第142話 位牌

 今日は討伐が休み。

 門沢かどさわさんはダンジョンの部屋でゆっくり休めただろうか。

 インターホンを鳴らす。

 返答がない。

 くっ、刺客が来たのか。

 しつこくインターホンを鳴らす。

 そして、何でもないかのように扉が開いた。


「おはようございます」

「おはよう。出ないから心配しちまった」

「ああ、芽生えたスキルを使ってたのです。レミニセンスというスキルで過去のことが見られるんです。さっきも無き父と母の生前の姿を見てました」

「へぇ、それは、他人にも使えるのか?」

「ええ、スキルを調べてくれた香川かがわさんに試しましたけど、他人も思い出せるらしいです」


 思い出し屋とかやったら儲かりそうだな。

 過去の記憶をまた見たいという人はいるはずだ。


 あれっ、これで鍵の在りかが分かるんじゃないかな。


「俺にスキルを掛けてくれ。門沢かどさわさんの家に行った日のことだ」

「いいですよ。【レミニセンス】」


 おお、あの日だ。

 扉を開けられて中に入る。

 仏壇のある部屋に案内されてお線香をあげる。

 ちょっと待て、なんで位牌がない。


 俺はスキルを中断した。


「位牌は? 位牌はどうなっている?」

「位牌なら机の上にあります」


 机の上には白木で出来た位牌が載っていた。

 たしかに位牌だ。


「お線香を上げに行った日には無かったよな」

「ええ。この位牌は葬儀屋さんから昨晩届きました」


 あれっ、位牌ってそういうものだったかな。

 何かおかしい。


「位牌って黒いのじゃなかったか」

「これは野位牌ですよ。黒塗りのは本位牌です」

「お母さんの位牌は?」

「母やお爺ちゃんやお婆さんの位牌は、一つの位牌に纏まってます。本来、位牌って死んだ人の人数分あるみたいですが、ひとつにできるのですよ」

「詳しく説明してくれ」

「繰り出し位牌って言うんですが、ひとつの位牌に板が何枚も入っていて、その板の一枚ずつに戒名が書かれてます」

「じゃあ、お父さんの戒名もそこに加わるわけだ」

「ええ」

「その繰り出し位牌はどこに?」

「お寺のお坊さんに預けてます。父の戒名を加えないといけないので」

「それだ。鍵は位牌の中だ」


 お寺にタクシーで駆け付ける。

 お坊さんに位牌を返してもらう。

 位牌上部の蓋を開けると何枚も白木の札が入っていた。

 使ってない札の一枚に鍵がはめ込まれていた。

 そして銀行の名前が。

 貸金庫の鍵だろう。


 位牌の中にあったとはな。

 考えてみれば、死ねば必ず開けて確かめる人が出てくる。

 隠し場所としてぴったりだ。


 銀行に急いで、隠し金庫を開けて貰う。

 裏帳簿や、賄賂の証拠がたくさんあった。

 ただ、ざっとみたところ、裏帳簿はともかく、賄賂は寒川さむかわのものではなかった。

 子飼いの議員のだ。

 寒川さむかわ証拠もどこかにあるに違いないが、おそらく門沢かどさわさんはその担当ではなかった。

 そう考えるのが自然だ。


 銀行からの帰り道。

 道路に人が立っていた刺客だな。


 おそらく銀行から連絡が行ったのだろう。

 門沢かどさわさんがここの隠し金庫を使っていたのを知っていたに違いない。

 あり得ることだ。

 ただ、ここに証拠があるという確証がなかったから、銀行強盗もしなかった。

 今日俺達がのこのこと来て分かったということなのだろう。


 タクシーがブレーキを踏んで減速、クラクションを鳴らす。

 路上の刺客は、こっちに駆けだして、タクシーにショルダータックルをかました。

 タクシーごと吹き飛ばされる俺達。


 幸い俺達に怪我がなく、タクシーは止まった。

 くそっ、万事休すか。

 シートベルトを外してタクシーから出る。


 その時、銃声がして刺客が吹き飛んだ。

 藤沢ふじさわが歩いて来た。


「銀行に行くという連絡を貰った時に嫌な予感がして。みんなと狙撃ポイントを潰して回っている最中だったんですよ」


 ああ、番田ばんださん辺りが刺客を見つけて狙撃したわけか。

 おっと、証拠隠滅しないとな。

 刺客の傷口にポーションを掛ける。

 傷口は治った。

 服の穴は塞がらないが、すっとぼけるに限る。

 どうせ刺客は何も喋らない。


 タクシーの運ちゃんの証言もあるから、タクシーに襲撃を掛けたのは明らかだ。

 運が悪ければ死んでた。

 殺人未遂が成り立つ。

 何年か刑務所に行ってこい。


 さて子飼いの議員を虐めるとしようか。

 子飼いの議員はみんな政府の要職に就いている。

 寒川さむかわにも大打撃のはずだ。

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