第7話 本気のバトル!


☆☆☆外道のチャバネイル


チャバネイルの軍門に下って数日が経つ。


チャバネイルには事前に知っていたアナスタシアの情報を少しずつ開示していき功績をあげ信用を勝ち取った。


このままいけば、チャバネイルの不正を暴くことは簡単であったが……


ことはそんな簡単ではなくなっていた。


魔王軍との関係である。


彼は魔王軍四天王(アークジャドウではない)と内通している。


正直に言えば自分やアナスタシアの個人で解決できる問題ではなくなっている。


明らかに別の何かの力が働いている。一衛兵団長が魔王軍と繋がっていることはない。


その裏にもっと大きな力が働いているだろう。


こんな事になるのならアナスタシアを騙して逃げればよかったのだ。失敗した。


そんなことで、アナスタシアにはガキの世話を任せている。


多分、彼女なら上手くやるだろう。というか完全に押し付けてきた。


だからこそ、自分はとっととうまい事立ち回り逃げなくては……


あまり真実を知りすぎて命狙われたら終わりだし。


さてと、今日も一仕事しますか。


チャバネイルの部屋に入る。


「失礼します。アナスタシアの件について」


「ペルペッコではないか、話せ」


「はい、彼女を尾行していて気付いたのですが、最近街の辺境にある孤児院跡地に訪れているみたいです」


「何故、孤児院の跡地に?」


「調べたところ、そこには捨てられた子供がおり彼女が面倒を見ているらしいです……これは使えますぜ! ひっひっひ……」


下種な笑みを浮かべる。


「子供を人質にするか、あまり関心はできないな」


建前上の否定である。


「大体その子供がどうなっても誰も気にする人がいないですし。足もつかないですので」


「お前も悪よのう……はっはっは!」

「ひひひ!」


そう、アナスタシアを裏切ることになっても自分は逃げて見せる。


☆☆☆作戦決行の夜


自分はアナスタシアを孤児院に呼び出す。


チャバネイルに伝えた作戦はこうだった。


魔王軍を孤児院に向かわせ占拠し、ガキどもを人質に取り。殺害。


その後に孤児院に火をつけ、証拠元とも焼き払いアナスタシアを葬る。


馬鹿正直な人間なのでこれで騙されるだろう。


しかし魔王軍の連中ってどんなやつなのだろうか?


孤児院周辺の木々に隠れ様子を見る。


アナスタシアが孤児院を訪れ中へ入っていく。


合図を送ると少しの間を経て、どしりどしりと足音が聞こえてくる。


「今日はどんな悲鳴が聞こえるのか……楽しみだ! やはり人間の悲鳴はいい! 絶望にもがき苦しむ姿こそ俺の趣味だ! はーっはっはっは!」


どうやら一人のようだ。体は大きくこれ孤児院に入れるのか?


しかし随分物騒なこと言うなこいつ。絶対に性格歪んでるな。


扉消えたんだけど……そのまま入っていったし。


すると、孤児院から子供の悲鳴が聞こえる。


さてさて、作戦は始まったわけですが、自分はここでとんずらするのがいいでしょう。


「君たちは下がっていろ! ここは私が食い止める! 近衛兵アナスタシア・アナ・ぐっ! 名乗っている時に卑怯だぞ!」


「いち、に、さん、よん、ご……五つの悲鳴を聞くことが出来るのか! あぁ、安心してくれていいよ、君が死ぬのは最後になる。だって守る者がある人間は最後に殺さないともったいないしね!」


「剣技! デルタストリーム!」


アナスタシアは魔王軍の者に剣で斬りかかるが、


「効かないよ。そんなの」


彼の全身に透明なバリアのようなものが現れた。


「サイクロンブースト!」


咄嗟の判断でアナスタシアは魔法に切り替える。


しかし、彼の透明なバリアに攻撃は消えていく。


「効いていないか……ならば! エーシェント・トルネード!」


風魔法使いかやっぱ。範囲攻撃で魔王軍の者を攻撃し砂煙が舞い散る。


しかし、彼の笑い声が止まることはなかった。


「傷一つすらないだと! これは私の出せる最大の魔法のはずが!」


あ、これ、そろそろ言うな。『くっ殺せ!』とこれだけ聞いたら離れよう


「はっはっは、やはり人間なんて脆い生き物だな、こんな全力で攻撃しているのに傷一つつかない。じゃあそろそろ反撃行こうか」


「何っ! っぐ!」


周囲が輝き出すと同時にアナスタシアは倒れていた。


「そうやあ、自己紹介がまだだったね。俺は魔王軍四天王が一人ジャーク・ゲドウだ」


まさかの魔王軍四天王。しかも直々に来るってどういうことだよ、先ほど会話を聞くに趣味なのだろうけど……悪趣味だねぇ……


「嘘……だ。なぜ四天王がこんな場所に!」


「お姉ちゃん! 大丈夫! ねぇ!」


サラヤがアナスタシアの元に駆け付ける。自分がいない間随分信頼勝ち取ったんだな。


「おーおー、泣けるねぇ。お涙頂戴だよ!」


「バカ! 逃げろと言っている!」


流石は正義の人だ。絶対に勝てない相手だと分かっていても剣を向けている。


「私が生きている限り! ここにいる子供達は私が守る! 誰も死なせたりはしない!」


〇獄さんかよ……


「はっはっは! 面白いねぇ! だって君雑魚じゃん。絶対に勝てないってわかっているのにどうして人は諦めないのか? 永遠の議題だと思うんだよ」


「無謀だの負けるだの。そんなことは百も承知だ」


「怖くはないのか? 勝てないと分かっていながら挑むのは?」


「あぁ、恐れているさ、怯えているさ……だが、ある者は言った。その怯えを乗り越えた先にある感情こそが『勇気』なのだと!」


……自分が言ったやつじゃん、かなり適当なこと言ったのに響いている人いたんだな。


「だとしたら、君はその勇気に殺されたことになる! 無力な人間はその事実を受け入れて殺されるのがお似合いだ!」


「うおおおおおお!」


魔法で応戦するもやはり彼には届かない。明らかに消耗戦になっている。


時期にここの連中は終わりだろう。仕方がないんだ。


そうやって、周りに執着すればこちらが足元をすくわれる。


仕方がない。仕方がないんだ。


「ペルペッコの兄貴……こんな時にどこに行ったんだよ!」


アランは、下の子たちを学校へ向かわせるために働いていた。知能は足りないけど、優しさだけは人一倍ある。


「ペルペッコ! 助けてー!」


サラヤの叫びが聞こえる。彼女だって本当は優しい性格をしていたんだ。


「ペルペッコ―!」


あの優しくふわふわしていた。エミリーが泣き叫ぶ……


「ペルペッコ! 助けてぇぇぇぇ! 頼むよぉぉ!」


ダニーも間違えずに自分の名を叫んでいた。


……自分が出ていったところでこの状況は変わらない。


何を躊躇っている? こいつらは元々捨てるために利用していたガキどもだ。


確かに自分のことを尊敬して、少し異世界気分になっていた。


中学生が小学生に自分の知識をひけらかすのと何も変わらないくらい情けないことだ。


見捨てろ。見捨てるんだ!


「終わりだ」


子供達に攻撃を放とうとする。


「間に合わない! クソ!」


しかしこの距離からではアナスタシアは間に合わない。


「さぁ、絶望しろ! アナスタシア!」


「クオリティ・ハザード!」


圧倒的な攻撃力を誇りそうな光をジャーク・ゲドウに飛ばしていた。


☆☆☆対決。ジャーク・ゲドウ


「なんだ救援か? 聞いていないぞ」


光を吸収した反応で攻撃は誰もいない場所へ向かう。


おいおいおい……さすがにこの状況で出ていくのはあまりに無策だ。


一体どうしたというんだよ! 自分は!


「ペルペッコ君……」


「ペルペッコの兄貴! やっぱり助けに来てくれた! さすがは兄貴だぜ!」


まぁ、来たところで何一つ戦況は変わらない。


「話はあとだ。彼女を連れてすぐにこの屋敷から出ろ、そして救援を呼んでくれ!」


「危険だ……こいつは魔王軍四天王のジャーク・ゲドウだ! 君では敵うわけない!」


すると、光の魔法を使う。派手なエフェクトを発生させる。


「これを見ても本当にそう思えます? アナスタシアさん。それと……」


彼女の耳元で囁いた。


「……頼んだ」


あ、信じたんだ。話は早い。


ジャーク・ゲドウは逃げる者のことは追わずに自分の方に興味が向いている。


「今度は君が俺の相手をしてくれるというのか、随分子供達から信頼されているねえ……そんな相手が死んだらあの子たちはどう思うだろうねぇ!」


「生憎だけど、殺される気はないんでね。だから……」


指先から光を放つ不意打ちの攻撃。防がれる。


更に光を斜めへ放ち反射しながら背中に命中するもバリアがあるため意味はない。


「無駄だよ。君は俺を何一つ傷つけることができない」


ありとあらゆる方向から光を放つがバリアの中に消えていった。


「……じゃあ、こっちの番だ!」


すると周囲が更に光に包まれる。逃げろ!


そんな反応できるはずもなく攻撃を……食らった?


しかし、痛みもなくダメージもない。


確かに自分は攻撃を食らっていたはずだ。


「……防いだ?」


これは彼にも想定外のことみたいだ。


……もしやこれは、


更に攻撃を放つ、放ち続ける。


「だから、無駄だと言っている!」


再び相手の攻撃を食らうもダメージはない。


「こちらだって無駄だと返すよ!」


「何? また避けた?」


ジャーク・ゲドウの能力は全ての攻撃を全身に張り巡らされたバリアによって吸収し放出する類のものだろう。


しかし自分の光魔法は威力が皆無であり、人畜無害の攻撃だ。だからこそいくら攻撃を吸収し放出しても自分にダメージがない。


恐らくあと数回すれば、彼はこのことに気付く。


それまでに救援が来てくれることを願いたいが……無理だろう。


大体こういう系の能力って漫画だと吸収しきれなくなって負けるパターンが多いけど……


とりあえず逃げる。


「おい! 逃げるつもりか!」


孤児院の地形は把握しているので逃げる。


古びたおもちゃ箱の中に隠していたものを取り出すと、また別の部屋へ別の部屋へと逃げる。


しかし奴の方がスピードは上であり早歩きで移動をしている。光魔法攻撃で何とか追いつかれない。


全力疾走し逃げ惑うなかで、自分は個室につき行き止まりとなる。


「どうした? 鬼ごっこは終わりか?」


個室の中へしゃがみ隠れる。


「この部屋に逃げたことは分かっている。どこにいる!」


奴は自分に気付かずに通りすがる。その隙に手元に持っていたエクステンドバスコの中身を飛ばした……


「そこか! 残念だったな!」


エクステンドバスコも吸収される。やはりだめか。


そもそも距離を詰められれば一方的に不利だ。打撃攻撃一発食らえば自分は負ける。


だから、今出せる最大出力の目くらましにより距離を稼ぎ、窓際に移動する。


「うおおおおお!」


距離にして5mほど


「なぁ、取引をしないか?」


「何をいまさら、自分が追い詰められている状況だということに気付いていないわけではないだろう」


「この話を聞いてから判断してほしいね、自分さ気付いちゃったんだよねあんたの弱点にさ」


すると、足が止まる。


「あんたの能力はバリアで物を吸収し放出する能力だろ?」


眼を反らす、やはりそうだったな。


「それがどうしたという。分かったところで君には対策のしようがない」


「そう、自分にはね……」


そう、これは取引だ。自分は一度同じ四天王のアークジャドウに勝っている。だから恐れるな。


「だから、先ほどアナスタシアに能力を伝えたんだ。気付いてなかったのか?」


彼女の耳元で囁く素振りだけだ何も言っていない。弱点は戦ってから気付いた。でも奴は信じている。


自らの能力を知られるというのはどのジャンルにおいても致命的なものだ。


「……何?」


「例え自分が倒せなくても弱点は広まっている……駆け付けた冒険者があんたを倒すだろう」


本当に駆け付けるかは不安ではある。だけど……確実に奴は焦っている。


「もしここで自分見逃してくれるなら追ったりはしない。生憎死にたくはないのでな」


「はったりだ!」


「時間はあと少しだぞ? そこまでリスクを冒して倒す価値があるのか?」


「それは……」


「まだ気付いてないようだな、どうして自分がここに来たか」


「何?」


ここでもうひとスパイス。利用させてもらう!


「チャバネイルだ。あんたを売ったんだよ……この孤児院で襲われる情報も全部あいつから聞いたものだ。だから、自分を見逃せ? 見逃せば復讐だってできるぞ?」


……


数秒の間があった。


「知ったことかそんなこと! 殺してから考え逃げれば良いのだ!」


判断をやめた。咄嗟にジャーク・ゲドウはこちらに駆け出す。


「その瞬間を待っていた!」


窓際に予め用意してあって紐を引っ張る。


すると、彼のいた個室の床は開き落ちていく。元々ここは逃走経路として作っていたものであり。これを利用させてもらった。


「な、何イィィィィ!」


彼は全身に魔法攻撃や物理攻撃を吸収するバリアの能力を持っている。


それは光魔法の吸収で実証済みである。


しかし、唯一そのバリアが発生しないところがある。それが足の裏だ。


足の裏まで覆っていたら歩くとき地面すら吸収してそのまま落ち続けることとなるからだ。


彼の移動は歩きであり全力で走ることはしなかった。それは能力が故に転ぶリスクを恐れていたからである。


そして今彼は落ちている。頭部が下を向いている。このままでは落下の衝撃すら吸収して永遠に落ち続けることになる。


だから選択肢は一つしかない。


バリアを解除する。それでも落下のダメージは免れない。


そこで穴に孤児院を燃やすための火薬を投げ込む。そして爆発させる。


「食らいやがれ!」


「ぎゃぁあああああああ!」


恐らくこの炎でも倒し切れないだろう。だけど倒すことが目的ではない。これでいい。


「誰かいますか! 助けに来ました! どこにいますか!」


女性の声。恐らく救援が来たのだろう。


すぐに着替え、着ていた服をこの場に置く。


この炎は孤児院全体に広がる。そうすればこれは証拠になる。


「うわぁぁぁあああ! 死ぬぅぅううう! 苦しい! 助けてくれぇぇぇぇ!」


助けに来た人に聞こえるように叫ぶ。


あと数秒でここに辿り着くだろう。だからこそ、窓から自分は飛び出した。


ペルペッコ・モンタージュは死んだことにして逃げる!


死んだ人間を追うことはもうない! 勝った!


これで全て解決だ。


金もある程度稼げたのでこっそりポケットの中にしまう。


恐らくジャーク・ゲドウにチャバネイルのこともチクったので、どのみち彼も終わりだろう。


これでアナスタシアとの約束も果たした。


お縄につくわけにはいかないのだよ自分は!


さて次はどこで、何をするか……それはどこかの街に辿り着いてから考えるようにしよう。


〇〇〇勇者となったジエイミ、孤児院に訪れる。


修行の毎日を送る中。沢山の功績をあげて国王から『勇者』という記号を与えられました。


そして、私にも再び仲間が出来ました。


以前に戦ったことのあるゴブリン・ロード・ヴォルケーノ・マキナことゴブリンさん。


「ゴブゴブ!」


そしてもう一人、ミニスカートのメイド服にキャットシーの耳のブリムと凄い恰好をした。メイドさんです。名前はいくら聞いても教えてくれません。


この二人が私のパーティーです。とても個性の強い大切な仲間です。


「ジエイミ様……この後の夕食は……」


「助けてくれ! お願いだ!」


街で子供の声が聞こえます。どうやら女性が怪我をしており、子供達が担いでいます。


どこからか逃げてきたような感じですが……


「大丈夫ですか!」


彼女はかなり重傷を負っています。


「私のことは……いい、それよりも……彼を! ペルペッコ君を助けてくれ!」


どなたか存じ上げません。ですが状況は大体理解してきます。


「ここから少し歩いた森の奥に孤児院があります。そこに魔王軍四天王が――」


魔王軍四天王。


その言葉を聞いて躊躇うことはななかったです。


「ちょっと! ジエイミ様!」


「ゴブゴブ!」


子供の言葉を聞き終わるより先に駆け出し孤児院へ向かっていました。


すぐに駆け付けないと! そこにペルペッコという人が取り残され時間を稼いでいるのでしょう。


魔王軍四天王相手になんて勇敢な人なのだろう。エクシリオさんには敵わないですが。


森林を掻き分けると、すぐに孤児院に辿り着きます。


すると、ものすごい爆発音とともに一室が火に包まれていました。


腰に賭けられた剣を構えながら孤児院の中へ入ります。


「誰かいますか! 助けに来ました! どこにいますか!」


すると……


「うわぁぁぁあああ! 死ぬぅぅううう! 苦しい! 助けてくれぇぇぇぇ!」


恐らく火のついたところ。私はその部屋へ最短距離で移動します。


すると、大きな穴から火が吹き荒れています。


口を押さえながら周囲を見渡しますが誰もいません。


あれは、商人の服でしょうか?


「誰か! いますか!」


しかし返事はない、まさかこの穴の中に……


剣を抜きます。


「ライトニング・アブソリューション!」


光の衝撃波で炎諸共消し飛ばします。


結構な高さがありますが壁を蹴りながら降りていき、地面に辿り着きます。


暗いので、光の魔法で周囲を見ますが大きな横穴が広がっていますが……


明らかに人じゃないものが移動した後。恐らくは魔王軍四天王……ですが、今すぐにでも追いたい気持ちを抑えて、再び個室へと戻ります。


他の部屋を探してもやはり、誰の気配も感じません。


ペルペッコさん。あなたは……


やがて、仲間達と子供が駆け付けます。


「ジエイミ様、一人での行動は危険です」


「ごめんなさい。それよりも怪我をしていた女性は?」


「治癒魔法をかけたので安静にしていれば命に別状はありません」


そちらの方は一安心ですが……


「それで、ペルペッコの兄貴は!」


言っていいのか……はぐらかすのはもっと失礼になる。


「ごめんなさい……」


個室に置かれていて燃えかけていた服を渡す。


「……嘘だろ? ペルペッコの兄貴が?」


「私が駆け付けた時にはもう……私が無力だから、彼を救うことが出来ませんでした! ごめんなさい……」


「そんな! ペルペッコが死ぬ? 嘘だよね……だってあのクズよ! そんな、私達を守って死ぬなんて絶対ないでしょ!」


子供達は皆大切な兄を失ったことに絶望していた。


「「「「ペルペッコー!」」」兄貴!」


これも全部。私の責任だ。


私がもっと強ければ……誰にも負けないくらい。強ければこんな思いをする子供達は出てこなかった。


きっと、エクシリオさんならこんなへまはしなかった。ペルペッコさんの命を助けて完璧に救いきる……四天王だって倒して……


遠いな、あの人は……本当に憧れています。


だから、私はあの人を超える勇者にならなければならない!


△△△事件の後に


チャバネイルは高い酒を飲みながら団長室で笑っていた。


「ペルペッコ・モンタージュ。確かに優秀な騙し屋だったよ。だが、騙しが得意な奴を信用するわけないだろう。使い捨ての駒にしかならない」


「これで、こそこそ嗅ぎまわっていた。邪魔なアナスタシアも死んだ。それにのうのうと生きているガキどももだ。はっはっは!」


「これで、俺の地位も安泰だ! ジャーク・ゲドウにも……感謝しないとな!」


高らかに笑うチャバネイル。そこで団長室のドアが開く。


「何を勝手に入ってきている!」


そこにはアナスタシアを筆頭に複数の近衛兵に囲まれていた。


「リンゴキ・チャバネイル団長。貴方を賄賂及び、魔王軍スパイの容疑によって拘束します」


「何を! どこにそんな証拠がある?」


死んだはずと思っていたアナスタシアが現れたことによって、冷静を保てていなかった。


「証拠ですか? これはカクセイラン国王の命を受けているのです。それを否定するおつもりですか?」


「……ふざけるな! こんなもの! 大体俺は無実だ魔王軍などと絡んでいるはずがないだろう」


(大体、例え今捕まったとしても『彼ら』が無実であると書き換えてくれる。事実なんて後から簡単に変わるのだ! だから、例え王の命だろうがなんだろうがいい……)


「ご同行願おうか」


「あぁ、好きにすればいい。俺は無実だと、すぐに分かるときがくるのだ……はっはっは!」


チャバネイルはそのまま近衛兵に連行される。その後。彼が無実になることはなかった。


その後、孤児院の子供達はペルペッコの残した金貨

百枚ほどの蓄えで学校へ通い、善き友人と巡り合う。



〇〇〇新たな仲間



今回の一件で、私は考えを改める。


私に足りないのは経験だ。だから寝る間を惜しんで戦い続けた。斬って斬って斬り続けた。


「……ジエイミ様。いい加減にしてください。どれだけモンスターを倒せば気が済むのですか! 休まないと体がもちませんよ」


「メイドさん。私はいいんです……もし倒れても治癒魔法がありますし、そもそも、全部私が弱いのがいけないのです」


「だから、ジエイミ様は強いと申しております。少なくともこの国で既に五本指に入るほどです」


「それじゃダメなんですよ。私は! 誰よりも強くなければ! そうじゃないと誰も救えないんです!」


「埒が明きませんね……アカゴブ様はどちら側なのですか」


「五分五分」


「どっちらつかずですか……ぶぶ……ゴブリンが五分五分……」


「いいですかジエイミ様。勇者は決して神様ではないのですよ。なのに全てを救おうとするなんてあまりに傲慢ではありませんか?」


「傲慢は悪ですか? 誰も救われないなんてことより幸福なことなんてないですよ!」


寝不足を言い訳にするな、私はどうしようもなく弱い人間なのだ。


「ならばジエイミ様は、今病魔に苦しむ人間を救うことが出来ますか? 今世界の裏側で暴漢に襲われているもの助けられますか?」


「それは……」


そんなことは不可能です。


「私にはまるで、貴方が死に急いでるように映ります」


だって、命を懸けないと、私にはこれしかないのだ。


「私の信頼している人の言葉を使わしていただきますが『やる前から死ぬことを考える馬鹿がいるかよ』」


なんですか、その今にも殴りかかってきそうな勢いは


「誰の言葉ですか」


「内緒です」


ウインクをする。この人の性格が未だに掴めていません。


「その方は自分が死ぬことなど一度も考えていなかった。常に笑っていることを志向としており、私は彼に救われました。恩人です」


「だから言います。ジエイミ様。貴方の進む先に笑顔はありますか?」


その問いに。はいと頷けなかった。


「本心を言えば、ジエイミ様の気持ちは痛いほどわかります。ある目的のために全てを捨てる覚悟を持っている。それは前の私と同じでしたから」


「メイドさん……」


「話し込んでいるところすまない!」


現れたのは孤児院騒動の時の近衛兵でした。既に動き回れるくらいに回復しているみたいです。


無事でよかった。


「勇者殿、先日は命を救っていただき有難う御座います。アナスタシア・アナ・イーヤクラフトと申します」


「いえいえ、お構いなく……それよりも。ごめんなさい、彼のことを救うことができなくて」


「それは勇者殿の責任ではないです。確かにペルペッコ君は賢く聡明な人間でした。恐らく生きていれば人類に貢献していたことでしょう」


それほど優秀な人なのに……


「ところで話が変わりまして……多少無理をしたせいで近衛兵をクビになりまして……」


「え……大変ではないですか」


「どうか、私を勇者パーティーに加えてほしいのです!」


大切な者を失って、もがこうとする彼女の気持ちは痛いほど理解できる。


私だって同じです。エクシリオさんの死に悔やんでも悔やみきれない。


あ、こうして俯瞰すると、メイドさんから見た私なんだ、アナスタシアさんは。


「ジャーク・ゲドウ。あいつだけは私の手で倒さなければなりません。どうか勇者様!」


きっと、止めてもこの人は一人で動く。私だってそうする。


なら、答えは一つです。無駄死にはさせない。


「アナスタシアさん。私はあなたを歓迎します。ようこそ勇者パーティーへ!」


これは復讐なのだ。魔王軍に奪われたものを弔うための戦いだ。


―――第二章。完!

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