魔法少女と酒浸り女子大学生が同棲する話
壊滅的な扇子
魔法少女と女子大学生が同棲を始めるまで
第1話 未知との遭遇
深い谷に渡された橋の上を歩いていた。ごうごうと強い風が吹きつけてくる。煽られた髪の毛にもみくちゃにされながら進むと、魔法少女が谷間を見下ろしていた。
中学生、あるいは高校生になったばかりだろうか。幼い顔立ちだ。けれど宝石のついたステッキもひらひらしたピンク色のドレスも、やっぱり年齢に対して幼すぎるようにみえた。
そして何より今は深夜なのだ。
暗闇の中に浮かび上がるその姿は、あまりにも異様だった。
この世界で魔法少女というのはもちろん一般的なものではなくて、テレビ画面や漫画、あるいはコスプレイベントにしか現れない存在だ。要するに、フィクションなのである。法の制限もなしに怪物や悪の組織と戦う小学生や中学生が現実にいてたまるかって話だ。
つまりこの少女はまごうことなき変質者だった。回覧板とかに「魔法少女のコスプレをした女が出没しています」って書かれるレベルだ。
私は車通りのない車道を渡って、反対側の歩道に向かった。そしてそこから遠巻きにコスプレ少女をみつめる。やはり奇妙な服装だ。アニメの中とかだと違和感は少ないのに、現実に現れると悪い意味で目を惹かれる。
目を細めながらみつめていると、突然、魔法少女は振り返った。
「……」
「……」
私と魔法少女はほんの一瞬だけ見つめ合った。だけど何か言葉を交わすこともなく、お互い目があったことにすら気付かないような態度で、また視線を元に戻す。
橋を渡り切ったあとに振り返ると、少女はまだ同じ場所で谷底を見下ろしていた。たった一人孤独に暗闇をみつめる魔法少女。なんだか胸がざわざわするのを感じた。
団地の近くで夜闇を煌々と照らすコンビニには、眠そうにしている店員以外、誰も見当たらなかった。私は店に入って缶ビールを大量にかごに入れる。それをカウンターに置くと、店員が口を開く。
「ねんれ……」
その瞬間、私は免許証を出した。私は幼い見た目をしているみたいで、良く誤解されるのだ。しかもここのコンビニの店員はコロコロ変わる。覚えてもらうのも難しい。
免許証を確認すると、店員は手際よくバーコードを読み取っていく。私はバイトで稼いだお金を財布からトレーに出した。お釣りをもらって、コンビニを出ていく。
夜道を歩きながら、少女のことばかりを考えていた。もしもあのコスプレ少女がまだ同じ場所で悩んでいるようだったらどうしよう。たった一人で闇をみつめるあの姿はただ事ではなさそうだった。声をかけるべきか、それとも無視するべきか。
だけれど答えは出なくて、気付けば橋までやってきていた。するとさっきの少女が倒れているのがみえた。私は恐る恐る少女に近づく。
思わず息をのんだ。
その白い肌は傷だらけだったのだ。痛々しく全身を傷付けられている。
ドレスもところどころが裂けていて、下着が覗いていた。
明らかに人につけられた傷ではないと直感した。私がコンビニに向かってからここに戻って来るまで大体五分くらい。その間にここまで全身を細かく傷つけるのは不可能だし意図も理解できない。顔からつま先まで、まんべんなく傷ついている。
だとしたら、この傷は一体……? でもただ一つだけ分かることもある。深夜の人通りの少ない橋の上に、こんな中学生くらいの女の子を放っておくわけにはいかない。
傷だらけの少女を背負うと、とても軽かった。意識のない人間は非常に重いと聞いたことがあるけれど、それでも軽いのだ。しかも死人のように冷たい。
慌てて首に手を当てると、力強く脈動していてほっとする。でも背中に触れた少女の体はやせ細っていて、腕だって枯れ枝のようだった。まともに食事もとっていないのかもしれない。
けがの治療もそうだし、なにか食べさせてあげないと。
私は急いで自分の家に向かった。
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