詩「ピース・オブ・フューチャー」
有原野分
ピース・オブ・フューチャー
どうかわたしを見つめないでくれ
未来、
わたしは自分で選びたいのだ
軌跡を振り返ったときの一番はじめに口にする言葉の響きは
きっとここに至るまでに抱いた語彙の生ぬるい海だ
風は音を運んでくる
それならばどうして、
どうして今ここにわたしが生きているという証明ができるのだろうか
揺れる水面に向かって視界の泡
ああ、誰か教えてくれ
水の上なのか雲の上なのか
聞こえてくるのは波のささやきなのか風のつぶやきなのか、ああ、
誰か教えてくれ、
どうしてわたしはいつかここから旅立たなければいけないのか
わたしの生まれ故郷はここだ
空だの海だの愛だの希望だの
偏見だの無知だの不自由だのわたしは決して求めない
幸せは今、ここだ
ここにある
無重力と深い瞑想だけがその真実を手繰り寄せるのだから
どうか声をかけないでほしい
わたしはその声を聞くと心がざわめくのだ
新芽のように
懐かしい感情を抱いている幻想、その先の
孤独、
誰かがわたしを呼んでいる
誰かがわたしを誰かの世界の中心に座らせようとしている
水面が揺れる
揺れる
やわらかい空洞
世紀末
影、
死について考えることができるのは生きている間だけなのだとわたしは知っているはずだ
ったのに
死、
慈悲か
同情か、
発生か、
霧散か、
哲学か、
ああ、サルバドール・ダリ、
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、
ルネ・フランソワ・ギスラン・マグリット、
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、
色、が欲しい
たとえば星空のような深い群青色、
たとえば並木道の淡い緑色、
たとえば誰かの何気ない一言で頬をぽっと染めるあなたはいったい誰?
空中に描いた
今はまだなにもない空間に
どうかわたしを見つめないでくれ
その声が聞こえてくるたびにわたしはもう、
いてもたってもいられないのだ
きっとここは夢の中
いつも夢、
その中に飛び込んでいくには
眠ろう、
ゆっくりと羽を閉じて
囁きながら
あなたの町の音が
水の流れのように
天窓から
光、
零れ落ちるほどの
命、だ
わたしは知っている
本当はなにも信じていないということがすべてを信じているということを
死とは決して不幸なことではなく
死とは世界が生まれるということを
流れに身を任せて漂うことの哲学的な実践こそがただ一つの生きることの証明であり次に
繋がる大いなる破壊だということを
わたしは知っていた
ああ、
聞こえる
あなたの声が、
壁のようにそびえて
まだ見たことのない崩れそうな情景を
ふと思い出したことがある
世界は自分の見たいものを目の前に映し出す鏡のようなものだ
それは意志ではなく無意識の、
だから果てがあって
わたしはあなたに会いにいける
どうかわたしをその手でつかみ取ってほしい
空に穴が開いているように、
この世界はわたしにとってあまりにも狭い
わたしにとってこの世界は
どうやら美しいものだということを
あなたはその透き通った瞳を通して
証明してくれるのだろうと
どうか許してほしい、
わたしの無知なる悪意と
純粋な好奇心と
誰よりも自分のことを愛し続けるわがままを
どうか許してほしい、
いつか訪れる死に対して
ただあなたに嘆くことしかできない小さなこの体の
一生懸命な生きる泣き声を
詩「ピース・オブ・フューチャー」 有原野分 @yujiarihara
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