第147話 包囲網

 今日も討伐の仕事。

 寒川さむかわのことが気になって気もそぞろだ。

 幸い、リスポーン地点はかなり減ってるから、モンスターの襲撃も少ない。

 予定のノルマを終えたので、事務所に引き上げる。

 シャワーを浴びて、リラックスした状態で、ビールを飲みながらワイドショーを見た。


 寒川さむかわは首相官邸に引きこもっている。

 国会にも欠席してる。

 総理大臣の職責を果たしてないと、野党が責め立てているが、寒川さむかわは何かを待っているらしい。


「首相官邸前からリポートします。ここは寒川さむかわ総理の支持者で溢れかえっています。あっ、特捜部の車でしょうか。警察車両が入ってきました。ですが、支持者が人間の壁となって車を阻んでいます」


 こんなの公務執行妨害で逮捕したらいいだろう。


「現場は大変混乱しているようですね」

「はい、怒号が飛び交ってます」

「捜査に詳しい、与野よのさん。捜査は今後どのような展開を見せるでしょうか」

「汚職事件の立件が突破口だと思われます。門沢かどさわメモがどれだけの証拠となるかが焦点です」


 まだ事態は動かないようだな。

 魔力銀行に行って魔力を買うか。

 備えは大切だからな。


 今日のレートは1MPが287.1円か

 あれっ、かなり上がっているな。

 前に1億円買ったときは、1MPが67.4円だったぞ。


 何かあったのかな。

 聞いてみるか。


「レートが上がっているけど何で?」

「自衛隊が魔力の大量購入をしたためです。ダンジョンを魔力充填機にして、値段は下がる一方だったのですが、ここに来て上がりました」


 自衛隊というと新しい武器を開発しているのかな。

 何も一括購入しなくても。

 値段が上がらないように、少しずつ買えばいいのに。

 まあ、そういう所がお役所仕事なんだな。

 民間だと経費節減は主要テーマだ。


 冒険者協会に行くと、魔石の値段が高騰してた。

 こっちも自衛隊が大量に買い上げたらしい。

 魔石の値段が上がると殺処分事業が儲かっていいのだけど。


 軍畑いくさばた区長の所にもお邪魔する。


「妙だ。寒川さむかわが急きょリサイクル事業を始めたらしい。区にもゴミを集めて送ってくれと要請が来た」

「へぇ、人気取りかな。政権が危なそうだから」

「分からん。だがゴミが少なくなるのは良いことだ。反対は出来ん」


 事務所に帰るとまだ寒川さむかわの番組をやってた。


門沢かどさわさんの死に疑問を抱く人が多数いるのですよ」

「自殺ということになってますが」

「再捜査のメスが入るようです」

「殺人だとなると、これは大変なことになりますよ」


 門沢かどさわさんの遺体は荼毘にふさないように、娘さんに言ってある。

 司法解剖のやり直しも出来るはずだ。


 いよいよ、寒川さむかわ包囲網が構築されてきた。

 御嶽みたけ青年の出番だな。

 霊の声を聞くことができる。


門沢かどさわさんの霊と話してくれ」

「はい、【スピリチュアリズム】。何を聞きたいですか」

「死んだ時の様子を聞いてくれ」

「はい、死んだ日は総理に車を出してくれと言われて、別荘まで行ったそうです。別荘に入ったら首を締められて、後は分からないそうです」

「となると、暗夜十人衆のワイヤー野郎の仕業だな」


 ただ、証拠がない。

 ワイヤーに門沢かどさわさんの皮膚とかのDNAが残ってないかな。

 俺は警察に情報提供した。


 しばらく経って、軍畑いくさばた区長から電話があった。

 ワイヤー野郎のワイヤーからDNAが出たらしい。

 ただワイヤー野郎は黙秘してる。


御嶽みたけ君、すまないがワイヤー野郎に殺された霊を集めてくれ」

「いいですよ」


 霊から、ワイヤー野郎の情報を集める。

 本名から住居まで判明した。

 ワイヤー野郎にストーカーしてた霊がいたからだ。


 警察に分かった情報を伝える。

 住居が分かれば色々と分かる。

 金とかもらっているはずだからな。

 預金通帳とかにその証拠があるはずだ。


 現金取引という可能性もあるが、予定をメモしたりしてる可能性もある。

 何か証拠が出るはずだ。


 寒川さむかわ逮捕は時間の問題かな。

 だが、官邸に立てこもっているのが不気味だ。

 何を考えているのやら。


 捜査に圧力を掛けているらしいが、政権基盤も揺らいでいるので、その力は減っている。

 与党にも敵対者はいる。

 そういう人が捜査を後押ししているみたいだ。

 駆け引きなんだろうが、ちょっともどかしい。

 スパッと逮捕ってわけに行かないのかな。

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