砦の街の三連星 魔女と領主と秘書官見習い

鹿島さくら

プロローグ

「私、ナーヒャくんと一緒にすてきな大人になって絶対アディくんの力になるから。それで、お互いに困っていたら助け合うの!」


 そう言ったときのことを、アウレーシャ・バルワは今でもはっきりと思い出せる。自分の傍に座り込んだ2人の少年と一緒に、3人で手を握り合って笑いあった。


 18年前、シャマル王国王家主催の園遊会で盛り上がる昼の庭の隅でその3人の子供たちは出会った。何がそうさせたのかは分からない。けれど出会ったばかりの子供らは、名字も本名も知らないまま、ただ互いの愛称とその輝くばかりの瞳と髪の色だけを頼りに約束をした。


 深紅の髪に紅玉の瞳の少女、アウリー。

 白銀の髪にアイスブルーの瞳の少年、アディ。

 黒髪に金の瞳の少年、ナーヒャ。


「ぼくも、アウリーちゃんとアディが困ってたら絶対に助けたげる! いつでも味方だよ」

「ありがとう。いつか俺の力になってほしい、アウリー、ナーヒャ。俺も二人が困ってたらきっと助けるよ」


 アウリーとナーヒャで、将来立派な役職に就くアディの力になる、と。そしてお互いの見方であり続け、困っているときには必ず助け合う、と。


 朧げな記憶。儚い思い出。10歳にもならない子供の口約束。

 大人になってまで信じるにはあまりに馬鹿らしい。


 けれど彼女は、アウリーことアウレーシャ・バルワは、まだその約束を抱きしめている。

 あの真昼の輝き、心底胸の弾む気持ち、触れ合った手の暖かさ。

 3人で一緒なら何でもできると心から信じていた。


 時が過ぎて大人になって、幼い頃の思い出は曖昧になる中、あの約束だけが変わらずに輝いて温かいままでいる。他の2人、「アディくん」と「ナーヒャくん」はもうあんな幼少期の口約束など忘れてしまっただろう。

 それでも構わなかった。


 ただアウレーシャは彼女自身への誓いとして、いつかその約束を果たすと決めている。この10年間、自分の命と心を照らし続けてくれたことに報いる。


 アウレーシャ・バルワは、そう誓っている。

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