第48話 盲目のカイザーウルフ

 大船おおぶねさんから無線が入った。


『急がなくても良いぞ。まだ手は出していない。ただ相手の能力が分からないだけだ』

「了解、すぐに行きます」


 駆け付けると、大船おおぶねさんは部屋の外にいて、カイザーウルフを観察していた。


「この個体なら知ってます。24時間配信してた個体ですから」


 藤沢ふじさわが何か知っているようだ。


「情報共有と行くか。俺の見立てじゃ目が見えない」


 それは俺にも分かった。

 目を開けてないからな。

 細目という可能性もあるが違うと思う。


「そうです。でも歩いていて壁に当たった事はないんです」

「匂いかな。狼型は鼻が良いから」


 俺がそう言うと。


「いや、それだけじゃねぇ。嫌な予感がする」


 大船おおぶねさんが意見を述べた。


「ここで話していても埒が明かない。部屋の外から、俺がリフォームスキルで一当てしてみます」

「それが良いかもな」


「じゃあ、早速。【リフォーム】槍」


 見事なまでに避けられた。


「ふむ、槍の穂先が地面からでる前に行動してたな。予知か、とにかく感知系の能力だ」

「何でしょうね」


「感知から外れた攻撃しか通らないんですよね。じゃあ面で押しつぶしたらどうです」


 藤沢ふじさわは範囲攻撃をすべしか。

 うーん、魔力から考えるに、面だと剣山かな。

 でも避けられそうな予感。


 外からなら命はかかってない。

 やってみるか。



「【リフォーム】剣山」


 うん、範囲外へ綺麗に避けられた。


「逃げ場が無くなれば仕留められます」

「追い詰めると通路に出てくる可能性がある」

「俺もそう思うぜ」


 感知をかいくぐる攻撃か。

 とりあえず色々と攻撃だ。


「スタングレネード投げます。3、2、1、今!」


 音と光が溢れた。


「キャイン!」


 おや、攻撃が効いたぞ。

 予知ではなかったらしい。


 俺が何か言う前に、大船おおぶねさんが動いた。


「【ストレングスアップ】、【シャープエッジ】、【スラッシュ】。くっ、避けやがった」


 ええと何かがおかしい。

 スタングレネードは効いて、他の攻撃は駄目か。

 俺はナイフを投げた。


 ヘロヘロのスピードのナイフはカイザーウルフに当たった。

 カイザーウルフにダメージはないが、なんでわざわざ当たったんだ。

 ちょっと避ければ良い。


「分かったぞ」


 大船おおぶねさんが剣を薙ぎ払い、見事にカイザーウルフにダメージを与えた。

 それからは大船おおぶねさんの一方的な攻撃だった。


「結局どういう能力なんです?」


 死骸を前に俺は疑問を口にした。


「スキルを感知する能力だな。スキルでの攻撃はまず通らない。スキル無効化と言ってもいい」


 俺の天敵のような能力だ。

 スキルに頼らない攻撃が欲しいな。

 あとで考えよう。


 ひと仕事が終わったので、コーヒーを飲みながら掲示板を見る。


【スタンピードでオワタ】ダンジョン掲示板86


887

おい冒険者協会の張り紙を見たか


888

どの張り紙


889

ダンジョンの分譲販売だ

なんと補填の条件が変わっている

https://○○○○.jpg


890

損害が100億までは補填なしか

だがスタンピードの規模は読めない


891

博打を打つにしても確率アップしたってことだよね


892

リスクが釣り合えばファンドとかが黙っていないんじゃないか


893

ファンドが出て来たら終わりだよ

旨味なんかなくなる


894

じゃあお前が投資してみろ


895

投資は出来ないな


 掲示板を見て、ポスターを貼り換えたのを思い出した。

 幸先よく、電話が掛かって来た。

 投資家が部屋を借りたいらしい。

 会うことになったが、どうなることやら。


 相手はサングラスをして、高級ブランドのスーツを着た男。

 白丸しろまるというらしい。


「部屋を借りたい。家賃200万円で月に600万円儲かるんだよな」

「はい」

「空いている部屋を全部借りよう」


 俺は白丸しろまるに胡散臭いものを感じた。


「いろいろと事務手続きがあるので、契約はしばらく待ってもらえますか」

「なるべく早くお願いする」


 俺は興信所に電話して男の身元を洗ってもらうことにした。

 モンスター相手にするようになって勘が磨かれた気がする。

 生死の境をくぐり抜けると、勘が鋭くなるんだろうか。

 今回はこの勘に従おう。

 石橋を叩いて渡るのは悪くない。


――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               35,432万円

依頼金          100万円

上級ポーション3個             909万円

彫像10体                  10万円

カイザーウルフ60体          6,000万円

個人信用調査        15万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            115万円 42,351万円 42,236万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  100億円


 窒息死させたカイザーウルフの毛皮は評判がいい。

 傷がないからだ。

 物好きな人だとはく製にするんだとか。

 トラより大きい狼のはく製は迫力があるから分からなくもないが、夜に子供がトイレに起きて漏らすような気がする。

 飾ったりするのは、たぶん豪邸なんだろうな。

 トイレに行くのに応接間を通ったりはしないのだろう。


 はく製は動物保護団体がまた騒ぎそうだな。

 元からいる野生動物ではないのにな。

 どちらかと言えば外来危険生物だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る