サザンカの創造したもの(前編)

サザンカは、集まってきた動物達に何か出来ないかと考えた。


「私よりも背が低い動物さんもいる…。

人用を上げる訳にもいかないし…。


そうだ…人以外の動物さん達のは、私が造ろう。」


サザンカはそうつぶやくと、少し離れた所に手を伸ばし、背の低い木を創造した。


「さ、動物さん達、あの木の実をお食べ!


感情~…は、マツリカお姉様みたいに上手く組み込めなかったけど、知識は必要分は入れたからね!


………私が造った木の実だから、どこまでの知識があるかわからないけど…。

でも、味は大丈夫!美味しく造った!」


『……嬢ちゃん…そんな曖昧あいまいなものでいいんですかい?』


「うっ…だって…知識は私より、マツリカお姉様の方が上だもの…。


にしても…動物さん達…動いてくれない…。」


『いや、そう言う意味では...

それに、動物が動かないのは違う理由が...


あ!ちょっと、あっしが行ってきやす!』


少し離れた所から様子を見ていた孔雀くじゃくは、サザンカの様子に心配になり、手助けをするべく声を掛けた。


事情を聞いた孔雀くじゃくは、サザンカの周りに集まっていた人以外の動物達を羽で押したり、鳴き声で木のもとへ導いた。


孔雀くじゃくを筆頭に動物達が木の周りに集まると、孔雀くじゃくはお手本を示すかのように、くちばしで枝をつつき、木に実っている実を地面に落としてついばんだ。


それを見た動物達は、木にゆっくりと近づき、同じように枝をつついたり、枝を折ったりして実を口に運んだ。


その場の動物達が皆が実を食べ終え、顔を上げると、さっきまでとうって変わり、目つきが違っていた。


場の空気が穏やかなものから一変し、動物達はお互い、一触即発の緊張状態と化していた。


『(これは…弱肉強食が今にも始まりそうだぜ…。


嬢ちゃんの仕事がまだ終わってないのに、いけねぇ…。)』


そう思った孔雀くじゃくは、模様が見えるくらい羽を大きく広げ、甲高く鳴き始めた。


孔雀くじゃくの大きさや模様、声に驚いた動物達は、一目散に遠くの方まで全速力で逃げて行った。


孔雀くじゃくさん!お見事です!」


『へへっ、よせやい。

さ、嬢ちゃん、今度は嬢ちゃんの番ですぜ。』


孔雀くじゃくの粋な計らいにサザンカは、満面の笑みで返事をしたのち、赤い木の実を一粒取り、自分の口に放り込んだ。


周りの人達にも食べてもらおうと、サザンカは木の実を一つ一つ木から取り、その場の人達に渡し、身振り手振りで食べるように促す。


その行動が伝わったのか、サザンカから木の実を受け取った人達は木の実を口に運んだ。


その様子をサザンカは安堵した様子で見ていたが、孔雀くじゃくは少し焦った様子でサザンカに近づいた。


『嬢ちゃん、嬢ちゃん…このままだと、なんかマズいですぜ…。


とりあえず、あっしに掴まってくだせぇ。』


孔雀くじゃくに耳打ちされたサザンカは、疑問に思いながらも孔雀くじゃくの言う通りにした。


サザンカが自分の体を掴んだのを確認した孔雀くじゃくは、またがるのを待たずにそのまま全速力でその場を離れた。


「わぁーーーー!!!

孔雀さん!待ってーーーー!!!

全力疾走待ってーーー!!!

せめて、せめて飛んでーー!!」


『おっと、すまねぇ……そら!!』


孔雀くじゃくの全速力に耐え切れなかったサザンカの必死の叫びに、孔雀くじゃくは羽を広げて大空を舞った。


その一瞬の猶予が出来た事で、サザンカは孔雀くじゃくまたがる事が出来たのだった。


『嬢ちゃん…さっきの木なんだが......。』


「あ!他の動物さん達用にも造ったほうがいいよね!


たぶん、あの量だけじゃ、食物連鎖が起きると、生き延びる動物さんが少ない気がする!」


『お、おぅ...まぁ、そんなところでさぁ...。


(嬢ちゃんのこのキラキラした話し方...言いづれぇですぜ。)』


「それにしても孔雀くじゃくさん、すっごく詳しいね、難しい事!」


『動物の感…と言うか、本能…と言うものでさぁ。

ところで、この後はどうするんでやす?』


「んー…じゃぁ…あの先に見える、大きい桜の木に行ってみたい!

私が造った桜の木なの!!」


『がってんだ!』


サザンカと孔雀くじゃくは、桜の木に向かいながら楽し気におしゃべりをしていた。

その間、サザンカは大地のあちこちに手を伸ばして創造の力を発動させ、先ほどのように動物達用に木の実を創造していた。


「(あれ…木の実って…植物…だよね。

植物はマツリカお姉様大地の女神の特権…。


どうして私…木の実を造れるんだろう…。)


そういえば孔雀くじゃくさん、どうしてお話出来るの?

それに、私が造った木の実を食べる前から知識があったように見えたんだけど…。」


『あっしはこの地にいる動物達と違って、嬢ちゃんが直接生んでくれたから、知識も感情も組み込まれてるんですぜ。


いわば…嬢ちゃんのつがい…と言うやつだな…へへっ…。』


「やだなぁ、孔雀くじゃくさんたらぁ…って、んな訳あるかーい!!」


『いいノリツッコみ!

はっはっは!!!


そういや、嬢ちゃんの食べた赤い木の実はどんな味がしたんでやす?

あっしは、甘さの中に渋さもありやしたぜ!』


「私のは甘酸っぱかったよ!!


今後の食事もどうにか考えなきゃ。


私達は食べなくても死なないんだけど、味覚があるから、どうせなら美味しいもの食べたいしね。


(あとで皆と相談しよう!!)」


サザンカと孔雀くじゃくが話している間に桜の木に着いたらしく、孔雀くじゃくはゆっくり降下し始めた。


孔雀くじゃくが地に降り立ったのを確認したサザンカは、孔雀くじゃくから降り、自身が創造した桜の木に近づいて木を見上げた。


「……何…これ…なんで…。」


桜の木、サザンカはそれを創造したはずだったのだが、目の前にそびえ立つのは似て非なるものだった。

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