チーム47列島人間もどき

零名タクト

第1話 関東地方はこんな感じ

「先生! この問題が分かりません!」

「ちょっと見せてみろ。まず反応式の係数が間違ってる。そこは5だ……」

 高校では授業が行われていた。不思議なことに先生と呼ばれた男は、いわゆる特攻服を着ていた。


 生徒は背が低めな先生に目線を合わせ、問題の解説を聞いている。男は少し長めの金髪の前髪を耳にかけて、熱心に解説をした。

「ありがとうございます、茨城先生!」

「おう。わかったなら復習しとけよ」

 金髪の教師、茨城県の化身である彼はそう言った。



 すると、外からバイクの排気音が聞こえてきた。茨城は授業の手を止め、窓の外からその人物を見た。

「あ、千葉のやつ来た」

「先生、今日は抗争行くんですか?」

「ああ。未成年のくせにたばこする奴がいたから、懲らしめに行く」

 茨城は走って校門前に向かった。


「おせーよ茨城!」

「お前が早いんだ! まだ授業中だっぺ!」

 真っ赤な髪に真っ赤な目。背が高く、緑と黄色の蛍光色の独特な上着を羽織った男は千葉である。

「お前こそだろ。全く、いきなり連絡すんなよ。俺今日のテーマパークの仕事部下に押し付けてきたんだからな」

「すまん。けど血走った目で喧嘩楽しみですみたいな顔されても困る」

 茨城は千葉の二人乗りバイクの後ろに乗り、目撃情報を頼りに千葉に方向を指示した。




 港近くの廃工場。少年たちはその中で溜まっていた。

「……なぁ、なんか音しねぇか?」

「本当だな。誰だよ、俺らに喧嘩売ろうとかいう奴」

「とっとと終わらせようぜ」

「俺まだタバコ吸ってんだけど」

 少年たちに向かってくるバイクの音は大きくなりつつあった。

 少年のうちの一人が思い金属の扉を開けた。


 するとその時、少年の顔にピコピコハンマーが真上から落とされた。


「うわっ!」

 ピコッ、とその場に似つかわしく無い音が響く。千葉はさらに叩く。

「オラァっ!」

 ピコッ!!!!

 少年に怪我はない。しかし、衝撃はあった。千葉はさらに中にいる少年たちの頭をピコピコと叩きまくった。そのまま倒れ込んだ隙を、後からバイクで追いついた茨城が服にあるタバコを取り上げていく。



「なんでお前飛んでるんだ!?」

「それは俺が千葉県だからだ」

「……もしかして、不良殺しの不良の!?」

 リーダー格の少年のその言葉で、他の少年たちは焦り出した。


「赤髪に金髪の凸凹コンビ……」

「間違いない! 粘りと悪夢の、あの二人だ!」

「俺ら、チバラキに目ぇ付けられてるのか!?」

「茨城と一緒にするな!!!」

 千葉が少年を余計に叩いた。



 そして、後からやってきた警察によって少年たちは連れて行かれた。二人にお礼をし、少年たちを署へ連れて行く警察と入れ替わるように、茶髪を揺らしながら東京がやってきた。

「千葉、茨城、二人とも忙しいのにありがとうね」

「おう」

「あ、東京ちゃーん!」

 千葉はクルクルと回りながら東京に近づく。


「この後俺とデートしない?」

「しないわ。私は神奈川くん一筋なの」

「つれないなぁ」

 東京に一蹴された千葉は、ケラケラと笑いながらさらに誘い続ける。

「ねーねー、お願い東京ちゃん! 俺の背中乗って遠くまで出かける?」

「おい千葉、そこまでにしとけよ」

「えーなに、茨城嫉妬してんの?」

「は、はぁ!? するわけねーだろ!」

 茨城は千葉の顔にパンチをしようとしたが、背が低めな彼は背が高めの千葉の顔に手が届かなかった。

「……帰る」

「じゃあ途中まで一緒に帰らない?」

「さっきナンパして振られた男と帰るのはちょっと嫌だ」

 茨城はそう言っていたが、結局二人で帰っていた。




 一方その頃の神奈川県。彼は自宅の中華屋で栃木県と群馬県をもてなしていた。

「どんどん食べていーからネ!」

「え、う、うん……」

 そわそわする栃木。

「なんで東京じゃなくて俺ら呼んだんだよ」

 普通にくつろぐ群馬。

 神奈川は多くの中華料理を二人に出した。群馬は何も気にせず食べている。栃木は困りながら中華まんを口にしていた。


「今日は来てくれてありがとうネ!」

「相談があるって聞いたんだけど……」

「なんの相談かは聞かされてない。なんの話だ」

「それがねー、とーちゃんのことなんだ!」

 誤解を招かないために言っておくが、とーちゃんとは父親のことではなく、東京のことである。


「東京ちゃんのことだから、私たちになのですね」

「そーなんだよ! 実はとーちゃんねプレゼントあげたくてさ。でも、本人に何欲しいか聞くのはあれだから、二人からアドバイスが欲しくてね!」

「それ、どちらかというと俺らじゃなくて、千葉とか埼玉とかに聞くべきだろ」

 群馬が呆れたように言った。


「ダメだヨ! 埼玉は東京リアコ勢のヲタクだし、千葉はヤンデレだし、二人に頼んだらとんでもないことになる!」

「それもそうね……」

 栃木が納得したように言った。



「東京ちゃんの最近の悩みに対応できるものとかどうかしら」

 栃木が提案した。先ほどよりも箸が進んでいる。

「とーちゃんの悩み?」

「なんだ、彼氏なのに知らないのか」

「……だって教えてくれないんだもん」

「きっと神奈川くんに心配かけたくないんだよ」

 栃木がそうフォローした。


「東京ちゃんからは、全然眠れてないって話を聞いたよ。この前温泉に浸かりに来てくれたの」

「そういえば草津にも来てたな」

 何日か前に、東京は栃木と群馬の家を訪れた。そして二県の温泉で疲れをとっていたのだ。ちなみに大分にも行っていたらしい。


「あんまり眠れてないんじゃないか? あいつ忙しそうだし」

「だから、枕とかお布団とかはどう?」

「なるほど! 二人のアドバイスはすごいネ! 早速探しに行かないと!」

「解決できたならよかったです!」


 群馬と栃木は料理を平らげ、帰ることにした。

「神奈川くんのご飯も美味しかったね!」

「それでもお前は自分ちの餃子の方が美味いとか思ってるだろ」

「……えへへ」

「図星かよ」




「げっ」

 神奈川が声をあげた。枕と布団とベッドなどを買いに店まで行っていたところ、埼玉と鉢合わせたのだ。

「ちょっと神奈川さん、人に会って『げっ』って言うのは良くないと思いますよ」

「ごめんヨー……ただ、とーちゃんに何かするつもりなら殴るヨ! とーちゃんは僕の彼女だヨ!」

「しませんって! そんな人の恋人をとるような真似はしません!」

 埼玉は全力で否定した。しかし、彼は東京のリアコ勢なのだ。もう一度言う。リアコ勢なのだ。


「神奈川さんはどうしてここに?」

「枕とか色々買いに来たヨ。埼玉は?」

「実は、今日東京さんの写真入り目覚まし時計の発売日でして」

「……」

 神奈川は黙った。そして理解した。だから珍しくこの店が混んでいたのか、と。東京のファンは多いのだ。ちなみにファンの愛称は都民である。


「……もしかして、神奈川さんご存じなかったですか?」

「今知った。とーちゃんそんなこと話さなかったから」

「確かに、東京さんは言わなそうですよね。特に神奈川さんには」

「え、僕だけに?」

「だって、絶対照れるじゃないですか、彼女。あ、神奈川さんも時計いりますか?」

 埼玉が袋から時計を出した。壊れた時用にと三つ買っていたらしい。

「いや、いーよ。僕毎日とーちゃんの寝顔見て寝てるし」

「……自慢ですか?」

「当たり前じゃん!」

「くっそリア充め……」

 埼玉が震える。神奈川はそんな埼玉の手にもう一つの袋が握られていることに気がついた。



「あれ、そっちの袋は?」

「ああ、こちらは持ち運び用の扇風機です。今年の夏は暑くなりそうです」

 熊谷も暑くなるんだろうな、と埼玉はため息をついた。

「埼玉って海ないもんネ。熱中症気をつけなヨ」

「大丈夫ですよ。化身ですし、死にませんし」

「それもそーだネ」

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