第8話 北海道と沖縄はこんな感じ

 とある冬の夜、沖縄が寝ている時間帯。

 突然電話が鳴り響いた。

「……ん、たー?」

 彼は起き上がり、電話の名前を見た。北海道からだ。沖縄はすぐに通話ボタンを押し電話に出た。

「沖縄です!」

「……お願い沖縄、すぐに来て!」

「わかりました! すぐ向かいますので、頼むから大人しくしててください!!」

 沖縄は風のように空を飛び、遥か遠い北まで向かった。

「あ、コート忘れた! まあ、なんくるないさ!」

 全然なんからなくないことである。沖縄はその後、凍えることになった。



「北海道さーん! 沖縄です!」

 まだ雪の積もっている北海道の自宅。北海道自身も巨大な為家も大きく、インターホンを押すのにも人苦労している。インターホンを押すと、すごい勢いで玄関から北海道が出てきた。

「沖縄!」

「遅くなってすみません!」

「沖縄しばれてるよ!?」

 しばれている、とは凍っているという意味である。

 北海道は沖縄を家の中に入れて、こたつの中に放り込んだ。北海道が大きいだけあって、こたつのサイズも大きい。沖縄が中で直立できるほどの高さだ。

「大丈夫!?」

「なんくるないさー!」

 全然なんくるなくない。沖縄のその言葉はほとんど嘘である。北海道はこたつの中にいる沖縄を、自分の羊毛毛布でくるんだ。


「……あぁ、俺って最低だ。俺は最低な男だ。こったら夜遅くに、沖縄だって眠いのに、呼び出して、酷い男だ、こったら俺を愛してくれる人なんていない、ああ、あ、ぁぁ、あ、ぁあ……」

「わ、落ち着いて北海道さん!」

 沖縄は半解凍状態でこたつから出てきた。

「僕北海道さんのこと大好きですよ!」

「愛してないの?」

 北海道は情緒不安定なことが多い。主な原因は北方領土だろう。そして、その負の感情の捌け口となっているのは、主に沖縄と青森である。二人は北海道の扱いをよくわかっている上、きちんと感情に向き合っていた。


「愛してます! サーターアンダギー持ってきましたから食べましょう!」

「俺も愛してるよ!」

 北海道は沖縄を毛布ごと抱きしめた。北海道は熊のように力が強いので、沖縄は潰されそうな気持ちであった。

「うぅ…… 潰れいちゃうぅいびーんさぁ、北海道さん」

「!? ごめんね」

 北海道は沖縄を床に下ろした。もう沖縄は凍ってはいなかった。

「良かった、もうしばれてない!」

 北海道はもう一度沖縄を毛布ごと抱きしめた。沖縄は苦笑いした。



 情緒が不安定な北海道は、さまざまな質問を沖縄にした。

「俺の良いところ百個言ってくれない?」

「いいですよ! まず、ジャガイモが美味しいところ! あと、ジンギスカンが美味しくて、毛蟹もおいしくて、白い恋人も美味しくて……あ、食べ物ばっかだ。さっぽろ雪まつりも好きです! いつか沖縄でも雪が見たいなー……」

「見たくなったらいつでも北海道ここに来て」


「もし俺が死んだらどうする?」

「死なないでくださいよ!」

「なんで?」

「友達がいなくなったら悲しいですよ!」

「沖縄……!」

 どんな無茶な質問にも答えていた。


 そして、気がつけば翌日の朝になっていた。北海道も沖縄も互いに眠気に襲われていた。


「……ごめん、気づいたら朝になっていた」

「気にしないでください!」

「俺は朝食を作るけど沖縄も食べていく?」

「では、お言葉に甘えて!」

 北海道はこたつから出て、玄関へと向かった。沖縄は布団から出てついて行く。

「買い出しですか? 手伝います!」

「いや、食材を取りに行くだけだよ」

「狩りするんですか!?」

「しないけど……」

 北海道は玄関の隅に置いてある箱から、野菜を何個か取り出した。

 北海道では廊下や階段、玄関など、暖房が入らない場所はとにかく寒い。買い過ぎてしまった時、冬ならば野菜や冷やしておきたい飲み物などはこういった場所に置かれがちなのだ。


「わぁ……寒いからできることなんですね」

「二重窓には牛乳があるよ。内窓と外窓の間に食材を入れておくと、凍らずにちょうどいい温度で冷やしておけるんだ」

「生活の知恵ですね! 僕もやってみたいけど、流石に沖縄だとできませんね……」




 また別の日。

 北海道は沖縄を訪れていた。

「沖縄、来たよー!」

「えっ、北海道さんがここにくるなんて珍しい!!」

「そんなに?」

「はい! いつも、暑いから無理かもって言ってることが多いので」

「ごめんね、ただ、夏に誘われることが多くて」

 沖縄は北海道をよく夏休みの期間に招待している。夏は色んなイベントがあるので、誘いたくなるのも当然である。

 しかし、夏の暑さは北海道には大敵である。なかなか行けない彼は初夏や秋に行くようにしているのだ。


「それにしても暑いね」

「今はまだ暑くないですけど、これから暑くなりますよ!」

「そんなに?」

 そう話しながら沖縄は、北海道を海へ案内した。綺麗に広がる透明な海は、北海道では見えないものであった。


「……沖縄」

「はい!」

 北海道はしゃがんで、砂の上に落ちているものを拾い、沖縄に渡した。

「見て。珊瑚を見つけた」

「よく砂浜に落ちてるんですよね」

「凄いものがあるんだね」

 白くなっている珊瑚を見て、北海道は沖縄に既視感を感じた。

「こういう珊瑚は死んでいるんだよね。お前は最近白いことが多いけど、死んでいるの?」

 心配する北海道に、沖縄は少し困った顔をして説明した。


「なんでか分からないけど、僕は珊瑚礁みたいで、海の珊瑚礁が弱っていると、僕もちょっと元気が出ないんですよね」

「そう……」

「あ、海の珊瑚礁は死んでませんからね!」

「じゃあこれは」

「死骸です」

「埋葬しよう」

 北海道は砂浜に拾った珊瑚を埋めた。



 太陽が真上に登った頃。北海道のお腹が大きな音を発した。

「……見苦しいところを見せちゃったね。何かおすすめの飲食店はあるか?」

「おすすめですか……うーん……」

 沖縄は考え込んだ。

「せっかくだから僕が今日ご馳走します! いつも北海道さんの家で食べてばかりなので!」

「いいの? 俺も沖縄県の料理は食べてみたい」

「そんな特徴ないですよ。普通にカレーとかゴーヤとか食べてます」

 二人はは沖縄の家まで向かった。北海道は沖縄の家の玄関から入れそうになかったので、庭で待機することになった。


 数分経った頃、沖縄が大きめの大きいフライパンに乗った料理を運んできた。

「とくに特徴ないんですけど……」

 沖縄はゴーヤチャンプルを持ってきた。

「北海道さんにあう大きいお皿が無くて……フライパンごとで大丈夫ですか?」

「平気だよ、ありがとう」

 北海道は渡された菜箸でゴーヤチャンプルを食べた。あまり食べない味はとても新鮮であった。


「あ、ぜんざいありますけど食べますか?」

「じゃあもらおうかな」

 沖縄は家の中に戻った。

(……沖縄って意外とあたたかいものばかり食べてるな。暑いからアイスとか食べてるのかと思った)

 北海道は完食したフライパンなどを脇に寄せ、沖縄が来るのを待った。沖縄は意外とすぐに戻ってきた。


「ぜんざい、普通のお皿に乗っけてきたんですけど大丈夫ですか?」

 沖縄はかき氷のようなものを運んできた。

「……それがぜんざいなの?」

「あ、言い忘れてました! 今の沖縄だと、ぜんざいは黒糖や砂糖で甘く煮た金時豆にかき氷を乗せたものが一般的なんです」

「初めて食べるなぁ」

 北海道は一般の人にとっては多めのぜんざいを五秒で食べていた。沖縄は「あ、やっぱり大きめの持ってきた方が良かった」と思った。

「これ美味しいね! 今度俺も家で作ってみるよ!」

「気に入ってくださってよかったです! また来てください!」

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