第9話 世界で唯一の魔術師の俺、家族で夕食を取る
「あっ、起きた!」
目を開けると、姉弟子が俺を覗き込んでいた。
超弩級の巨乳美人がすぐ目の前にいる。
姉弟子はどこから見ても綺麗だなぁ。
師匠は儚げな印象がある月のような美しさだが、姉弟子は太陽のように眩しい美しさを持っている。
どっちも違って、どっちもいい。
「(一生見てられるくらい、可愛いなぁ……)」
夢心地で姉弟子の顔を見上げていると、鼻をつままれた。
「んがっ」
「いひひ」
思い出した。
姉弟子はこういう悪戯をよくしてくる。
子供か。
しかし、そのおかげで微睡んでいた意識が覚めてきた。
「あれ? 俺は何を……?」
「あんた、湯あたりしてのぼせちゃったのよ。まったくだらしないんだから」
「え、そうだっけ……?」
俺は記憶を思い返す。
俺は師匠たちに連れられて、一緒に風呂に入らされたんだ。
そして、元気になってしまった俺のにんにんを二人に見られて、そのあと──
「……ちゃうやん! あんたが搾り取ったからやん!!」
「ちっ、覚えてたか……」
風呂場では散々な目に遭った。
めちゃくちゃ気持ちよかったのは確かだが、姉弟子がまったく逃がしてくれなかったせいで、俺は気絶するまで搾り取られたのだ。
楽園のような地獄とはこのことである。
無知と好奇心と加減のなさが組み合わさるととんでもないことになる、と俺は学んだ。
しかもこれ、姉弟子は自分がなにやってるかよく分かってないからなぁ。
行為の意味を理解したときにブチ切れそうなのが怖すぎる。
「起きたのなら、晩ご飯食べましょ。あたしもうおなかぺこぺこ」
姉弟子に頭を押し上げられる。
今まで膝枕してくれていたのか、優しい。
いや、こうなったのも姉弟子のせいなんだけど、柔らかくて張りのある良い太ももであった。
「師匠ー。レオ起きた-。ごはん並べて良い?」
そう言えば、師匠が静かだ。
風呂場で姉弟子が暴走したときも、全然止めに入ってこなかった。
昼間、お姉さんたちに襲われたときは、あんなに怒っていた師匠だ。
だから、俺が姉弟子にされたことにも怒り出すのかと思っていたけど、特にそんなことはない。
「……はぁ……」
師匠は風呂上がりの楽なドレスに身を包んで、椅子に座ったまま呆けていた。
単にまだ立ち直っていなかっただけらしい。
完全に俺のせいなので、本当に申し訳ない。
俺は師匠になんてことをしてしまったのか。
「短い時間で……10回以上も……連続で……それにあの量……匂い……男性は週に一度出すのが限界なのでは……。書物に書いてあったことと違いすぎます……すごい……」
「しーしょー! しーしょーってば!」
天井を見上げてブツブツとつぶやく師匠の肩を掴んで、姉弟子は激しく揺さぶる。
姉弟子の師匠への態度は、師弟と言うより母親に甘える小さい子供のようだ。
まぁ、姉弟子は事情があって八歳ぐらいまで言葉も知らない獣だったからな。
そこから人生がスタートしたと考えると、今はまだ10歳くらいだからしょうがないのかもしれない。
「はっ。私は何を……」
焦点が合っていなかった瞳が光を取り戻して、ようやく師匠が覚醒した。
「師匠! ごはん! ごはん食べましょ!」
「え、ええ、そうですね。ごめんなさい。あまりに衝撃が大きくて……」
本当に申し訳ありませんでしたァッ!!
蒸し返すわけにもいかないので、俺は心の中で謝るしかない。
やらかした直後は死にたくなったものだが、姉弟子が滅茶苦茶やったおかげか、そんな空気ではなくなってしまった。
姉弟子が何をしようと、これ以上はもう何も出ないぞ。
師匠や姉弟子のセクシーなルーズドレス姿にも、マイサンはまったく反応しない。
これが真の賢者モードか……。
「レオ、食卓へどうぞ」
正気に戻った師匠は、ゆったりとした、しかし無駄もない動きで姉弟子と食事を運んでくる。
魔術でいくつもの皿がふわふわと浮いて追従しているのが、ファンタジー世界だなぁ。
師匠のように強力な魔力を持つ魔女は、ああいう繊細で弱い魔術が逆に苦手という欠点がある。
ロケットエンジンの出力で自転車を動かすようなものだ。
あまりに出力がありすぎて、手加減しても力が出すぎてしまう。
しかし、師匠にはそれがみじんも感じられない。
術式の制御と魔力の調節が完璧だからこそ出来る芸当だ。
さすがすぎる。
「さぁ、創造神様に感謝して、いただきましょう」
「いただきまーす!」
「いただきまっす」
この世界にも食べる前にいただきますと言う文化があった。
ただし、対象は作ってくれた人たちではなく、この世界の生命を生み出したとされる創造神だ。
「(このファンタジー世界だとマジでいそうな気がしてくるな)」
男女逆転世界にしてくれてありがとう、創造神様。
でも、もう少し手心は加えて欲しかった……。
俺は感謝の念を送って手を合わせる。
食卓に所狭しと並んだ食事は豪勢だ。
何から手を付けようか迷ってしまう。
「この海老おいしー! プリプリしてる!」
「良かった。みじん切りにした野菜や香草に、バターを合わせて作った調味料を、チーズと一緒に乗せてオーブンで焼き上げるんです」
「殻から出汁も出てて、溶けたチーズと絡んですっごい美味しい!」
「ふふ、おかわりもたくさんありますからね」
このごちそうの数々は、俺が試験に合格したときのお祝い用だったんだろうなぁ。
量も種類もたくさんある。
きっと師匠は前々から準備してくれていたに違いない。
記憶によると、俺たちが住んでいる学院都市は海が遠い。
新鮮な海産物は貴重だ。
こんな大ぶりで美味しい海老は、さぞかし高かっただろう。
俺が合格していれば、この美味しい料理も晴れやかな気持ちで食えただろうに。
「(まじで、申し訳なさでいっぱいだわ……)」
本当、何やってんだろうな、俺は。
師匠の期待にも応えられず、姉弟子の背を追うと意気込んでおきながら、この体たらく。
顔も思い出せない幼なじみも、今の俺を見れば失望するに違いない。
「……はぁ」
「レオ、どうしました? 食事が進んでいないようですが、お口に合いませんでしたか?」
気がつけば、師匠が俺の顔を覗き込んでいた。
「ち、違うんす! そんなことはなくて!」
「落ち込んだときこそ、たくさん食べてゆっくり休んだ方が良いですよ」
師匠には俺の内心がお見通しだったみたいだ。
確かに、うじうじしててもしょうがない。
これからの進路を考えるのは明日からにして、今は食事を楽しもう。
師匠のせっかくの料理を冷ましてしまうなんてもったいない。
俺は気を取り直して料理に向かおうとする。
が、師匠がおかしなことを言い出した。
「ああ、分かりました。アレをして欲しいのですね」
「え? アレとは?」
「あなたは苦手なものを出されても、アレをしてあげればたくさん食べてくれましたからね。久しぶりにしてあげましょう」
「???」
マジであれってなんだ?
まったく心当たりがないんだが。
師匠は俺の疑問をよそに、楽しそうにフォークでロングパスタを巻き取っていく。
そしてそれに手を添えて、俺の口の前へ差し出した。
「レオ、あーん」
まさかの『あーん』キター!
「い、いや、師匠。さすがにもう子供ではないので……」
俺が固辞しようとすると、師匠の眉尻が下がる。
めっちゃ悲しそうだ。
叱られたあとのハスキー犬みたいな表情してる。
きゅーんって泣きそう。
「わ、わーい! 嬉しいなー!」
師匠にそんな顔をさせるわけにはいかない。
俺は師匠の差し出したパスタを頬張った。
「え、うまっ」
レモンの風味がきいたオイルパスタだ。
ニンニクと塩気が効いていて、めっちゃ美味い。
アクセントで入っている唐辛子のような辛味のある香辛料が、さらに食欲を誘ってくる。
「めちゃくちゃ美味しいです! 師匠!」
「ふふ、どんどん食べて下さいね。はい、あーん」
師匠はとても嬉しそうだ。
完全に幼児扱いだが、不思議と心地よい。
これがバブみか……。
「あー! 師匠ずるい!」
えっ、もしかして姉弟子もしてくれるのか?
と思ったら違った。
「あたしにもしてよぉ!」
羨ましいのは、師匠に『あーん』をしてもらう方だった。
姉弟子は師匠が大好きだからな。
俺よりもずっと師匠に甘え倒している。
というか、師匠が俺まで幼児扱いをするのは、姉弟子の幼さが原因のような気がするぞ。
上の子が幼いと下の子も合わせた扱いになっちゃうからな。
つまり、俺は悪くないと言うことだ。
うん、そうに違いない。
「あらあら。アグニカは甘えん坊さんね。はい、どうぞ」
「やったー! んー! おいひー!」
姉弟子も頬いっぱいにパスタを頬張って幸せそうだ。
こうして俺たちは夕食の時間を楽しく過ごしたのだった。
挿絵1・膝枕してくれる姉弟子
https://kakuyomu.jp/users/inumajin/news/16817330656939606738
挿絵2・レオを気遣ってくれる師匠
https://kakuyomu.jp/users/inumajin/news/16817330656939642426
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