第2話 まぶしすぎる笑顔
教室に戻っても暇だからスマホを見ていると、さっき書いた感想の返信が来ていた。
「本当にありがとうございます。私が小説を頑張れるのはあなたのおかげです!」
私は少しニヤニヤしながら、その返信をみつめていた。すると皐月が眉をひそめていた。
「えー? スマホ見てニヤニヤしてるー」
「いいでしょ。それくらい」
「もっと現実を生きようよ! 彼氏とか作んないのー?」
「皐月だっていないじゃん。人のこと言えないでしょ」
皐月は普通の容姿だ。だから彼氏の一人くらいつくれると思うんだけどなぁ。私は人と話すのそんなに得意じゃないし、そもそも誰かと付き合いたいって欲がないから、つくらないけれど。
その時チャイムが鳴った。皐月は自分の席に戻っていく。私はスマホを閉じて教科書の準備をした。
授業を終えて、放課後になった。皐月は一人部活に向かう。私は日直だから教室に残って、黒板の掃除をしていた。もう一人の日直は水無月さんだ。今はゴミ捨てに行っているから、教室にはいない。
空は曇っていて、雨が降ってきそうだ。傘を持ってきてないからさっさと帰りたいのに、今日に限って日直とは。さっさと終わらせて帰ろう。
そう思って黒板掃除を終えると、ちょうどそのとき、水無月さんが帰ってきた。水無月さんは私と目が合うと、頬を赤らめて視線をそらしていた。
やっぱり分からない。一体何を考えているのだろう。私は「さようなら」とだけ告げて、教室を出ていく。水無月さんからの返事はなかった。
昇降口までやってくると、雨の匂いがした。間もなくざぁざぁと降り始めた。今は九月で夏だ。早く止むタイプの雨ならいいのに。
靴を履いてじっと外をみつめていると、水無月さんがやって来た。水無月さんも靴に履き替えると、じっと外をみている。
どうしてか、私の真隣で。なんだかいい匂いがしてくる。
じゃなくて……。
私はとても気まずくなって、少しずつ水無月さんから離れていく。私は水無月さんを一瞥するけれど、水無月さんは相変わらず氷のような無表情で、降りしきる雨をみつめていた。
雨はしんしんと降り続けていて、止みそうにない。
私はスマホを開いて小説を読むことにした。「無水月」さんの小説だ。
もう全て読んでしまっているけれど、読み返す。相変わらず私の感性とマッチしているのか面白い。気付けば雨音が消えていたから、私はスマホを閉じて、外に出ようとする。
すると突然、水無月さんに声をかけられた。
「……あの、面白かった、ですか?」
蚊の鳴くような小さな声だった。水無月さんは私に視線を向けず、外をみつめている。なぜ面白かったかを聞くのだろう。知らない人が知らない小説を読んでいるだけだ。感想なんて聞いても何も面白くなかろうに。でも聞かれたのなら答えるしかない。
「……面白いですけど」
私がつげると、水無月さんは目を見開いた。
雲のせいで薄暗い外に、急にまぶしい光が差し込んでくる。水無月さんはなんの返事もせずに、その光の中へと歩いた。さっきの質問は、なんだったのだろう。私は疑問を抱きながら光の中を歩く。
校門を出た水無月さんは、突然振り返ったかと思うと、満面の笑みを浮かべていた。太陽よりもまぶしい様な、そんな笑顔。私の目はその見たことのない笑顔に釘付けになってしまう。
なんで笑ったのだろう? はりつけにされたように突っ立っていると、水無月さんは恥ずかしそうにはにかんで、たったたったと走っていった。
本当に分からないことばかりだ。私は小さく首をかしげてから、帰路についた。
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