第13話 最大のピンチはこうして訪れます!

☆☆☆脱出成功。しかし死のピンチが!


闘技場からの脱出が成功するとイルミルは息が荒くなっていた。


「はぁ……ここまでくれば大丈夫か……いや!」


周囲には恐らく四天王が呼んだであろう魔族が暴れている。どれもこれも強そうだが……


「ぐおおおおおお!」


しかし、ここは武道大会。四天王でなければ冒険者は戦えている。


次々に冒険者達は敵を倒していく。


「じゃ、あたしもやってやるよ……ムカつくんだよ。勝手に出てきやがって!」


鬱憤が溜まっていたのか、イルミルが魔族に突撃していく。


「おい、ここは冒険者に任せればいい、自分たちを守ってくれ……だめだありゃ」


野生の勘なのか、魔族を悉く倒していく。


「アイドルも楽しいがよぉ! 気に入らない敵をぶっ潰すのも楽しいなぁ! オラァ!」


獣人族の宿命か……自分はコルルナを背負って魔族がいなそうな場所を探すことにしよう。


「コルルナ乗れ、逃げ場所を探すぞ」


「はい……あ、ありがとうございます」


よし! 持ち上げるぞ……あれ力が……あっ!


忘れていたけど実は自分……最弱でした。


「ぐぇぇぇ!」


コルルナを背負えずに押し潰された。


「スシデウス様ぁ! そんな私重くないですよ! アルシュルさんじゃないんですよ」


あれは頭より胸が重い女だからな。じゃなくて!


「……ごめんっ……自分非力だから……持ち上げられなかった……だからもし歩けるなら歩いてくれ。死ぬから……どいてくれ……ひぃぃ……」


このまま押しつぶされれば確実に自分は死ぬ。


「酷い……酷いですよ……うわあぁぁぁぁ! 酷いひどいひどいですぅ! 最近寝る前にこっそり甘いもの食べてたのがいけないんですかぁ!」


そのことは初耳だ。確かにコルルナに恥を欠かせたことは素直に反省する。でも


「なんでラースムドウに襲われた時よりショック受けてんのさ!」


「だって、重い女と思われるじゃないですか! イルミルちゃんなら平気だったのですか! だったらイルミルちゃん背負えばいいじゃないですか! なんで私が!」


今女心出さないでくれ……背中と腰が痛いのだ。動こうにも微動だに出来ないし。


「イルミルでも死ぬから! 自分が悪いのであってコルルナの体重全然関係ないから! 死ぬからマジでどいてくれ! 頼む!」


「あぁぁぁぁぁぁあ! 酷いですぅぅ!」


頼むここで駄々をこねるな。動かないでくれ! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!


「助けてくれぇぇ! 死にたくない!」


「お姉さんハグ!」


身体が軽くなり起き上がれた。アルシュル助かったよ……


「っわ! アルシュルさん。聞いてください、私そんなに重くないですよね? アルシュルさんの方が胸大きいですもん重いですって!」


「コルルナちゃん。落ち着こ? スシデウス君本当に死にそうだったよ? あと結構ひどい事言ってない? お姉さん傷つくよ?」


「ぐぇぇぇ……」


この世界で初めて本当の死の危険を感じたのであった。


このままアルシュルに助けてくれなければ死んでいた。四天王より恐ろしい相手がこんな近くにいたとは……


「スシデウス様ごめんなさい! どうかしていました、でも本当に重くないですから! え、重かったのですか?」


「スシデウス君大丈夫?」


「あ、あぁ……大丈夫だ」


「でもまさか女の子一人持ち上げられないくらい、よわよわなんだね……可愛いなぁスシデウス君」


……こいつ肉食だった。別の危険が生まれてしまうではないか! は、話を逸らさなければ……


「そんなことより逃げるぞ。イルミルいい加減戻ってこい」


戦闘に参加していたイルミルは戻ってくる。終わったのか?


「ここの魔族はほとんど追っ払ったぞ。恐らく四天王も勇者が倒しただろう。それより大丈夫か?」


「お、おう……」


☆☆☆新たな刺客はまさかの……


何とか魔族を潜り抜け街へと、相変わらず腰が痛いが、まぁ我慢だ。痛がる素振りを見せるとコルルナが不貞腐れてしまう。


逃げるのに必死になって考えることを忘れていた。とりあえず状況を整理しておこう。


先ほど現れた魔王軍四天王はラースムドウ。恐らく時間操作の魔法を使うチートだ。


コルルナを人質に取られそうになったところを助けてくれたのは、自分が勇者だった頃のパーティーを追放されたジエイミだ。それがまさかの現勇者になっていたという事実。そんなことってある?


しかも見た感じであるが、減速した時間の中を高速で移動していたことから実力は申し分ない。それにとっさの判断能力にも長けている。恐らく無能スキルが実は最強だったの系だろう。


つまり『勇者パーティーを追放された私は実は最強でした☆ 無能で最弱で愚鈍な元勇者に復讐しにきました☆ 死んでくださいエクシリオさん☆』ってパターンだろう。


笑顔でジエイミがそんなこと言うかってところだけど……


やばいやばい……こうなってしまえば自分が復讐されるのも時間の問題だ。


だが、先ほどの反応からジエイミは自分に気付いていない。恐らくラースムドウに集中しており、こちらの姿にまで気を配れなかったのだ。


つまり、ジエイミはまだ自分を認知していない。


だから、この周辺でアイドル活動をするのはやめだ。


何としても隠す必要がある……自分の正体を……エクシリオ・マキナであると知られてはならないのだ!


「どうしたんだよ。スシデウス。そんな考え事して……四天王も勇者が追い払ったって聞いたぞ。そんな警戒しなくてもいいと思うが」


つまり、まだこの街にジエイミが滞在しているということだ。一刻も早くこの街を離れなければ……鉢合わせしてしまえば、恐らく自分の正体に気付くだろう……そうなれば破滅だ!


「そ、それはそうだが……油断を狙っている可能性を捨てきれない。こういうのは慎重なくらいが丁度いいんだよ……できればすぐにここから発ちたい」


「え~お姉さんたち疲れたよ~今日は宿屋に泊まろうよ~」


それもそうだ。ライブのハプニングや魔王軍の暴走……コルルナだって足を挫いているのだ。


早計であった……ならどうすれば。もし宿屋が同じだったりしたら終わりだ。


「何をそんな怯えているんですか? スシデウス様?」


「い、いや、だって四天王が出てきた街なんかにいたくないじゃん……下手すればみんな死んでたんだし」


そこでイルミルの顔が変わる。恐らく先ほどのことを思い出したのだろう。



「……ごめん! コルルナ……あたしはさお前を見捨てようとしたんだよ」


イルミルはあの時、コルルナを見捨てる選択をしていた。そちらを選ぶことによって助かる命が多いのは確かであった。


「それは気にしてないって、あの状況だったら逃げるのが正解だよ。なんで助けにきてくれたの?」


「スシデウスに引っ張られたんだよ……そこで踏ん切りがついた。だからそれだけだ」


「お姉さん本当に心配したんだよ。だってみんな逃げている中で二人だけが助けに行っちゃって」


それが当然なのだ。自分は四天王と何回か戦ったことがあるので感覚は麻痺していたが、側から見れば自殺行為にあたる。それほどまでに実力差があるのだ。


「仲間を見捨てるような奴にあたしはならない。確かに逃げるのが正しかったのかもしれねぇが……コルルナがいなくなったら誰がダンス教えてくれるんだよ……」


っぐ、仲間を見捨てる……ジエイミは自分のこと恨んでいるんだろうなぁ……


「「イルミルちゃん……」」


「それに咄嗟の判断だけど、減速魔法をランドシールドで防げると気付いたのスシデウスだし、お前実はすげえな、昔は冒険者だったとか?」


「……げ、そ、それは~」


やばい。彼女達の興味も自分に集中してしまう。


「――それは私にも聞かせてほしいですね」


どこからか声がする……聞いたことのあるが……


「誰だ! 姿を現せってんだ!」


イルミルが警戒モードになる。


「――うるさいですね……ストームクロー」


「ランドシールド……ぐあぁあ!」


イルミルのシールドが破られる。


「「「イルミル」ちゃん!」」


自分以外の二人はイルミルの元へ駆けつけている。


「なんだ今の魔法……桁違いだぞ」


イルミルの顔に傷はないセーフだ!


一体何者だというのだ、この刺客……


「……久しぶりですね。探しましたよ、エ ク シ リ オ ・ マ キ ナ」


え?


「いや、ペルペッコ・モンタージュ。あぁ今はスシデウス・ヤスモアキと名乗っているようでしたね」


彼女は自分の使った全ての名前を知っている。一番大事なエクシリオの名でさえも……


路地裏の影から姿を現した彼女は魔女の帽子を被っている。その顔が見えると……めっちゃ美人だった。


「え、誰」


「あら、お忘れですか?」


魔女の帽子を被った人物なら知っている。だが彼女は年増のおばさんだ。


こんな美人なわけがない……いや、顔のパーツはよく見れば似ているが……若くないよなぁ……


「エクシリオ。私ですよ……一緒に『元』勇者パーティーとして冒険した仲ではないですか」


確定した。そう……ジエイミが追放されたことにより、やけくそになって自分が追放した仲間の一人。


「マジョーナ・アンデ」


どうして美女化しているのか知らないが、恐らく彼女であるだろう……


完全に忘れていた……彼女は自分が『追放』したメンバーであると。

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