第2話 近畿地方はこんな感じ
「大阪やで! 今日は兵庫と漫才をやるで!」
黄色と黒のメッシュの男、大阪は隣に立つ男の肩を叩いた。
「巻き込まれた兵庫くんでーす」
大阪に叩かれた、左目に時計が嵌め込まれている男が兵庫である。
大阪と兵庫が舞台に立ち、それを銀色の手の男、和歌山が鑑賞している。これは二人のお笑いのリハーサルだ。
「今日のお題は『あの犬何の犬?』」
「俺らが犬の犬種について話し合うだけのネタや」
大阪はモニターに犬の画像を上げた。
「あ、チャウチャウちゃう?」
「ちゃうちゃう、チャウチャウちゃう」
「チャウチャウちゃうんちゃう?」
「チャウチャウちゃうちゃう!」
「続きまして、『せやな』の使い方」
「大阪がめんどくさい人になるで」
「『せやな』の使い方間違えてる奴多すぎ。
関西弁使う奴に対してツッコミがめんどいときに使う言葉やで? ね、せやな?」
「せやな」
「「以上、方言ネタでした!」」
「…… それ、
和歌山は冷静であった。
「あっ、確かに毛蟹」
「タラバガニ……って、カニは北海道やろ! なんでやねん!」
大阪が自身の口癖を言った。
「もうワイら三人で漫才した方がええわ! よし和歌山、トリオ組むで!」
「却下。俺今日川の様子を見に行かなあかんのや」
和歌山は大阪の言葉を普通に否定した。
和歌山は
ちなみに動物園にもいる。和歌山は体がところどころパンダなのだ。
「大体、もっと他のやつに頼んだらええやん。例えば三重とか滋賀とか」
和歌山はあえて京都と奈良は言わなかった。大阪は京都と仲が悪い。どちらも首都の座を譲らないのだ。奈良に関しては、ただ単に近寄りがたいからだ。
「滋賀は忍者の免許の更新に行くってや。三重は岐阜と遊びに行ってる」
「なんや忍者の免許て」
「あいつ身分証明を全部忍者で済ましとるからな。三重に関しては、もうあいつ中部地方な気ぃしてきた」
兵庫が説明した。すると、電話がかかってきた。
「はい、もしもし兵庫です。……え、もう時間っだって!? 今行きます!」
「うっ」
兵庫の大声に、和歌山は頭の上にあるパンダの耳を塞いだ。
「あ、もうワイら行くわ! ほなまた後でな、和歌山!」
二人は走ってホールを出て行った。
「おー、頑張ってな」
京都は自宅でものすごく怒っていた。それはもう、キャラが崩壊するレベルに。
「なんでなんや!! この
周りから狐火を出している、妖狐のような男は京都である。その炎は襖を焦がしていた。
彼は今テレビで放送されていた『可愛い方言ランキング!』で、福岡に一位を取られたことに対して怒っていた。
更に特別インタビューの福岡の発言の
「俺は京都が勝つて思うとった。ばってん、俺ん方があいらしかったんやなあ」
が、更に京都の怒りの火に油を注いだ。
「福岡め……イケメン大学生やさかいってモテやがって……僕の方年下中学生キャラで可愛いはずなのに!」
京都は八ツ橋をやけ食いした。
京都が叫び続ける屋敷に、リンリン、シャランシャランと鈴の音が近づいてきた。門をくぐり、鹿を連れて奈良がやってきた。彼女は化身でありながら仏様でもある、和歌山タイプの化身だ。
奈良はそのまま家の中へと入り、京都のいる部屋まで向かった。襖を開けるとちょうど京都止めがあった。
「荒れとるなぁ……」
「……見しんどかったなぁ。かんにんえ、奈良姉」
京都はいつもの笑顔を浮かべた。ちなみに二人の関係性は姉と弟である。奈良は鹿を庭で待たせて、京都の家にお邪魔した。
「奈良姉、何食べてるん?」
「鹿せんべい」
「仏様やのにそんなん食べてええの?」
「ええで。仏様でも人とそう変わらへんし。京都も神の使いやけどそうやろ?」
一個食べる? と奈良は京都に鹿せんべいを渡した。京都は微妙な顔をして食べた。
「おおきに。奈良姉も八ツ橋いる? 抹茶味のお菓子やったら他にもあるけど」
「別にいらへんで。それにしても京都、何かあったん?」
「福岡に方言の可愛さで負けてもうた。僕可愛いのに、可愛い年下中学生男子やのに」
京都はぐぬぬぬと狐火を更に出した。奈良はそれを触って消している。ついでに焦げた襖も元に戻していた。
「平気やで、私が保証するさかい」
「奈良姉……そうやな。僕は可愛いさかいね!」
「ほな、そろそろ帰んで。仏様はせわしないさかいね」
奈良は鹿を連れて帰って行った。
一方、忍者の免許を更新しに行った滋賀は、岐阜と遊び終えた三重と出会った。
「あ、三重!」
「滋賀、珍しな。普通に街中を歩くなんて」
三重が言うには、滋賀は普段は屋根の上を飛びながら移動しているらしい。
「忍者更新しに行ってん。三重ちゃんはもう何年も更新してへんけど平気なん?」
「私はええに。今は巫女やで」
三重は伊勢神宮で巫女として働いている。昔は伊賀忍者として働いていたが、徐々に体が硬くなってきて、忍者を引退したのだ。ついにババアか、と本人は落ち込んでいた。
「ちゃんと更新していかな、体が鈍ってしまうさかいな。俺はまだまだ現役でいたい」
「ジジイのくせによう言うに。そう言う私もババアやけど」
「水遁の腕も鈍ってへんで!」
滋賀の得意な忍術は水遁である。彼の家には琵琶湖があり、水遁を練習するには素晴らしい環境であったのだ。
ちなみに、水遁を使いすぎるとともに琵琶湖の水も減っていくので、干ばつがおきたこともある。
「滋賀、また琵琶湖の水使いまくっとるに!?」
「ほないに使うてへんで! だんないってば!」
「ほんまに? 京都とか奈良を水不足で困らせんでな」
「善処するで」
滋賀はそう言っているが、三重は少しその言葉を信じていないようだ。
「信じられやんな」
「ほやけど、水を少量使いだけでできる技を最近作ってん!」
滋賀は地面に手を置いて、力を込めた。すると、手を置いた場所から水が噴水のように上へ上がり、そして紅葉の木の形を作り出した。見た目はガラスの木であるが、形の中で水は流れている。
「この紅葉の木、葉っぱが自分で取れて、相手に突撃もできるんやで!」
「……この技を作るのに、どれだけの水をつこたつもりなん?」
「…………堪忍して!!」
滋賀は素早い動きで木に登り、木から木へと飛び移って逃げて行った。
「ちょっと待て! ……はぁ。しゃあないにね、ああ言う人やし」
三重は諦めることにした。
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