第19話

 帽子が飛んであらわになった、ベルカの頭を、そこに生えた狼の耳。

 俺が宿っている万象記録素子センサを見つめて、ゲスどもは動きを止めた。


「……耳?」「おいひょっとしてこいつ、人喰い妖精か……?」「んな馬鹿な」「いやでも……」


 少しずつ、ベルカとのリンクが回復し始めた。

 昨日、大兄ダーシンにお見舞いしたのと同じ放電を、いやそれ以上の規模のパルスを、こいつらにぶっ放す準備を俺は始める。


「どうしたお前ら、なんか問題か?」


 向かいのソファでニヤニヤ笑いながら様子を見ていた大兄が訊ねる。


「大兄……この女、人造妖精じゃ……?」


 ▽ベルカ、こいつら全員吹っ飛ばしてやる。「ちょっと」電力使うが、許してくれ。


「あん? ああその耳か? そんなもん、ただの飾りだろ」

「けど、昨日の身のこなしも、人間離れしてたし……」


 急に怖じ気づいた部下どもに、大兄は大きくため息をついて立ち上がる。


「このメスガキがモノホンの人造妖精で、だったらそれがどうした? コイツは動けねえ。ならブチ犯せ。人造妖精をマワすチャンスなんてそうそうあるもんじゃねえぜ?」


 まずこのクソ野郎を真っ黒焦げのフライドチキンにしてやる。


 ▽電力チャージ中。チャージ完了まであと五秒。


 傲岸不遜な大兄の言葉に後押しされて、チンピラどもが再び発情期のサルみたいな顔を取り戻す。


 ▽五、四、三……


 吹っ飛べ、クソ野郎共。そう言おうとした瞬間。

 俺のレーダーが警告を響かせる。

 ――高速で飛来する物体を検知。

 

 ▽……は?


 次の瞬間、壁が爆発した。部屋中のものが衝撃波で吹き飛ばされる。


 ▽なっ? なんだぁ!?


 粉塵で真っ暗になった室内の様子を、素早くスキャン。

 ベルカをはずかしめようとしていたチンピラはもちろん、大兄も爆発で吹き飛ばされて、反対側の壁際でノビている。


 吹っ飛ばされた壁には、直径二メートル近い大穴が空いていた。その瓦礫を乗り越え、誰かが室内に侵入してくる。


 ▽侵入者だ。気をつけろ!


 まだ身体を動かせないベルカに、せめてもの報告を入れる。

 更にスキャン。

 厄介なことが分かる。侵入者はひとりだけだが、そいつの腕は肘から先が大きく「裂けて」、馬鹿でかい砲身が突き出している。コンクリートの壁を吹っ飛ばしたのは、間違いなくあの腕の大砲だろう。


 ▽相手は戦闘用義体だ。下手に動くな……。


 とっさに引っ込めていた放電用チャージを、俺は再開する。戦闘用サイボーグにどの程度効くか分からないが、時間稼ぎくらいはできるはずだ。


 侵入者のサイボーグが、瓦礫の山を越えて、こちらに歩み寄ってくる。

 俺が放電しようとした、そのとき。

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