第9話 異世界アイドル活動で金儲け!『可愛い』を売ることが手っ取り早く稼ぐ方法です!


☆☆☆レッスン!レッスン!


レッスンを始めて数日が経つ。


「ワンツースリーフォー」


本日は広間でダンスレッスンをしているのだが、自分は別に振付師でもダンス経験があるわけでもない。


中途半端な指導であるがコルルナが飲み込みが早く他の二人に教えている。


「楽しいですね! 身体を動かすのって!」


イルミルは元々アイドル活動を拒否していたが花子が出てくると素直に従った。よほど幽霊が苦手みたいだ。


元々乗り気ではなかったが戦闘奴隷なだけあって体力は二人より上である。そしてダンスの動きも豪快だ。


「大体いつまでこんなことやらせんだよ!」


そしてアルシュル。ダンスをしている時の目のやり場に困る。いや、大衆にはそれが目的なのだが……胸がよく揺れている。


「スシデウス君。どこ見ていたの? お姉さんに見とれちゃった?」


分かっているくせに……彼女に関しては大体できている。うむ。ダンスとか歌じゃなくて胸を見てしまうな。


「とりあえずその振り付けを覚えろ。あとはボイン……ボイスレッスンだ」


気まずくなったのでこの場を立ち去る。


しかしアルシュルの胸は反則だ。今になって愛玩奴隷にしとけばよかったと後悔しても遅い。


「「「あーあーあー」」」


☆☆☆花子の覚醒


自分の部屋に戻り、アイドル活動をするにあたり必要なものの調達に悩んでいた。


そう、音源だ。元居た世界のアイドルを再現するには音が必要だ。


この世界には楽器の概念は存在しているが、どれも高級品でとてもじゃないが用意できるものでもないし、できたところで演奏者がいない。


それに何度もライブをすることになれば、そのたびに費用が掛かる。


何かいい発想がないかなぁ……アカペラで行けるかな……


『あの……スシデウス。何か悩んでいる?』


そこに花子が現れる。


あ!


「花子。お前ってこの家に住み着いてるやつを驚かして追い出していたよな」


『うん。いろいろなことして追い出していたね。あなただけだよ出ていかなかったの。どれだけ図々しいの』


まぁ自分も出ていくわけにはいかなかったのでその気持ち上回ったのだろう。


「その中には『音』を使ったものもあったか?」


『うん。あるよ、例えば……』


部屋中にガタガタっと物音が鳴り響く。女性の悲鳴も聞こえる。


「おぉ……凄っ。それってどうやっているんだ?」


『生前は振動を操る魔法が得意でその名残でいろいろな音を出せるんだよ』


「例えばピキーン! みたいな音出せるか?」


『うん。行くよ、こんな感じ?』


すると、花子は電子音を出した、


「おー! おー! じゃあこれは?」


自分の要望した音を連続して出していた。どうやら同時に別の音も出せるらしい。これは使える!


アイドル活動の肝になるのはこの花子だ。


『このぐらいなら余裕だね。しかしこれ何の音?』


「花子、君は音を奏でる才能があるみたいだ。さっき出した音を続けて出してほしい」


『さっき出した音だよね……えっとこれとこれと……』


花子は元居た世界で流行っていたアイドルソングと何ら変わりのない音を出した。


正直に言えば感動した。懐かしいアイドルソングだったし、もうこちらの世界に来てからは聞くことはないだろうと諦めていたのだ。


演奏は終わると、花子は目をきらめかせていた。


『す、すごい……いい曲だね、スシデウスが作ったの?』


「あぁ、自分はこの曲を三人に歌わせたいと思っているんだ。花子。君はこの素晴らしい曲を大衆に届けたいと思わないかい? ぜひとも協力を願いたい」


嘘である。某作曲家が作ったアイドルソングだ。


そう、『異世界には著作権はない』それを自分が作ったことにすれば信頼を勝ち取れるだろう。


大衆受けしたアイドルソングだ。この世界の人間にも受け入れられるだろう。


『でも、私は幽霊だし、皆に怖がられる存在だし。恨みもあるし、復讐だって……』


そう、彼女は幽霊で怨霊だ。きっと生前酷い死に方をしたせいで、こちらに留まっている。


だからあまり目立つことを嫌うだろうが、先ほども言ったように幽霊は暗い奴ばかり存在。


多少上げれば簡単に説得が出来るだろう。


「やりたいことをやらない言い訳はしちゃあいけないな、少なくとも花子はその曲を奏でている時は楽しそうだった」


『それは……確かに楽しかったけど』


「君の楽しさは未だ中間地点だ。最高潮に到達していない……今の時点では曲だけしか存在していないのだ。そこを補完できるのは彼女たちの歌であり……」


『歌……確かにこの曲に歌が入ればもっと素敵になると思う……でも復讐が!』


もう一押しだ! 花子を陥落させられる!


「その瞬間を見届けたくないのか? 復讐や恨みなんてマイナスな感情でこの世界に留まるより、もっと楽しくエンジョイな幽霊ライフを送るべきだと自分は思うぞ」


適当な言葉を並べ説得する。


『でも……一人はかなり怖がっているみたいだけど……私は幽霊だし』


イルミルのことだ。花子で脅したりしたのも逆効果だったが、敵意はないのだ。生活を共にしていくうちに慣れていくだろう。


「あぁ、それに関しては……自分がどうにかする。きっといつか四人で笑いあえる日が来るだろう」


『そう……ならやってみようかな……』


花子は微笑む。


これで……音響をゲットだぜ! 費用が浮くな!



☆☆☆レッスンの成果


かくして数週間。花子の音響のおかげでレッスンは順調に進みライブが出来るレベルに仕上がった。


「できたー!」


細かいミスはあれど、通しで一曲できれば十分と言えるだろう。


イルミルのモチベーション維持を保つのが困難だと思われたが、一人の時に鏡の前で決めポーズをしていたのでまんざらでもなさそうだ。


意見の食い違いからメンバーが衝突することもあったが最後には仲直りして絆も深めたり。


食事が美味しくないごねてきたり。


イルミルのいびきがうるさいと花子からクレームが来たり。


アルシュルが勝負下着で自分の部屋に押し掛け全力で逃げまわったりだ。


コルルナだけが文句を言わず、レッスンを真面目に取り組んでいる。所謂アイドルに向いている少女であった。


「っは、こんなもん出来て当たり前なんだよ……(小声で)よし!」


イルミルのやつ正直楽しんでるよな。


「お姉さんは少し疲れちゃったかな。でも達成感すごいわね。楽しくなってきちゃった♪」


三人はアイドル活動を楽しんでいる。計画は順調に進んでいるみたいだ。


「よし、それではネクストステージだ。まずは……入ってくれ」


予め呼んでおいたオネエを広間に迎える。


「あらぁ……確かに三人とも可愛いわね、スシデウスちゃん……貴方も隅に置けないわね~」


オネエという概念に初めて触れたかのような反応で三人は固まっていた。花子だけは広間の隅で休んでいる。まぁ関係ないもんな音響だし。


「自己紹介がまだだったわね。私はポポ。あなた達を最高にかわいく仕立て上げるのが仕事のレディよ」


「あ、私はコルルナです。よろしくお願いしますポポさん」


「イルミルだ。べっつにあたしはかわいく仕立て上げなくてもいいから……(小声で)ちょっぴり期待してるけど……」


「お姉さんとちょっとキャラ被ってるわね……アルシュルよ。もっとお姉さんっぽさ出さないと……ポポさんに負けてしまうわ!」


何で一人張り合ってんだ? さすがにそこまで胸強調するともはや痴女だぞ。それはアイドルとしてふさわしくないのだが……目の保養にはなる。


「あなた達のパフォーマンスは見させてもらったわ。元王族直属の騎士団長であった私の目から見ても、新しい曲だとは思うけど……正直まだまだよ」


流石はオネエ。少し厳しめの意見も言える。それに王族直属の騎士団長って有能すぎるだろ。


「三人は心を通わせていない。先ほどのダンスも自分だけが踊れてればいい感があるわ。あとアルシュルちゃんは胸を揺らしすぎよ。もう少し胸を大事にしないと」


「確かに……言われてみればそうですね。アルシュルさんは胸揺らすことに集中していましてリズムがあっていない時があります」


「そうだそうだ! アルシュル! いくらその……/// でかいからって、それを揺らすことがアイドルじゃねぇってんだ! (小声で)あたしは何もないし……」


ちなみに胸の大きさは


アルシュル>>コルルナ>>イルミルである。


でもそういう小柄な胸にだって需要はあるのだが……こっちの世界だとどうなんだろう。


「えぇ~みんなひどいよ! お姉さん揺らさないと死んじゃうんだよ~」


そういいながらも胸を揺らしている。自分は目のやり場に困るのであった。


「いい? アルシュルちゃん。常に揺らし続けるのは胸に大きな負担をかけることになるの。せっかく立派な胸を持っているのだから身体を労わらないと」


なんでそれを男? のあんたが知っているんだよ。


「胸に負担……確かにダンスの後は少しちくっとする痛みはあったけど……あ、乳首じゃないわよ? ちくりとするだけで……」


何言ってんだアルシュル。どこかのメイドさんだったら爆笑していたが自分は笑わない。


「そうよ! 確かに胸を揺らすという行為は殿方の視線をくぎ付けにする、でもやりすぎると逆効果なのよ。私だってそうだったわ! だからダンスのここぞって時に揺らせばいいのよ!」


貴方の場合は大胸筋ではないかな……言ったら殺されそうなので思うだけにしておいた。


「そういうことだったのね……有難うポポさん! お姉さん! これからはピンポイントで胸を揺らすことにするわ!」


「お説教はここまでにして……それじゃ始めましょうか」


結局胸の話しかしてなくね?



☆☆☆いざ、ダンジョンへ



メイクと衣装合わせが完了した。


「え、えぇ……これがあたし? (小声で)結構かわいいじゃん……」


「夢見たいです。あっ衣装すっごくかわいいですね!」


「胸の露出があまりないわね……」


オネエの腕は確かなようで自分のデザインを(元の世界のアイドル衣装を丸々パクった)完璧に再現している。


縫製も見事で動きやすいようにアレンジも加えられている。


さっすがはオネエ! 非の打ち所がない衣装だ。それにメイクも完璧で三人がより一層魅力的になっていた。


ミニスカネコミミメイドの時点で検証済みだ。この異世界には『可愛い』に耐性がない。


「あなたたち、素敵なレディーになれる秘訣を知っているかしら?」


「この衣装を身に纏って歌って踊ることですか?」


「かっこよく踊ることだ!」


「セクシー? アダルティ?」


「そんな難しい事じゃなくてね、貴方たち掛かっているメイクという魔法は永劫に続くものじゃないの、素敵な魔法を長引かせる方法……それはね『スマイル』よ」


「「「スマイル!」」」


あれ……オネエに仕切られてないか? なんか言いたかったセリフ全部取られてるし……


こういうのって普通自分が言うものでは……まぁいいか、三人がその気になってくれれば。


とあるダンジョンの入り口へ訪れている。ここは比較的モンスターも弱く安全である。それにイルミルとオネエもいるのだ安心だろう。


夕方ダンジョン攻略が終わり疲れが溜まっているであろう冒険者達が出てくる。


「あの何か掛け声でも、スシデウス様何かありませんか?」


あ、そういえば、アイドルと言えばユニットの名前が必要だったよな。全然考えてなかった。なんかないかなぁ……あなたは輝く……。


「『ユーシャイン』それが君たちがこれから背負う名だ。そこにいる人々を全て輝かせられる存在になるという意味を持つ」


めっちゃ昭和のロボアニメに出てきそうな名前になってしまった! 


「『321! スマイル! ユーシャイン! 世界よ輝け! ユーシャイン!』というのはどうでしょう。こういうポーズをとって」


コルルナが両手の人差し指を頬に当て笑顔を見せる。


普通にかわいいな、めっちゃアニソンみたいになってるけど、後で花子に作ってもらおうかな……


「えーそれやらないとだめなのか?」


嫌々やるイルミル。それ可愛いぞ。


「お姉さんスマイル!」


だからアルシュルは胸を強調しすぎだ。


「そろそろ出番だぞ、ユーシャイン。さぁ行こうか! 撃鉄を起こそう!」


「3!」


アルシュルが言う。


「2!」


イルミルが言う。


「1!」


コルルナが言う。


「「「スマイル! ユーシャイン! 世界よ輝け! ユーシャイン!」」」


そうして三人と花子はダンジョン前の近くの広場へと走っていく。


☆☆☆初ライブ


「冒険者の皆様! 私達はユーシャインです!」


センターはコルルナが務め司会進行を任せている。


奇異なまなざしを向けられることは百も承知。これは異世界人に贈る初のアイドルの姿。


冒険者の中には奇抜なアイドル衣装に見とれている者もいる。


「結構かわいいじゃん。お前らどの子好き?」


「胸でかい子」「獣人族の子」「真ん中の子」


目の前に三人の綺麗で可愛らしい女性がいるという事実は何も変わらない。


だからこそ、彼女たちは視線を集めている。


「それでは歌います……」


花子が音楽を流す。すると冒険者達は驚きを隠せなくなる。そうだもっと驚け……


「え、急に音楽が……こんなところに吟遊詩人が訪れたというのか?」


「でも楽器がどこにも見当たらないぞ?」 


そして三人は歌い出す。するとその場にいた冒険者達はどこから音が流れているのか? 何故ダンジョンの入り口で歌っているのか?


無数にある疑問を感じることを忘れ、彼女たちの歌声に魅了されていた。


元居た世界のアイドルソングを丸ごとパクった。


疲れが溜まった冒険者にその『可愛さ』は何よりも癒されるものだった。


やがて曲が終わると少しの沈黙が続く。


「はぁはぁ……あれ……なにも反応がない」


三人が沈黙に気付き、盛り上がっていなかったのかと不安になっている。


たが、君たちの歌は確実にこの冒険者達の心を掴んでいる。


「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」


「ユーシャイン! ユーシャイン!」


自分が率先してコールを起こすと他の冒険者たちも連呼する。


成功だ。冒険者達の心を掴むことが出来た。


「ありがとうございます! 私達の応援これからもよろしくお願いします! 私はコルルナです」


「イルミルだ……ふんっ」


「お姉さんはアルシュルよ! ユーシャインをよろしくね!」


三人の顔は喜びに満ちていた。確かな手ごたえをこのライブで感じたのだろう。


「「「ありがと」うございました!」」


順調な滑り出しと言える。


やはり異世界で上手く生きるには『可愛い』を利用することが一番手っ取り早いのだ。


これからどんどん稼ぐぞ……適当に曲パクって売れば大儲けだ!


こうして自分が手掛けた伝説を作るであろう『ユーシャイン』のファーストライブは大成功を収めたのであった。



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