第109話 ひとつの結末

 討伐の時間が救いだ。

 色々なことを忘れられる。


 今回の討伐はエンペラータランチュラ2体だった。

 でかい蜘蛛なんか目じゃない。


 ハチの巣にしてやった。

 宝物は金剛糸。

 2回目だが、異世界ではありふれた品だったのだろうな。

 糸と針があれば簡単な修理が出来る。

 討伐の必需品だったに違いない。


 次の討伐はカイザーウルフ3体。

 やはり苦戦はしなかった。


 宝物はカモシカの足。

 これはいくつあっても良い。

 滑らなくてフットワークが軽くなるとというのはかなり良いアイテムだ。


 さて、パラダイスサイバーの被害者訪問に行きますか。

 今回はダンジョン転移移動を使う。

 これを使うのは何気に初めてだ。


 ゲートがあって係員がいる。

 この転移は大阪行きだ。


 青いランプが灯ってゲートが開く。

 俺と修復士の老人はゲートから転移罠の範囲に入った。

 一瞬で背景が変わる。

 やはりゲートがあって、それが開いたので外に出る。


 ゲートは閉まり、また別の人が転移されてきた。

 儲かっているようで何よりだ。


 被害者は公民館に集まっていた。

 彼らが修復士に救われるのを見て、この何割かはまたパラダイスサイバーを使用してしまうのだろうなと思った。


「高校生まで記憶を巻き戻してくれへんか」


 中年の男性がそう言葉を漏らした。

 大人になってからの辛い記憶を忘れたいのか。

 修復士の老人が困っている。


「物というのは使い込むと良い風合いが出てくる。年月の重みだ。これは得たくても得難い物だ。修復して綺麗になるのもそれはそれで良いが、やはり年月の風合いは何事にも代えがたい」


 修復士の老人がそう言った。

 被害者は納得したのかどうか、黙って考えこんでいる。


 もっとも高校生まで巻き戻したら魔力がたくさん掛かる。

 多くの人達を救いたい俺としては許可できない。


 帰りは新幹線だ。

 座席に座り考える。

 望みの年齢まで巻き戻して、救ってやった方が良かったかなと。

 苦しみや喜びや、色々な記憶というのが人間の風合いを醸し出す。

 となるとやっぱり高校生まで記憶を巻き戻すのは間違っているのか。

 修復のことは分からないけど、やたら手を加えれば良いとは限らないのかもな。

 人間も同じか。


 事務所でテレビを点けると、国会議員が、パラダイスサイバーを取り締まれるように法律を作ると言ってた。

 遅いよ。


 SLE社が記者会見するらしい。

 宮山みややま社長が記者の前に座っている映像になった。


「お集りの皆さん、被害者の方々、この度はご迷惑をお掛けしましたこと大変申し訳なく思っています。すいませんでした」


 社長が深々と頭を下げた。

 一斉にフラッシュが焚かれる。


「パラダイスサイバーに関しましては、当社の尻手しって専務が開発や販売全てのことを行っておりました。とうぜん彼は開発した時から副作用に関して把握していたはずです。残念ながら私の所には情報は上がってきませんでした」


 トカゲの尻尾切りだな。

 その時、よれよれの男が現れてナイフを出した。

 良く見ると男は尻手しって元専務だった。


「俺を生贄にしようなんて許さない」


 そう言って尻手しって元専務は宮山みややま社長に何度もナイフを突き立てた。

 悲鳴が上がって、カメラの映像が止められた。


「大変なことになりました」


 スタジオのアナウンサーが興奮した様子で喋っている。

 この結末は俺も予想してなかった。

 結果的に俺が引き金を引いたのかな。

 何かしら責任を取らなくてはいけない気がした。


 SLE社を買収しよう。

 そして、経営を立て直し、利益をパラダイスサイバーの被害者救済に充てるのだ。

 それが俺のやるべきことだなと思った。

 電話が掛かってきた


『先輩、もう俺この会社でやっていく自信がありません』


 辻堂つじどうだった。


「もうしばらく辛抱してくれ。なんとかする」

『ほんとですか。信じてますから。じゃあ取引先からの電話が鳴りっぱなしなんで切ります。絶対に来てくださいよ。待ってます』


 そりゃ社長が刺されれば、大変だろうな。

 あの感じだと助からないみたいだった。


「先輩、大変なことになりましたね」


 一緒にテレビを見てた藤沢ふじさわがそうしみじみと言った。


「何となくこんなことになるんじゃないかと。予想では尻手しって元専務が暴走して終わりだと思っていたが」

宮山みややま社長が巻き込まれましたね。あの人は冷静な策士タイプでしたけど、尻手しって元専務の心情を読めてなかったようです」

「もっと庇ってやれば違う未来だったのかもな」


 今回の事件の一端は俺にも責任がある。

 収拾には全力を尽くそう。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               17,564万円

上級ポーション2個             608万円

彫像10体                  10万円

弾丸製造                  500万円

魔力買い         522万円

金貨26枚                 299万円

聖水                    112万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            522万円 19,093万円 18,571万円


パーティ収支メモ


              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               44,741万円

エンペラータランチュラ2体         176万円

カイザーウルフ3体             153万円

弾丸60発          6万円

弾丸用魔石        150万円

付与魔法依頼        50万円

魔力買い         256万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            462万円 45,070万円 44,608万円



ファンド収支メモ


俺の出資1250口       125億円

客の出資7645口       764億5千万円


              支出       収入        収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               175,154万円

カイザーウルフ60体           4,500万円

ドッペルオーク12体             600万円

シャーマンオーク12体            720万円

エンペラータランチュラ12体       1,056万円

メイズスパイダー12体          1,020万円

エレファントスレイヤー12体       1,440万円

オーガ96体               5,280万円

弾丸製造                   500万円

酒                       12万円

転移輸送                   807万円

最下級ポーション               529万円

くず鉄20トンほど              203万円

シャイニングストーン           1,214万円

人件費、諸経費   38,189万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計         38,189万円 193,035万円 154,846万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -48億円

出資金          125億円


 ミスリルのシャツが2階層から出た。

 俺の私物にすることにした。

 同じく2階層から出た聖水は売ることに、実は前の聖水は売らないで密かに保管してある。

 御嶽みたけ青年には内緒だ。


 俺達の装備は。

俺 追憶のペンダント 不眠の冑 剛力の籠手 モノクル 身代わり人形 祈りの像 ミスリルのシャツ カモシカの足

藤沢ふじさわ 巧みの手 俊足のブーツ 力の腕輪 魅惑の香水 反射の胸当て

上溝うえみぞ 巧みの手 俊足のブーツ

番田ばんだ 不動の盾 猫の爪 堅固の胴鎧

拝島はいじま 祈りの像 足捌きの脛あて 鷹目の冑

御嶽みたけ 幻影のネックレス 耐衝の胸当て カモシカの足


キープ 亜空間収納 千里眼の目隠し 身隠しのマント 変装の仮面 スキル鑑定の杖 反射の盾×2 衝撃の盾

    浮遊の靴 収納の壺 蛸の手 眠りのオルゴール 金剛糸×2 オリハルコンの縫い針


 足回りが揃ってきている。

 想像なんだが、死んだ冒険者の装備で壊れていない物が、足回りに多いのだろう。

 やはり胴体や頭は被弾する率が高い。

 武器も強敵なら壊れるだろう。

 そんな気がした。

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