第14話 初めての依頼
外はまだ暗いが、手抜かりなく準備万端整っている。
今日は薬草5束と毒消し草5束の採取依頼を遂行する日なのだ。
この依頼を受注するのに、どれだけ大変だったことか。昨夜の出来事で納得が出来なかった人がいる、それは……。
ギルマスだ。
反対はしていたものの、みんなの説得があり採取に行けることになったのだ。
そして、私は今鏡の前で今日の髪型を決めているところだ。髪が邪魔にならないような髪型と言えば、ポニーテールで決まりでしょ!
あれっ、あれれっ?
手が小さすぎて、ポニーテールが上手く出来ない。
急いでリュックを背負い、部屋から飛び出して階段を駆け下り、ライラの元へ行きポニーテールが出来ないことを告げた。
「ライラ、おはよう。
あのね、ポニーテールが出来ないの」
と告げると、ニコリと微笑んだライラは。
「手が届かないのね。
私が可愛くしてあげるから任せて」
数分後、可愛いポニーテールが出来た、それもリボン付き。
ライラが私の前に鏡を出してくれ、その鏡の前で何度も確認をして、最後にクルリと回ってポーズを決めた。
それも、鏡に向かってVサインだ。
ギルドにいるみんなは、その光景を見守っていた。
レンと出発する前に、ギルドにいる冒険者のお兄さんやお姉さん、大柄なおじさんに「おはよう」と声をかけたり。「レインは今日も元気だな」や「今日も可愛い」などと言われ、頭を撫でられたりして、私はウキウキ気分だった。
この声かけは毎日の習慣になっている。
ゴリマッチョで強面のドルバルは、見た目はアレだけど、話すと笑顔で返事をしてくれるんだよ。
ここにいる冒険者のみんな優しく返事をしてくれるから、嬉しくなっちゃうけど、心を傷つけられることもある。
それは、子供が嫌いな冒険者で、嫌味や酷い言葉で罵ってくる人達もいるけど、今は気にしている場合ではない。
だって、ギルマスは過保護なのか、アレもコレもと言いながらアイテムボックスに色んな物を入れられ。
「やっぱり行くのを止めないか?」
「えっと、前回も大丈夫だったでしょ?」
眉をひそめるギルマス。
「何が『前回も大丈夫だったでしょ?』だ。
あの時はサラマンダーが出ただろう?
知らないとは言わせないぞ」
「あ、あれは……もう倒されてたよ?
今回はレンが一緒だから大丈夫!」
目を閉じ腕組みをするギルマス。それをジイィィィっと見つめる私。そしてそれを見守るギルド内の冒険者たち。
「レンの代わりに俺が……」
「魔物被害報告書の処理、冒険者昇格試験、ギルド内の武器屋・防具屋・素材屋・食堂からの要望など、ギルマスの仕事はたくさんあるのでレインのことはレンに任せておけば良いのです!!」
と、心配顔のギルマスにライラがピシャリと言葉を放ったが「レインなら大丈夫よ」と、ローランになだめられていた。
「あぁ、あぁ。分かった、分かりましたよぉ!
はぁ、危ないと思ったら、レンの後ろに隠れるんだぞ?
約束出来るか?」
「うん、約束する!」
「よしっ!
おいレン、レインのこと頼んだぞ!
レイン、行ってこい!」
レンはギルド内の壁に背をあずけるようにして立っていた。彼の格好を見ると高そうな革製の防具に丈夫そうな靴は疾走が出来そうだ。両腰には双剣が装備されていた。
こちらへ歩み寄って来たレンはギルマスに「あぁ」と一言だけ口にし片手を上げた。
「行って来ます!」
小さな手をレンに向けて「はい!」と言って突き出す私の手に対してレンは、目を大きく見開いた。
「レン?」
小さな手を出したまま、可愛く顔を(コテン)と傾けると、レンは片手で自分の顔を覆い隠したが、横から見える手からはみ出た顔と耳が真っ赤になっているのを私は見逃さなかった。
(レンのギャップ萌え来たぁーー!!)
恐る恐る出したゴツゴツした大きな手を満面の笑みで『ギュッ』と握り、後ろにいるギルドのみんなにブンブンと大きく手を振って出発した。
「レイ……んん"ん"ん"ん"ん"ーーーー!!」
チラッと見えたが、ドルバルが手でギルマスの口を塞いでいたが、私は見なかったことにした。
森を目指して街中を歩く私とレン。手をキュッと握るとレンも軽く握り返してくれる、ほんのちいさなことだが嬉しくて楽しい気持ちになった。
「レンと一緒に採取に来られて嬉しい。
いつも1人で話し相手もいなかったけど、今日はレンがいてくれるから……あ、森だ!
ねえレン、森に着いたよ!」
柔らかく微笑み返すレンは「あぁ、着いたな」と言葉は少ないが、声色は優しかった。
私はレンと繋いでいる手を引き、駆け出した。
「フッ、走らなくても森は逃げないぞ」
「(レンが笑った!)えへへっ、だって早くレンと採取がしたいから」
『ズキュゥゥゥン!!』
えっ? 今のは何の音だったのかな?
「ぐふっ…(レインの可愛い言葉に胸をぶち抜かれた)
は、走ると転んでしまうぞ」
森を少し進むと、私にしか見えない光が灯り【薬草】や【毒消し草】と表示されている。
トトトトトッ! と小走りでお目当ての薬草と毒消し草を採取し始めた。
ぷちぷちぷちぷちぷち…………。
「あっ、ここにもある!」
ぷちぷちぷち。
「こっちにも!」
ぷちぷちぷちぷちぷち……ガサガサガサッッ!!
採取している最中に3匹のツノブラックラビットが現れ、驚いた私はその場に尻もちをつき、とっさに頭を抱えて衝撃に備えていたが「あれ?」と言葉がこぼれた。
ポンッと大きくて優しく撫でてくれる手。この手はレンだ。
レンの足に抱きつき「守ってくれて、ありがとう」と、感謝の言葉を口にした。
「あぁ、レインが無事で良かった。
それにしても……レインの行く場所には魔物やモンスターが出現しやすいと聞いていたが……レイン、俺から離れないようにな」
その後、必要な薬草と毒消し草は採取し終え、5色キノコをアイテムボックスに入れたが、再び光がピカピカと点滅している。
こんな風に虹色に点滅する光は初めてだったのもあり、その場所へ行くと、私の小さな手でも持てるシルバーの【ダガーナイフ】が落ちていた。
「少し汚れてるけど(羽根のように軽い)これなら軽いから私にも扱えそう!」
そこで偶然にも6匹のラットが攻撃してこようと飛んだ時だった。私が振り上げたダガーナイフとレンの双剣が同時に一匹のラットを攻撃していたのだ。
その後、レンと安全そうな場所へ移動したが、何故か10匹のウルフの群れに出くわし、私は必死にダガーナイフを前に突き出し力いっぱい振った瞬間、ナイフから伝わる生々しい感触に気を取られ、ウルフをクリーンヒットしたことも忘れていた。その頃、レンは双剣で全てのウルフを
私は小刻みに震える小さな体と両手を見つめていた。なぜなら、ウルフを刺した生々しい感触が手に残っているからだ。その震える手とダガーナイフに着いている血をじっと見つめる私にレンが話しかけたが、放心状態が続いていた。
「レイン!
大丈夫か? もう帰ろう!
これはギルマスたちに報告した方が良いな」
私の手からダガーナイフを取り、布で包み込み腰のベルトに差し込んだ。反応がない私はレンに抱き上げられて街まで帰って来たようだが、幼い身体には負担が大きかったようで、途中で寝てしまったようだ。
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