雪音。
そのまま優の首の腕を回す。
「いいですか。このように身体的接触をして良いのはあなたの守護神である私だけなのですよ。他の有象無象共には一片たりとも触れることなど許しません。」
リーナとは対照的な全体的に幼い印象を受ける雪音だが、人ならざるものであるが故に年齢は優達の数百倍である。
膨大な時間生き永らえてきた雪音の言葉は有無を言わせぬ迫力があった。
「あ、ああ」
優の素直な返事に雪音は笑顔を綻ばせた。
それはゾッとするほど美しく、優は思わず見惚れてしまう。
「ふふ‥良い子は嫌いじゃないのです」
そう言って優の頭を抱き抱えて撫で始める姿は母性すら感じるほどだ。
優は雪音から感じられる甘い匂いに心が落ち着くのを感じた。
「どうですか?気持ちいいのですか?ふふ‥本当に優は私のことがすきなのですね。私も優のことは大好きです。しかし最近悪いムシが寄ってきていて大変不愉快なのです。ですから排除しても良いですか?」
聖母のような表情で恐ろしいことを言う雪音に優とリーナは背筋を同時に震わせた。
「ちょっとアンタ本気なの?」
リーナは思わず口調を荒らげて問うた。
雪音の声音からははっきりとした殺意が感じ取れるため、とても冗談で言っているようには思えなかった。
「‥ジョークなのです。私も優には嫌われたくないのです‥」
振り返り冷たい瞳で見据える様はリーナの背筋を凍て付かせた。
「‥そうであることを願ってるわ‥本当に‥」
全く信用できない言葉にリーナは皮肉で返す。
雪音はそれに対して冷笑を浮かべて言い放つ。
「恐ろしいのですか?」
挑発的な笑みでの問いかけに対してリーナは素直に肯定した。
「ええ、あなたの様な化け物が存在しているのはね」
挑発に乗ったリーナを雪音は嘲笑する。
「ならこの家から出て行くといいのです。住む場所がないのなら私の力でなんとかしてあげてもよいのです」
リーナは自らの失言を悟った。
雪音の言葉に思わず反応してしまった己を恨む。
「‥遠慮しておくわ。邪神なんかの助けを借りたらどうなるかわかったもんじゃないもの」
リーナの罵倒に雪音の眉間がピクリと動く。
雪音は表には出さないが実際には感情の起伏は激しい方だった。
「そうですか‥残念です。ですが出ていきたくなったらすぐに言って貰って構わないのです。そうですよね優」
遠慮は無用だという意思表示として雪音は優の顔を胸に抱く。
雪音の胸の開いたワンピースを着ていてため優の顔は直に肌へと押し付けられて。
きめ細かい絹のような傷ひとつない肌が密着する。
しっとりとした肌はみずみずしい弾力を持って吸い付いてくるようだった。
「‥自分で言っておいてアンタはそんなことして言い訳?そんな理屈通らないわよ」
リーナの指摘の雪音は嘲笑うように口角を吊り上げた。
その神にあるまじき表情にリーナは表情を引き攣らせた。
「これだから知能が低い猿の相手は嫌なのです」
あまりに酷すぎる直接的な罵倒の言葉にリーナは思わず絶句する。
「良いですか。よくきいて覚えておくといいのです。私と優は生まれた頃からずっと一緒で片時も離れることなく暮らしてきました。
つまりあなたとは比べることすらおこがましい程に優に一番近しい存在なのです」
雪音と優は今まで二人だけの世界で生きてきた。
雪音にとってそれは自身が望む最上の世界だった。
にも関わらず世界は優のことを放っておいてくれなかった。
故にイレギュラーとして目の前のリーナが存在している。
リーナは雪音にとって明確な敵だった。
「リーナは他にいい男を見つけるといいです。それと‥そういえばあなたにはまだ年幼い妹がいましたね彼女のことは心配ではないのですか?」
雪音の妹という単語にリーナの頭は軽い痛みを覚えた。
何か大切なことを忘れている違和感を感じた。
表情を歪めて頭を押さえてその場でうずくまる。
そんなリーナの様子を無視して雪音は優の頭を撫でながら話し続けた。
「確か‥リゼという少女でしたか。彼女はあなたが帰るのをずっと待ち望んでいるみたいです。しかしあなたは帰るつもりなどないようですが」
リゼという少女の名前を聞いた瞬間激しい頭痛がリーナを襲うと同時に全ての記憶が流れ込んでくる。
元々優の家に来る前に入った洞窟の依頼を受けた理由がリゼの誕生日に送る物を買うための資金調達のためであった。
リーナとリゼの住んでいる寒村は食料に乏しく常に飢えと戦わなくてはならない環境だった。
そんな中両親は盗賊の討伐に出たきり帰ってこなかった。
リーナとリゼはそれからは二人だけで支え合って生きてきたのだ。
しかし、それをリーナは忘れていた。
それもただ忘れていただけではない。
なんらかのことが原因でまるで思い出そうとすると頭に靄がかかることが多々あった。
リゼとの思い出を思い出したリーナは涙を流しながら叫ぶ。
「あああ‥ああ‥どうして今までこんな大事なこと‥でもどうやって帰れば!」
発狂したように金髪を振り乱して首を振るリーナを心配して優は雪音に声をかけた。
「雪音‥リーナのことを助けられないかな?」
その言葉に雪音は無表情でジッと優を見つめた。
紫色に輝く宝石のような瞳が優を射抜く。
優もその瞳から目を逸らすことはなかった。
リーナは長年一緒に暮らした家族のような存在だ。
困っているならば力を貸すのが当然だと優は思った。
雪音は薄ピンクの唇を引き結び厳しい表情をした。
異世界のことは知るべきではない。
特に優にとってはそれが劇薬になるであろうことを容易に雪音には予想できた。
「可能。ですが優が一緒に行くことは許可できません」
雪音の言葉に優は驚きの表情を浮かべた。
雪音が優に足してこのように厳しい言葉を使うのは凡そ初めてのことだったからだ。
「‥わかった。雪音が言うなら行かないほうがいんんだろうね」
長年共に過ごしてきた優には雪音の此方を慮る感情が感じられて心が暖まる。
「そうです。私の言うことを聞く優は偉いのです。‥そういうことでおまえ聞いていたですか?」
雪音の口調が変わった。
リーナのことをどうでも良い対象として認識したためである。
リーナを妹のところに返して置いてこようという魂胆であった。
しかし、雪音の意に反してリーナは愕然とした表情を浮かべて言った。
「え、優はついてこない?で、でも‥そんな‥」
頭を抱えて目を見開き独り言を言う様は普段にリーナと比較してとても正気であるとは思えない。
優は心配になって雪音を振り解きリーナに歩み寄って顔を覗き込み。
するとリーナは急に顔を優の正面に上げて肩を両手で掴む。
「優も‥優も一緒に行くのよね?だってそうじゃないと‥」
同じ言葉を繰り返すリーナのこのような危うい姿を見るのは初めてだった。
優は雪音に視線を移した。
雪音は変わらず無表情で優だけを瞳に宿し、見つめている。
「おまえの我儘を聞いてやる義理もないのでよ。さっさと行くのです」
雪音の一言に茫然自失としたリーナはその場で抜け殻のように力なく座り込んだ。
その様子を見て雪音は毎回のことにため息を吐く。
今まで別れてきた優と関わってきた者達もこのような状態になるのだ。
「ではいくのです」
雪音が言葉を放つと同時に室内の空間が震えた。
室内全体が僅かに発光を始める。
そこには無数の光の粒子が漂っている。
徐々に光が増していきその場は完全に光に包まれた。
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