第28話
「さっきの話だと、その場所に行くためには、森の中に入らなければならないということですが、その『世界樹』とかいうものを取りに行こうとしている人達がいるということなんですか?」
「はい、その通りです。ですが、心配する必要はありません。彼等は、普通の人間ではありませんので」
普通じゃないってことは、やはり特別な能力を持っているんだろうか? それとも、別の何かなのか? まあ、どちらにせよ、その人たちに任せておけば何とかなるはずだ。
「なるほど、そういうことだったのですか。わざわざ教えに来てくださってありがとうございます。おかげで助かりました。早速、皆に伝えに行きましょうか」
しかし、その言葉を遮るようにして、彼女はこう言ってきた。
「いえ、ちょっと待ってください!もう1つ、大事なことを言い忘れていました!」
「えっ?まだ他にもあるんですか?一体、どんなことだと言うのですか?早く言ってください」
「わかりました。その前に、あなたは、この村の名前を知っていますか?できれば、それを答えてほしいのですが……」
「はい、知っています。この村の名前は、『ウルド』ですよね?それが、どうかしたんですか?」
「そうですか……やっぱり、そうなってしまいましたか……」
なぜかは知らないが、彼女は、ひどく落胆しているようだった。
一体、どうしたというんだろう? それにしても、彼女は、なぜ僕に村の名前を言わせたりしたのだろう? まさか、僕の口から真実を聞きたかったというわけでもないだろうし……。
そんなことを考えながら、僕は、彼女の次の行動を待つしかなかった。
しばらくすると、その女性は、再び真剣な顔つきに戻っていた。
そして、驚くべき一言を発したのだ。
「実はですね…………この村は、すでに滅びてしまっているんですよ」
「……えっ?」
その瞬間、僕は、自分の耳を疑ってしまった。
今、何と言ったのか……? 僕が、この村の生き残りではないとでも言うつもりなんだろうか? 僕は、目の前にいる女性に対して怒りをぶつけることにした。
「ふざけるんじゃない!!僕が、この村の住人じゃなかったら、一体誰がこの村の人間だというんだよ!?」
しかし、その女性は全く動じることなく、冷静な態度を貫いていた。
「あなたが、この村の人間でないというのは事実です。あなたは、この村の人間ではありません。正確に言えば、この村の人間だった者の子孫です。あなたは、かつてこの村に住んでいた少女の子供です。その証拠に、あなたは、この村の人間特有の名前を持っていないはずです。あなたは、ずっと『ユウト』という名前だけで育ってきているのだから……」
「……はぁ?」
あまりにも突拍子もない話に、僕は思わず呆気に取られてしまった。
「……何を言っているんですか?それなら、あなたの方こそ、この村の人間なんですか?違うのであれば、はっきりそうと言ってください!!」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の目が僅かに揺れ動いたような気がしたが、すぐに元の表情に戻った。
それから少し間を置いて、静かに口を開いた。
「私は、この村の人間です。ただし、今の私は、人の姿をしていますが、本当の姿は違います。本来の私は、植物の姿なのです。この村の人々からは、『世界樹ユグドラシル』と呼ばれています」
「へぇ~、世界樹ねぇ……。それで、その世界樹様とやらが、どうしてこんなところにやって来たっていうのかしら?」
「私にも詳しい事はわからないのですが、おそらく私の力を狙ってきたのでしょう。奴等は、私の力を手に入れて、自分達の力にしようとしているのかもしれません」
「ふぅん。」
「それで、皆さんは、これからどうするおつもりです?このまま村に留まるのか、それとも旅を続けるのか……」
「もちろん、留まるわよ。せっかくここまで来たのに、引き返すなんて絶対に嫌よ!」
「私も同じ意見だ。だが、ここから先は今まで以上に危険度が増すと思うぞ。それでもいいのか?」
「当然よ!だって、目的を果たすまでは帰れないでしょ?」
「それもそうだな……」
「それでは、これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
こうして、僕らの旅に新たな仲間が加わったのであった……。
それから数日後、僕達は、無事に目的地である『世界樹』が存在する森へと辿り着いた。
森の入り口には、門番らしき人物が立っていた。
「止まれ!この森は、世界樹を守る森だ。許可証を持たない者は通さん!」
「すみませんが、そこを通してくれませんか?私たちは、世界樹に会いに来たんです」
「何だと?世界樹様に用があるだと?そんな事を言っても無駄だ。世界樹様は、我々人間には会う気など無い。さっさと立ち去れい」
「そんな……困ります。私たちには、どうしても会わなければならない理由があるのです」
「うるさい!!お前たちのような怪しい連中を世界樹様の元へ行かせる訳にはいかん!!」
「くっ……仕方がない。力ずくで突破しよう」
「ちょっと待ってください。私がなんとか説得してみせます」
「でも、どうやって?」
「任せておいてください」
「ふんっ。小娘風情がなにをどう説得するというのだ?」
ユグドラシルはある宝石と首飾りを門番に見せる。すると、いままで高圧的だった門番がみるみるうちに顔色が悪くなり土下座してしまう。
「これは失礼しました!あなた方は、世界樹様のお客人でしたか!それならばどうぞお通りください!」
「ありがとうございます。それでは」
「はい!ごゆっくりとおくつろぎください!」
「……何なの?あの態度の違い……」
「まあ、とりあえず良かったじゃないか」
「ええ、そうね……」
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