ポケット司会者
@luv273
ポケット司会者
会社の懇親会に参加した時の事。
新人だった僕は、緊張のあまり、とあるものを用意していた。
ポケット司会者と呼ばれるそれは、手のひらに乗るような白ウサギのぬいぐるみで、話に詰まっている人がいれば、質問や話題を振り、時には場を盛り上げてくれる優れものだ。これさえあれば口下手な自分でも楽しめるだろう。
懇親会は、個室の居酒屋で行われ、会社の先輩や上司を含めた10人程が集まった。
届く料理や酒を楽しんでいると、話題は新人である僕のことになった。
私生活の事や、仕事について、色々な話題が僕に向けられたのだが、集まる視線から緊張してしまい言葉に詰まってしまった。そんな時、僕のポケットから白ウサギが飛び出した。白ウサギはテーブルにあったおしぼりに座ると、僕に向けてより話しやすいように問いかけた。おずおずと回答すれば上手く補足を入れてくれ、場を盛り上げてくれた。
そのうち話題は僕の事から先輩の事になった。先輩は酔いが回ったのか呂律が回らない様子だった。すると先輩のポケットから黒ウサギが飛び出した。黒ウサギは先輩の言いたい事を代弁するように話し、場を盛り上げてくれた。
そのうち話題は先輩の事から上司の事になった。上司は社員の悪態をつき、説教を始めた。すると上司のポケットから灰ウサギが飛び出した。灰ウサギは会場にピりつく空気をそれとなくほぐし、場を盛り上げてくれた。
そのうち話題は上司からポケット司会者の事になった。ウサギたちはポケット司会者をしていてよくある事や苦労話を面白おかしく話した。ウサギたちはウサギ同士でも話題が尽きないようで、それを聞いている僕たちも楽しくなった。
そろそろ潮時という頃合いになり店から出ると、ウサギたちがいない事に気づく。呼んでも現れない。
耳を側立てて声のする方に視線を向けると、彼らは屋根の上で談笑していた。彼らは「まだまだ話足りない」「2軒目に行こうか」「朝まで飲み明かそう」と言うと、あれよあれよという間に屋根を飛び越え駆けだしていった。
ポケット司会者 @luv273
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます