第61話 夢

「新入社員の藤沢ふじさわです。本日からお世話になります。ご指導よろしくお願いします」


 そう言ってまだ初々しいグレーのリクルートスーツに身を包んだ女の子が頭を下げた。

 ああ、夢か。

 そんなこともあったな。


戸塚とつか、お前が指導してやれ」


 尻手しっての野郎が偉そうに命令した。


「分かりました。じゃあ、ついて来て」

「はい」


 空いているデスクに案内する。


「この席を使って。とりあえず備品置き場から新品のパソコンを持って来て、ソフトのインストール。今日はそこまでできたら終わりだ」

「はい」


 俺と藤沢ふじさわは備品置き場から新品のパソコンを持って来て、箱から出して机の上に置いた。

 ソフトのインストールはエラーさえでなければ見ているだけだ。


「インストールしている間にソフトの使い方のマニュアルを読んで。でインストールでエラーが出たら俺を呼んで」

「はい、先輩」


 俺はテキパキとインストールして、自分のデスクに戻った。


 そして、何日か後。


「大変だ。納品した製品にバグが出たぞ。システムが止まって得意先がカンカンになっている。一刻も早く原因を突き止めるんだ」


 同僚がメールを見て大声で報せた。

 さあ、大変だ。

 俺は担当部分のチェックに入った。

 ざっとみた感じ大丈夫だ。

 問題のデータでプログラムを走らせる。


 止まったな。

 原因はどこだ。

 プログラムの途中にログを吐き出すプログラムを入れる。

 大体、原因が分かった。


 藤沢ふじさわの担当箇所だ。

 藤沢ふじさわのプログラムを解析に掛かる。

 止まった箇所のデータからプログラムの動きを推測。

 分かったぞ。

 ふぃー、なんとか1日の徹夜でなんとかなった。


「バグが分かったぞ。お疲れ」


 バグを修正、バージョンアップ作業をして終わったはずだったが。


「取引先が契約を打ち切ると言っている」


 同僚の青い顔。

 この後の展開も知っている。


「言いたくはないが。藤沢ふじさわ、お前教わった通りにやらなかっただろう」


 藤沢ふじさわを責める同僚。


「すみません。テストデータでの確認を怠ってました」

「すみませんで済んだら、警察は要らないんだよ。学生気分でいられたら迷惑だ」


 藤沢ふじさわが涙目になっている。


「すまんな。責任は俺にもある。指導する役目だからな。今から二人で取引先に行って謝ってくるよ」

戸塚とつかさんがそういうなら」


 俺と藤沢ふじさわは取引先に行って担当者に会った。


「すみませんでした」

「すみません」


 二人で頭を下げる。


「聞いたぞ。初心者がやるようなミスだってな」

「すいません、新入社員なんです」

藤沢ふじさわ


 俺は藤沢ふじさわを抑えた。

 言い訳するとこういうのは駄目だ。


 俺はバグが起きないための対処方法を説明した。

 だが、相手は許すとは言わない。


 仕方ない。

 切り札を切るか。


「すみませんでした」


 俺は土下座した。


「先輩」


「もういいよ。次はなしだからな」


 帰りに喫茶店に寄る。


「失敗は誰にでもある。リカバリーできないこともあるけど、それも経験だ。失敗したことを忘れなきゃいい」

「はい。先輩が私のために土下座してくれたこと忘れません」

「そっちは忘れてくれた方が良い。頼む忘れてくれ」

「ふふふっ」

「やっと笑ったな。落ち込んでばかりいられないぞ。次の仕事が待っている」

「はい、先輩」


 こんな落ちだったな。

 肩を揺すられて起きた。


「すまん、うとうとしてた」

「忙しいから仕方ないですよ。なんだか嬉しそうですね」

「昔の夢を見ていた。藤沢ふじさわが新入社員の頃のだ」

「ひょっとしてあれですか。土下座してくれた件」

「良く分ったな」

「新入社員の時に強烈な思い出といったらあれですよ。あの一件で先輩が好きになりました。ひとつ気になっているのですが、私に土下座を求めなかったのは何でです?」

「指導係だったからな。それと女の子に土下座させたなんて事になったら、俺は自分を許せない」

「そうですか」


 ええとメールが来ているな。

 白丸しろまるの信用調査の結果だ。

 詐欺の前科があるじゃないか。

 調査しておいて良かったぜ。

 こいつは詐欺師だ。

 危うく犯罪に巻き込まれるところだった。


 白丸しろまるの事務所に、部屋の用途は既に決まっているので空きが無いと断りの電話を入れた。


 ボス部屋だった所だが、コンビニにすることにした。

 工事が始まった。

 と言っても配線と床を張るだけだが。

 トイレも一応作ったが、こんなのはすぐだ。

 完成は6日後だ。


――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               29,846万円

上級ポーション3個             915万円

彫像10体                  10万円

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

コンビニ開業費用     300万円

コンビニ改装     2,000万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計          2,300万円 41,107万円 37,807万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  110億円


 コンビニは別会社になっている。

 ダンジョン関連事業とは言い難いからな。

 俺はオーナーという立場でノータッチにするつもり。

 仕事は全部、雇った店長に丸投げだ。

 儲けは俺の小遣いかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る